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優しさの表と裏

彼はよくモテた

小学生の頃は運動神経の良いやつがよくモテて、中学生にもなると運動神経が良いやつと、頭の良いやつがモテるようになった。そして、女生徒に対して優しいやつは、いつの時代もよりモテた。

彼は、成績は学年でも一桁順位の成績優秀、バスケ部ではエースとして選抜のキャプテンにも選ばれた。当時の身長は174㎝、体重58㎏、顔は中の上。

何故か他の中学校にも名前は知られており、練習試合の帰りの電車の中で、他中の女生徒達から、「O・K・A・D・A、オカダ!」とよくわからない声援をもらっていた。


なにより彼は、誰に対しても優しかった。


高校は地元の進学校に進んだ。近場の中学校から、進学に興味のある生徒が集まるような高校だった。

そこでも彼の名前は知られていた。変わらず成績優秀、バスケ部では1年生ながら3年生の試合に出ていた。当時の身長は175㎝、体重60㎏、顔は中の上。理系クラスは、購買まで行くのに他の全クラスの前の廊下を行く必要があるのだが、彼が歩くと、教室から顔を出してキャッキャしている女生徒が何人もいた。


そこでも彼は、誰に対しても優しかった。


月日が流れ、成人式で久々に彼に会うことがあった。成人式でお偉い方々の話が続くなか、各中学校の思い出ムービーが上映され始めた。僕らの学校の動画が圧倒的にクオリティが高く、面白かった。それも彼が作ったものだった。成人式実行委員としてムービー制作担当になっていたらしい。

成人式が終わり、僕らの学校は、学年全体がひとつの宴会場に集まる形で1次会が行われた。総勢200人程の宴会である。その全体幹事も彼が担当していた。

2次会、3次会と続き、カラオケでオールすることになった。他の中学校も併せって、カラオケ屋はてんやわんやしていた。酔い覚ましで外にでると、彼も酔い覚ましなのか、外の駐車場の端っこに座っていた。


「オカダくん、お疲れ様。幹事とか色々ありがとうね!」

「あぁ、お疲れ様。いやいや、みんな参加してくれて嬉しかったよ、ありがとう。」

そう言う彼は、ちょっと疲れているように見えた。


「オカダくんはすごいね、昔からなんでもできて。それに優しいし、そりゃモテるよね」

何か会話をしないとなと思い、特に深く考えず、でも、ちゃんとした本心であるそんなことを言った


「みんなそうやって言うんだよ。別に何もすごくないし、もっとすごい人はいっぱいいるのに。」

不貞腐れているというよりは、どこか寂しいと言っているように聞こえた



「そうかもしれないけど、でも、やっぱりオカダくんはスゴイと思うよ!それに何よりも、優しいじゃん。だからモテるんだよなぁ~。オレも優しいと思うんだけどなぁ。」

「優しいか。人に優しくするのってね、エネルギーの使わない、すごく単純な行動なんだよ。実は、叱ったり知らぬふりしたりする方がよっぽどエネルギーを使う。僕は、そんな疲れることしたくないから、誰にでも同じように優しくするんだ。でもそれって全然優しくないよね(笑)。だから、僕は優しくないよ。」

目の前に落ちている小さなごみを手の中に拾いながら、優しくないことをとても優しい口調で話している。


「よく、誰にでも優しい人は本当に優しくない、って言われたりするでしょ。あれを聞くたびにすごくツラくてさ。さっきは、そんな疲れることしたくないって言ったけど、本当はその本当の優しさってのがよくわからないんだよ。誰にでも優しくすることしか、相手との接し方がわからないんだ。これって冷めてるってことなのかな。僕、冷めてるんだよ、きっと。優しくしか接することができない、冷めたやつ。だから、僕は全然優しくないよ。君の方が、僕に話かけて労ってくれて、優しいね。」

オレは少し驚いた。順風満帆に見えていた彼は、こんなひねくれたことを考えていたのか。全然知らなかった。


「それにね、僕たちもうハタチでしょ。いっぱしの大人で、卒業してから何年も経ってる。その間、僕はこれまでの勉強や部活よりももっともっと努力してきたんだ。自分がやりたいことのために。それはまだ芽は出ていないんだけど。。。ただ、努力はしてきた。それなのに、みんなは僕を過去の僕としかみないんだ。それで、すごいねって。過去の遺産で生きているような自分がとても嫌で、そして、努力している今の自分には目もかけてくれない不甲斐ない自分も嫌なんだ。なんか、ごめんね。」

オレはどんな言葉をかければよいのかわからなかった。ただ、胸に引っかかっていたモノをこぼした。


「それでも、オカダくんに優しくしてれた人はきっと喜んで、感謝してるよ。優しさに気持ちってそこまで必要ないのかもよ。だって、相手が喜べばそれでいいじゃん!オレは、オカダくんが優しくしてくれたときは、嬉しかったから。」


「うん、ありがとう。そうだよね、それでも僕は優しく接することは止められないし、努力も止められないんだ。優しさの裏にある気持ちはもしかしたら伴っていないかもだけど、喜んでくれるなら僕は変わらず優しく接するよ。努力も、決してすぐに表に出るものではないけれど、そのときのために僕は努力を続けるよ。ありがとう!」




これが、僕にとっての大切な話

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