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サーチ・サーチ・サーチフォーユー!

サーチ・サーチ・サーチフォーユー!
「問題です。観光客が非公認のガイドを伴って、アンダーに降りようとしているのを見かけました。こんな時どうしますか?ポイント4倍点です。」
シノノメ・ハイスクールの大型ホール。数百名に及ぶ生徒が『観光学』
の授業中だ。
巨大ホログラムスクリーンには建造途中の五重塔や、微笑むオイランの映像。


「ハイ」
「ソメヨ=サン、ドーゾ」
「まず、そのガイドが非公認だと知っているのか確認します。その上でキョート観光省公認ガイドを薦めます」
「アイエエエエエッ!?レ、レイジ=サン??」
模範的な解答に、ガスマスク越しの少女の悲鳴が響き渡る。
「ヨモギ=サン、何ですか?発言なら挙手をしてください」
「ア、ア、何でもナイデス・・・」

「だいぶ出来ています。ソメヨ=サンにボーナス8点進呈します」
「ワースゴーイ!」「サスガ!」「それに比べて・・・」「ダメよ。笑っちゃ」
ソメヨには賞賛、ヨモギには嘲笑が集中する。


「このように観光による財源が、我がキョート共和国の独立を支えてきたのです」

一見、ピンと背筋を伸ばして教師の話を聞き入っているが
生徒達はサイバーサングラスの網膜ディスプレイに写された画像に夢中だ。

被写体は、少女・・・いや、フリソデドレスを着ている少年。
唇を噛み締め、眇めた目でレンズを睨んでいる。
マイの途中なのか開いた扇を手に、クセのある髪が流れる瞬間の写真。

本当にナブナガなの?>>ホントにオイラン!カワイソウ>>絶対学校外に画像出すなよ。進学に差し支える>>>>こんな人と同級生なんて恥ずかしい>>

「レイジ=サン・・・」

「チョット、ヨモギ=サン!ソメヨ=サンが答えてるときに大声出すのナンデ!?」
「嫌がらせのつもり!?ソメヨ=サン、カワイソウ!」
授業が終わり、足早に帰ろうとしたヨモギは隣のクラスの女子二人に捕まった。
学園のクィーンであるソメヨの取り巻きだ。

「ゴ・・・ゴメンナサイ・・・そんなつもりじゃ」
「ソメヨ=サンに謝りなさいよ!」
「ソーヨソーヨ!」 

「そんなに大声をあげちゃ駄目よ」
女王たるソメヨはゆっくりと、ヨモギに近寄ってくる。艶を抑えたリップはムラサキシキブ化粧品の限定カラー。

「ヨモギ=サン、カワイソウ!カレシのナブナガ=サンがあんな風になって」
「レ、レイジ=サンはカレシじゃないです・・・」
「スゴイ・オニアイだったじゃなーい」
「ヨモギ=サンもオイランになれば?カレシとカノジョでオイランとか面白―い!」
オーダーメイドの水牛革ウワバキが容赦なくぐりぐりと、ヨモギのつま先を踏みつける。
「い、痛いです・・・」
「いやだわ、ヨモギ=サン。それじゃあわたしがあなたに意地悪して、暴力を振るってるみたいじゃない」
「ソメヨ=サンに謝りなさいよ!ヨモギ=サン!」
「ソーヨ!」

なんたる欺瞞か!実際ヨモギは暴力を振るわれているのだ。
だがヨモギは抵抗という言葉さえ思い描けない。スクールカーストは卒業後も続くこの世界そのものなのだ。

「ソメヨ=サン!どうしたの?」
長身の男はヤブサメ部のウエダだ。
「うちのクラスのフリークが何かした?」
言いながらウエダはソメヨを引き寄せる。30センチ上から鋭い目がヨモギを睨みつけた。

「フリークなんて言ったらカワイソウよ。ヨモギ=サンとお話してたの。カレシのナブナガ=サンがカワイソウだって」
「ソメヨ=サンは実際ブッダエンジェルだなあ!」
「モーヤメテよ!これからウエダ=サンの家に行っちゃダメ?」
「今日はイダ=サンのお見舞いに行くんじゃないの?」
「男の子のお見舞いに何を持って行ったら良いのかわからなくて。ウエダ=サン、教えてくれない?」
ソメヨはさりげなくウエダの逞しい腕に手を絡めた。
「やっぱりソメヨ=サンはブッダエンジェルだ!」
「モー、ヤメテよ」
ソメヨもウエダも取り巻きも。もうヨモギが存在なんかしていないようだ。

ひときわ大きな電子笙音
『部活動・委員会以外で校舎に残っている生徒は、すぐに下校しましょう。指定以外の通学路や交通機関の使用は禁止されています。アッパー・ガイオンの学生としての誇りと自覚を持って・・・』
オコト・オルゴールが響く

漆塗りの箱舟めいた校舎は、いつの間にか夕闇に包まれていた。
折られたのをテープで修復した模造刀を差すと、とぼとぼと歩き出す


ローファーがバリキドリンクの空き瓶や、使い捨てのシュリンジを踏む。
ヨモギの自宅があるのはキョートとは思えぬ退廃的区画だ。
「ネー、タノシイ前後しなーい?」
「やめとけよ。あえぎ声までペケロッパって話だぜ」
「ハハハハハ」
奥ゆかしい木目調にペイントされたサケ自販機の前。たむろするヨタモノが声をかけてくる。
顔を伏せて足早に通り過ぎた。ソメヨに踏まれたつま先が痛い。

「タダイマ・・・」
「ペケ!ロッパ!ペケ!ロッパ!」
いつものように両親のチャントと、聖なる1bitビートが出迎えた。
玄関からチャノマにはジャンクUNIXや廃材でつくったサイバー神輿が鎮座している。
神輿の中心には古ぼけた写真立て。

学校も、街も。ヨモギにとってこの世界は猛獣が放たれた荒野だった。
今日のようにソメヨに絡まれた自分を、唯一かばってくれたのがレイジだった。
レイジは唯一だ。
自室のフスマを開ける。タタミの上には蛇めいたケーブルがうねり、廃基盤が積み上げられ、ジャンクショップの様相だ。
高性能UNIXが低い動作音を放つ。父親がまだエンジニア職についていた頃買ってもらった高性能品だ。
部屋のところどころに青い造花が飾られ、キンギョ型のメイク用品入れがあったりするが、少女らしさといえばそれだけである。

母なるUNIX。キーボードを高速タイプし、ネットワーク世界を跳ね回る。ヨモギが一番生を実感できる場所。

画面に映し出されたのは高級オイランハウス『シマバラ』の内部図。四角の間取りの中を動き回る赤や青、桃色や緑の点はオイランやゴヨキキ達だ。
「レイジ=サン・・・」
ヨモギはお目当ての信号を探す。ニュービーオイランを示すライトグリーンの光点。
登録コードは380604・・・
「レイジ=サンイナイ・・・ナンデ?」
あわててオイランの現行リストに飛ぶ。350104は接客中。371212は待機中
380604は・・・・
「リストに無いナンデ??」
さらにオイランのデータ「身請け・・・?」

ログを辿る。昨日の22:00にはレイジはセッタイに入っている。
サクラフォールの間だ。
管理者権限。さらに上位者権限。ヨモギは視覚だけになってキョートの空に浮かび、
『シマバラ』を鳥瞰する。
屋根を取り去られたシマバラ内部に無数の点が出現し、動き回る。
客とオイラン、従業員の行動を映像化したものだ。
サクラフォールの間に現れた赤い点。『イダ家ご令息』とある。
レイジを表すライトグリーンが入室する。
数分後、ライトグリーンは部屋を飛び出した。

動きは速いが、自分が何処にいるか分からないように建物内を迷走していく。
そしてカチグミの中でも特別客しか使用できない離れへと向かう。

離れの使用予定。カライ・ペッパー社の営業がネオサイタマのエンターテイメント企業、
クール・アソビ社の人間をセッタイとある。
ライトグリーンの光点――レイジの動きは離れの前で止まり、数瞬後消えた。
ここからオイランID380604、レイジの存在はロストする。

「ナンデ?ナンデ??レイジ=サン・・・」
ヨモギは極秘情報である利用客の詳細を引き出した。ワザマエ!

入店時間もセッタイの状況も不明な客がたった一人。
「ウメノハナ観光公社・・・・」

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