サムデイ・ガールミーツ・モンスター


――ナンデこんなことに
狭い中で藻掻きながら、女子中学生ムコウジ・ユメミは
考える。

いつもと同じ放課後だった。
テストが終わったから、みんなでアオヤナギ・ストリートに行って――

ユメミの感覚で数時間前。

「ア~やっぱカッコイイ!」
『お飲み物』のノボリが翻るオープンテーブルで、モミジが買ったばかりののホログラムブロマイドを広げる。
蛍光三色ヘアーの青年がスパイク付きギターを振り上げている。
十代の少女に絶大な支持を受けるイケメン・パンクバンド
『ASS(アンチ・サムライ・システム)』のボーカルだ
「わたし、将来は絶対カゲキと結婚する~!」
モミジはうっとりと、角度によって表情を変えるブロマイドにキスせんばかりだ。
「そんなにカッコイイ? ブルース・タクミの方がカッコイイじゃ~ん」

隣の席のサナエが言う。

「ブルースなんてオッサンじゃん! サナエ=チャンってフケセン!」
「いいのよーだ。タクミの良さは分かる人だけ分かれば」
ブルース・タクミも女子人気の高いアクション俳優で、
主演映画『カイジュウVSアルティメット・マッポ』が封切られたばかりだ。


『オジキしてハローニューワールド…心を込めてゴ・ア・イ・サ・ツ…ひろがるハイテックエイジ…』
『メザセNNK128!!』のネオンカンバンの上で、宇宙ドレス姿の
オイランドロイドデュオが歌っている。

午後のアオヤナギ・ストリートはユメミ達のような十代の少年少女で溢れていた。

ゲームセンターや映画館、カワイイ・チャカフェが立ち並び、
マネキネコやマグロのバルーンが広告LEDを煌めかせながら浮遊する。
『黙ってられない! シティロードはオレの物!』『イッポンヅリダーッ!』
『あなただけの英雄体験!! 決断的に購入だ!』

あらゆるモニタや透明天蓋で、ドラゴンが翼を広げ、オイランが微笑み、
サムライがマグロ・オオモノを釣り上げる。
最新のエンタメ、ファッション、フード・・・期末テストを終えた少年少女たちにとってアオヤナギ・ストリートは、タノシイだけが保障された約束の地めいていた。
いつもの他愛の無い言い合いを聞きながら、ユメミはいつ自分に話題が
ふられるのかとはらはらしていた。

ごまかすように蛍光ピンクのバイオタピオカをストローですくう。
――ユメミチャンは、誰がスキなの?
中学生になると、友人達の話題は「気になる異性」一色になった

だがユメミは特定の異性を『カッコイイ』と思ったことが無い。
親友二人が憧れるミュージシャンや俳優も「キレイな顔の人だな」としか思えないし、同級生達が語り合う「憧れる」とか「胸がドキドキする」がわからない。
クラスの男子と手をつないだり、デートなんて考えられない。

((私、ヘンなのかな・・・?))

――ユメミチャンはまだネンネだもんね。
ハイスクール生のカレシがいると自慢するサオリの意地の悪い顔が浮かぶ。
タノシイな筈の放課後なのに胸が重くなる。自分でも分からない焦りが湧いてくるのだ。

「お腹すいちゃった。なんか食べに行かない?」
「わたしサバミソサンドにしよっかなー」
「ユメミチャンは? 行きたいとこある?」
「あ、わたし『低空飛行』に行ってカンザシとか見たいな」
「サンセー!スマッホケースで新しいの出たよね?」
「三人で色違いオソロイにしない?」

そのすぐ後だ。あの男が・・・

「ユメミチャン?」
スーツ姿のサラリマンが声をかけてきたのだ。
若い容貌にパリっとしたカスリ柄スーツ。
誰だっけ??

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