４月２６日のにっき

友達のペットを預かる。三日目。

昨日の日記はこちら。

まあこれから何が書かれていようが落ち着いて読んでくれや。

21:00
「イタリアは何時頃でしょう」
ペットが、しゃべった。

どうして喋ったのかは未だ分からないけれど、喋らせてしまったのは私のせいかもしれないので、まず今日を振り返る。

今日を振り返る前にまず、お金と欲望の話をする。今頃イタリアを満喫している友達からは3万円をもらっている。
餌代と人件費ということになっている。
新しい環境にペットが混乱すると大変だから、つきっきりで世話をする約束で少し多くお金をもらっている。だから今週はバイトを休んで一週間在宅飼育の予定だった。だった。

でも今日の日記が21時スタートなのは、昨日案外ペットの世話がちょろかった、ちょろいというかやることがなかったので、一人で外出したのだ。

ペットも一週間他人と暮らすぐらいなら一匹の時間も欲しいと思ったのだ。私にも一人の時間が欲しい。

池袋に映画を観に行った。海外の舞台を映画館で観られるナショナルシアターライブの「るつぼ」という作品。上映期間が27日まででどうしても観たかった。3万円の報酬に目が眩んで諦めていたが、「これなら行けるぞ」と昨日の夜に思い立ち、チケットを購入した。

飼育日記なので「るつぼ」についての感想はたくさん書かないけれど、観に行けてよかった。長時間、暗闇、ふかふかの椅子で眠ってしまわないか不安だった自分を笑っちゃうくらい面白かった。
魔女裁判の話だけど、古臭く感じない。現代にも身の回りにもあるような昔から変わらない人間の悪の部分に心臓を突かれ続けた3時間だった。最高だったな。
舞台の水もすごかった。

映画は18時に終わったけどせっかくなのでぶらぶらして、帰宅したのが21時ごろ。冒頭に戻る。

21:00
「イタリアは何時頃でしょう」
ペットが、しゃべった。

21:00 少し前
朝帰りみたいにこっそりドアを開ける。
ペットとばっちり目が合う。こんなに目玉がぎょろぎょろ大きかったかなと思う。

「イタリアは何時頃でしょう」

鳴く、じゃなくて喋るのか。
心の中でたくさんの冷静な思考を羅列しながら、背中が冷えていく。回していた手紙が先生にバレた瞬間の罪悪感がゾワゾワっとくる。
こんなに罪悪感のある行為だったんだなと見つかってから気づく。やってる最中はやりたい欲望でいっぱいで理性は飛んでる。

人間の私が逆に一言も話せないでいると、また「イタリアは何時？」としゃべった。

へへっ。と鼻で笑うのが私を現実主義者に止める精一杯の行動で、生き物がどうして人の語を操るのか疑うことはこの罪悪感が消えるまでは無理だ。多分この非現実な出来事について考察するにはこの生き物と距離を置いてからじゃないと無理だ。二週間後とかにふと考えるんじゃないかな。

スマホの世界時計でイタリアを検索する。
いろんな都市名が出てきたので一旦ナポリにする。

「イタリアのナポリは14時4分」

ペットは「なるほどね」と言った。

ナポリ以外の都市でも多分14時4分だろうな。別に調べないけど国内で時差ができるほどでかい国じゃないだろイタリアは。
てかなんでこいつイタリアの時間気にしたんだろ。飼い主のこと恋しくなったのかな。かわいいなこいつ。飼い主が今頃ジェラートとか食べてるのを想像してんのかな。てか、なるほどねってなんだ？　なるほどね、友達のよくする相槌だ。オウムが飼い主の言葉覚える感じだ。いや、というより家族とか友達の口癖がついうつっちゃったって感じの方が近いか。るつぼ面白かったなあ。どうやって書いてるんだろう。ご飯食べよっかな。そんな空いてないし、お菓子にしようかな。

私はこっぴどく怒られた生徒よろしく、その場に突っ立ったまま冷静な思考を羅列していた。

ペットはその間ずっとこっちを見ていて、目を離したのが5分後で、それからずっとベッドの上で寝ている。その様子を伺いながら今日記を書く自分。自分の部屋なのに他人に、いや他種に空気を掌握されている。居心地が悪い。