3月23日のにっき

今日は大学に行ったら、ピエロに会った。
すごくオドオドしていた。
赤い鼻を何度か落としてた。とにかくオドオドしている。

大学にいる人は全員若者って感じがして、「私が世論です」って感じの目線を飛ばし続けている人たちしかいない気がする。大学にいると、世論にジャッチされているという自意識が働いて、なるべく人と目を合わせるな、目立つなの精神が芽生える。
他人、ましてやピエロに話しかけるなんて、「世論」に見られてしまうので普段なら絶対にしない。 「世論」の目線に耐えられるわけがない。
でも、その考えはあったとしても、それ以上にピエロはオドオドしていたので、つい声をかけてしまった。

何してるんですか?

「猟奇的なリハーサル中なのです」と言われた。

猟奇的なリハーサルとは……?

話を聞くと、ピエロとして猟奇的な行いを近々、都内で、やる予定らしい。
その前に、リハーサルとして、うちの大学を選んだらしい。

確かに都内に比べれば、緑は豊かで、穏やかで、目立たない場所だから、自意識が過剰な私のような学生に声をかけられるぐらいで済む。

都内を主戦場にするピエロにとって、この大学で飛び交う視線など軽く受け流すぐらいの余裕があらねばならないのは当然のこと。

ああ、また赤い鼻を落として、拾っている。
拾ってあげたら「ああ、すいません」と小せえ声で言ってきた。

ちょっと心配になった。

今は、春休み中なので、学内に人がほとんどいない。周りを見渡しても、「世論」の影もない。地味な色の鳥が地面を跳ねてるぐらい。

「今日初リハーサルなので……」と言われた。

別に私は何も言ってないけど、と思った。
というか、ピエロは中途半端な敬語辞めた方がいいかもなと思った。他人なので、おせっかいな忠告は控えて、無視した。私は何も言わずにその場を去った。

用事を済ませて戻ってきたら、ピエロはいなくなっていた。
猟奇的リハーサルは無事に終了したみたいだ。

できれば、後日ニュースとかでピエロの勇姿を見られたらいいなあと思った。多分あのピエロは、夕方の、ほんわかニュース枠を独占するような素敵な猟奇的行いをやってくれそうな気がする。

オドオドしながら、バスに乗って帰路に着くピエロを想像する。
ピエロの脳内で、猟奇的リハーサルの反省会が開催されているのを想像する。

私はもっと怖がった方が良かったのか……。
初リハーサルだったみたいだし、ベタなお客さんをやった方が良かったな。ピエロの脳内反省会に影響されて、私も脳内反省会を開催してしまった。「あちゃー」という顔で歩いてたせいで茶髪ロングの「世論」にチラっと見られた。手厳しい!!

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