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【SUJIN JOURNAL 2023- 準備室日記】共同アトリエpuntoに行ってきました!

このnoteでは毎回異なる書き手が、京都市立芸術大学 祟仁キャンパスとその周辺で行われる、様々な表現や出来事の現場を記録・発信しています。

訪問日:2023年12月6日
この記事を書いた人:美術学部 構想設計専攻 2回生 高橋由乃

 京都市立芸術大学祟仁キャンパス周辺では大学移転前から活動をしているアーティストがたくさんいるそうです。
 今回は今私が気になっている、卒業後どのように制作場所を確保するか、将来のこと、制作が進まなくなったときにはどうしたらいいか、などについて、東九条にある共同アトリエpuntoに直接お邪魔し、メンバーの嶋 春香さん、長谷川 由貴さん、森山 佐紀さん、山本 紗佑里さんにお話を伺いました。


punto
京都駅南東に位置する共同アトリエ。絵画、立体など、ジャンルを超えた7人の作家が制作の場として運営している。もともとかばん製品の工場だった場所を自分たちの手でホワイトキューブに改装した。
「punto」という言葉はラテン語で「点」という意味を持っており、”点”から線や面が生まれるように、ここを拠点にさまざまな活動形態へと繋がっていく、という想いが込められている。




ーーpuntoを設立された経緯について教えてください。

長谷川:
 大学院2回生の夏に、卒業後の進路を嶋さんと話し始めたことがきっかけでした。卒業後の制作場所を確保するためにスタジオを借りようという話になり、物件探しから始めました。どうしても現状復帰が条件の物件ばかりで、初めは難航しました。また、アトリエとして使いたいといっても、用途をうまく理解してもらえなかったんですよね。コウモリの死骸がある物件を紹介されたこともありました(笑)。どうしようか困っていた時に、HAPSに相談したところ、この物件を紹介していただきました。明るく広い空間で、大家さんも理解のある方だったので、ここに決めました。
 そこからは家賃を折半するため、メンバー集めが始まりました。卒業後も作家活動を続けていきそうで、お互い一緒に心地よく制作していけそうな人に当たってみました。なるべくメディアが偏らないことも意識しました。京芸出身の人が多いですが、グループ展などを通して出会った他大学出身の人もいます。
 2013年に初期のメンバーが確定し、2014年にアトリエとしての利用が始まりました。メンバーの確定とオープンの時期がずれているのは、スペースをきれいにするところから始めたためです。壁を立てたり、床を修繕したり。コンクリートに穴を開けたこともありました(笑)。
 今は7人で利用しています。初期のメンバーから入れ替わりはありますが、2024年はオープンから10周年を迎えます。


ーー活動記録の冊子の発行やオープンスタジオなどアトリエを外へ開く活動も意識して行われているのですか。

長谷川:
 そうですね。活動記録の冊子(punto annual)は、自分の活動を振り返るのにも、アトリエで活動している他のメンバーのことを紹介するのにも便利です。自分が上手く言葉で伝えられない時の助けにもなるし、以前ここで制作していた人が、この場所にいた時間も残せて良いなと思います。
 オープンスタジオについては、展覧会以外の場で、作品の話ができる機会でもあります。また、普段使っている道具や制作スペースの様子を見てもらうことで、作品に興味を持ってもらえたり、個々のスペース自体を面白がっていただけることもあります。スタジオビジットのお話をいただくこともありますが、時間が限られていることも多く、伝えきれないことがありました。冊子を作るようになったのは、そのときの経験からでもあります。

punto annual スタジオやメンバーそれぞれの1年間の活動をまとめた報告書。毎年発行している。


ーースタジオビジットには、どのような意義を感じていますか。

長谷川:
 そこから展覧会のお誘いをいただくことや、作品の購入につながることもあります。展覧会をしていない期間であっても、作品を見てくれる人と接することができる機会でもあり、お互いが忙しくない限りは、なるべくお受けしています。

アトリエの様子。こちらは山本さんのスペース。コンタクトレンズなど、身近にある素材から作品を制作されているそう。


ーー作家になる決意はいつ頃されましたか。

長谷川:
 作家って、ある瞬間からそうなるわけではないと思うんですよね。私の中では、日常の中で作るという行為があって、その延長で作家をしているというイメージです。ただ、展覧会などを通して人にものを見せる際に、気をつけるべきことはあると思うんです。人に見せるという行為を、気づいたり意識したりしながら、そのことを自分の中に取り込んでいく。社会の中で自分はどこにいるのかとか、そういった、自分以外の人間の目線とも関わりながら作っていくことで作家という仕事になっていくのかなと思います。例えば他で別の仕事をしていても、ブランクがあっても、良いと思うんです。

森山:
 私は学生の頃から、卒業後も作家として活動していくという意志は持っていました。キッパリ辞めて就職する、ということは考えていませんでしたね。仕事をしながらでも、手を動かし続けていきたいと思っていました。

長谷川:
 作家をやっていく方法は別に一つじゃないんですよね。一旦就職して、生活を安定させてからとか。

森山:
 そうですね。いろんなパターンがありますね。



こちらは嶋さんのスペース。モチーフやスケッチなどが並んでいる。

ーー作家になることは緩やかに決められたようですが、アトリエを借りるということは、決断のいることだったのではないかと思います。その際にはどう考えていましたか。

長谷川:
 家で作れるサイズではないということもありますが、何年も作り続けるのだろうな、という思いはありました。

嶋:
 私の場合は、漠然と作家とはこういうものだ、という先入観が自分を動かしてくれていたように思います。先のことはあまり考えていなかったけど、絵を描き続けていきたい、そのためには場所が必要で、じゃあ行動しなきゃ。そういう衝動的な感情が自分を動かしてくれていました。なので、場所を借りる事に関して「決断をした」という感覚は正直あまりなかったです(笑)ここを借りて約10年になりますが、各々の生活ペースや環境が変わってきていて、私自身もここ数年は妊娠・出産・育児で体力的に制作できない時期がありました。でも制作場所があると「いつでもここに帰ってこれる」という安心感があるんです。大学時代に教授からどういう作家になりたいか考えておこうね、と言われたことがありますが、作家をするにしても色んな生き方があると思います。いまは生活との兼ね合いのなかでどう続けていくかを考えながら制作をしています。

ーー作家以外にも、プライベートや仕事など、いろいろ活動されているかと思います。どういった活動をされているのか、お聞かせください。

長谷川:
 古本屋のパートをしています。作家活動に対してとても理解のある職場で、とても充実して働くことができています。ベースはそちらで働き、制作の費用を確保しつつといった感じです。また、友人たちと「MOTEL」というZINEを発行したりもしています。作家活動のみ、ではない形で色々なことをやっている方も多いと思います。


森山:
 私は図書館司書の仕事をしています。本が好きなのと、いつでも本を借りられるという環境がとてもよくて。 

こちらは長谷川さんのスペース。気になる画像は壁に貼り、いつでも見られる状態にしているそう。


ーー私は今、人の言葉に作風や自分の意思が流されそうになることがあります。ですが、人と関わっていくことって生きてる以上切り離せないので、どのように人と関わっていくかについて悩んでいます。学生時代に教授や同級生との関わり方について、意識していたことがあれば教えてください。

長谷川:
 京芸は学生の人数が少ないので、限られた人との中で悩むこともあるでしょうね。自分に無理をして、合わない相手と一緒にいなくてもいいと思いますが、そのとき感じたことをちゃんと相手に伝えることを恐れすぎないというのも大事だと思います。人と接する以上、思いがけずショックを受けたり、おそらく自分が与えていることもあるはずですが、それはその場ですぐに言えなくても良くて。持ち帰って、しばらく考えて、「あの時、実は私はこう思ったんだけど、」と自分側から開いていくことでできていくコミュニケーションもあると思います。
 教授との付き合い方に関してですが、私は自分に合わないと思ったことは気にしないことにしていました。大学の使い方は自由ですから、全てを受け止めようとしなくてもいいと思うんです。また、合評の時って、他の人へのコメントが自分に刺さることもありますよね。他の専攻の合評を聞いたりすると、専攻によって教授と学生間の雰囲気が結構違ったりして、参考になることもあると思います。

山本:
 私も1,2回生の頃、周囲の言葉や考えをなるべく全部聞いて吸収しないとと思って、自分の中で消化が追いつかず苦しくなってしまっていたので、少し近いかもしれません。ですが、話を聞きながら、自分はこうじゃないなとか、自分ならこうする、と考えていくことで、興味が絞れていったんです。人と関わる中でも、自分の軸は生まれていくと思いますよ。また、私も他の専攻の講評を聞きにいったり、制作室に遊びにいったりして、自分の考えが偏らないようにしていました。


森山さんのスペース。壺をモチーフにした作品を制作されているそう。


ーー制作を続けていると、行き詰まってしまうこともあると思います。そこから抜け出すために、何かしていることはありますか。

長谷川:
 私は一旦、制作をしなくなります。制作が一番したいこととして、2番以降の好きなことをしますね。自分を甘やかします。旅行もよくしますね。その時間があるからこそ、描けるのだと思います。

嶋:
 制作が進まないのは、自分の中のものを出し切ったときか、疲れているときか、悩みがあるときが多いですね。私の場合は、料理、映画、散歩などの気分転換をしてそれらが解消されるのをひたすら待ちます。また、制作以外の居場所を見つけることも大切だと思っています。一個のことに固執せずに済みますから。別の居場所で過ごす過程にも、まわりまわって興味の対象が作品とリンクしていたり、違う入口からで自分の趣味趣向がわかったりすることもあるので。作品を無理に完成させようとせず、何年かかってもいい、と気持ちを大きく持つことも大切かもしれませんね。

森山:
 私はよく調べ物をします。調べて、それを書き起こしていくのが好きですね。あと、あまり頭を使わない作業もします。作業っていいんですよ。

長谷川:
 わかります。私もよく編み物をします。何も考えなくていいから息抜きになるし、あとで着れるし笑。

ーーこの場所にアトリエを構えたきっかけを教えてください。

長谷川:
 元々は物件を気に入って、立地も便利なのでここを借りることにしました。土地の歴史を知ったのも、後からでした。

山本:
 私は入居以前から、東九条とは関わりを持っていて。ちょうど京都に引越すタイミングで、一人抜けるので入居しないかと先輩からお誘いいただき、良い機会だなと思って決めました。この地域には様々な活動をする人が集う土壌があり、アトリエの外にも自分の遊び場が広がっている感じがして、風通しよく感じています。
(以前から山本さんは、Books × Coffee Sol.の2階「ノランナラン」や「タローハウス」など東九条のスペースの活動に携わっていたそうです。)
ノランナランの活動について  https://www.bookcafesol.com/2f



 今回、私ははじめて「シェアスタジオ」にお邪魔しました。壁に好きな画像を貼っていたり、スケッチを並べていたり。好きなものやつくったものに囲まれたすてきな空間でした。制作場所を自分の好きな空間にすることが制作の第一歩なのかもしれないと思いました。 
 また、将来のことについてより肩の力を抜いて考えられるようになりました。在学中に作家になるか働くかの二択を選ばなければならない、と考えていましたが、そうではなく、制作しながら働く、という選択肢があることを知り、心が軽くなりました。制作が思うように進まないときに編み物をしてみたり、制作と直接は関係のない本を読んでみることで、作品とより素直に向き合えるようにもなりました。今までは制作から離れることは「逃げ」だと思っていましたが、一旦離れてから自分の作ったものを見ることで、作品を俯瞰することができ、より人に見てもらいやすい作品を生み出せると感じました。今回お話を伺ったことで、こうでないといけない、という思い込みから少し抜け出すことができたように思います。
 puntoの皆さん、貴重なお話をありがとうございました。



訪問日:2023年12月6日 
この記事を書いた人:美術学部 構想設計専攻 2回生 高橋由乃


2024年のオープンスタジオのフライヤー。puntoウェブサイトのフォームより来場予約が可能。
最新版のpunto annualもいただきました!

訪問日:2023年12月6日
この記事を書いた人:美術学部 構想設計専攻 2回生 高橋由乃

本noteについては以下のnote記事をご覧ください。また記事についてお問い合わせ等ございましたら、sujin_journal@kcua.ac.jp までご連絡ください。


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