限界オタクの催事シリーズ~推しからのクリプレ交換会をしてみた~前編


その櫛の側面には、彼のファミリーネームが刻まれておりました。



エースとM子がまだ「NRCのマブと監督生」だった頃の話、時期はそう、ゴーストマリッジが終わったあたり。あのはた迷惑なゴーストの結婚騒ぎがひと段落ついて、花婿衣装を脱いだエースがふとM子の方を振り返った。

「なぁ、監督生の世界ではどんなプロポーズすんの?」
「うーん、私が生まれた国では決まった形式とかはないけど...まぁ大体指輪の箱をパカッとして"結婚してください"って言うのが普通なんじゃない?」

指輪の箱を開けるジェスチャーと共に跪いてみせると、エースがつまらなそうに「フツーじゃん」と鼻で笑った。

「あ、でも江戸時代には指輪じゃなくて男性から女性に櫛を贈ったらしいよ」
「エドジダイってなに?」
「昔の事だよ、私が生きてたより何百年も前の話」
「ふーん、でなんで櫛を贈るわけ?」
「櫛って私の国の言葉では"苦"と"死"を連想させる物だから本当は贈り物にはしちゃいけないんだけど、男性から女性に贈る場合は"結婚生活は幸も苦労も多い、共に寄り添いながら死ぬまで生きていこう"って意味になるらしいよ」
「へぇ」

ロマンチックだよねぇ、と感慨深げに呟くM子に、エースが分かったような分からないような曖昧な相槌をうつ。



その後なんやかんやでマブから恋人に昇格し、NRCを卒業後結局元の世界に戻ることができず進路に困ったM子を「一緒に住めば良くね?お前1人くらいなら何とかなるし」の一言で同棲に持ち込んで3年、恋人としては今年で5回目のクリスマス。
エース・トラッポラは悩みに悩んでいた。クリスマスや誕生日も5回目ともなるとネタが尽きてくる物である。かと言って無難にルームウェアやアクセサリーにも走りたくない。いや、ふわふわなルームウェアも華奢なアクセサリーも彼女には似合うだろうけど。

「...いっその事指輪でもプレゼントしちゃう...?」

付き合って5年だ、短くはない時間を彼女と過ごしてきた。もうそろそろ、次の段階へ進んでもいいんじゃないだろうか。
同棲を始めてから「結婚したらこんな感じなのか」と思う事が多くなった。それと同時に結婚する事で彼女の戻らない理由になってしまうのではとも考える。
勿論一緒にはいたい、でも好きな女の足枷になる男はダセー。男心は複雑である。

今年で5年、彼女とデュースと初めて会って友達になってから7年。
エースは決めていた。
もし、もし彼女が元の世界に自分の意思で戻れる事になったら、オレもついて行く。
親にも兄貴にも友達にも会えなくなるかもしれないし、向こうの世界の事なんて何もわからない、後悔だって多分死ぬほどする。
でも彼女を1人で行かせて二度と会えなくなったら、絶対自分の事を一生許せない。きっとどう生きたって後悔のない人生なんてないのだから、だったら彼女の事だけは後悔したくない。大体向こうに行けるのなら戻る方法だってきっとあるはずなのだ。
だからとっくのとうにエース・トラッポラは覚悟を決めていたのである。


そして思い出したのが、NRC時代に彼女から聞いた故郷のプロポーズの記憶だった。
一番ドレス姿や自分が結婚する男を見て欲しかったであろう親も、もしかしたらあったかもしれない理想の結婚式も、あげてやれない。
だから一生の思い出に残るプロポーズだけは、彼女の故郷のやり方でしてやりたい。
エースはあるお店へ足を向けた。
老舗の美容総合専門店である。シックな外観の店内にはまるで美術品のように所狭しと香水ボトルが立ち並んでいる。そして、カウンターのガラステーブルの中には様々な種類の櫛が、整然と並んでいた。美容関係に疎いエースには違いが分からず、見るだけでちょっとゲンナリするくらいの量である。

「何かお探しですか?」

皺ひとつない制服を着た店員ににこやかに声をかけられ、エースは櫛を指さした。

「コームを見たいんスけど」
「コームですね!かしこまりました。
どのタイプがよろしいでしょうか?」
「.....ロングヘア向けのってあります?
色はできればこんな感じので」

手前に並べてあった鼈甲の櫛を指し示すと、すぐ様ほぼ違いの分からない櫛が並べられた。

「柄もお選びいただけますが」

ニコニコしながらさらにほぼ一卵性双生児のような櫛が3本。いや一緒だろ。

「じゃあ、これで...」

もはやヤケクソである。女ってこれの違いわかって選んでんの?マジ??
終始にこやかな店員がさらには刻印サービスまで勧めてくるので無難に彼女の名前でも入れてもらおうと名前を言いかけたが、すんでのところで思い直した。

「すいません、TRAPPOLAって入れてもらってもいいですか」


これはささやかな、プロポーズだ。


それはさておき、櫛だけではクリスマスプレゼントとして物足りないものがある。
花でも渡すか...と思ったが年中無休で部屋をオンボロ寮テイストに仕上げてくる彼女のことだ、花をプレゼントしたところで3日で枯らすだろうし、それを見越したオレが水を替える事になる可能性の方が高い。
学生時代「こんなボロっちい寮与えられて監督生カワイソ〜」とか思ってたけど、違ったね。アイツがオンボロにしてたんだわあの寮を。オンボロ寮(人為的)。

ふと視界の端を深い紅色が過ぎった。
足を止めると、ショーウィンドウに飾られていたのは深い、深い赤色のビロードのリボンを贅沢に折り重ねたバレッタだ。商品名は「オフィーリア」、その下に"霧の中を虚ろな足取りで永遠に彷徨い続ける"と説明文が続いている。

「ハッ..,ピッタリじゃん」

出来れば、永遠にその霧の中を彷徨い続ければいいのにと願うのは、あまりにも後暗い願いだ。オレの瞳の色に酷似した血のような赤、きっと彼女の長い髪には映えるだろうが、いかにもすぎるだろうか?
オレの色を身につけて欲しいだなんて、あまりにも独占欲が過ぎる。柄にも無いことをして彼女に悟られたら羞恥のあまり死ねる自信がある。
やっぱり止めておこうかと視線を外すと、ショーウィンドウの向こう側の店員と目が合った。

「プレゼント用ですか?」

どこかウキウキニヤニヤして見える店員がズイッと身を乗り出してきた。

「はぁ、まァ...」
「こちらバレッタタイプになっておりまして、こうやって止めるだけで簡単に素敵なヘアスタイルになりますよ。リボンもあからさまにリボンって感じの形でもないし、少し暗めの赤なので大人の女性の方にもお似合いかと思います」

淀みなくアピールする店員がそこで一変して悪戯そうな笑みを浮かべる。

「ちなみにリボンモチーフのヘアアクセには"結ぶ、良縁・約束"の意味がありまして、2人の愛をより深めたい方などにオススメです!」

なんともピッタリである。
まるで心の内を読んだように寸分も狂いなくこちらの購買意欲をくすぐるセールストーク。
...というかクリスマスシーズンに男一人で女物の店にいたら検討は付くだろうが。

「これ、買います」
「ありがとうございます!」

別にセールストークに乗せられたわけじゃないけど、あの色が彼女に似合うと思っただけだし。しかも不器用でギチギチの三つ編みくらいしか出来ない彼女でも、ヘアクリップなら簡単に扱えるんじゃないかと期待しただけで。仮に出来なくても、クリップくらいならオレが留めてやれるし...。
薄紙に包まれて白い化粧箱に収まるヘアクリップに、少しむず痒い感覚を覚えながら心の中で誰にするでもない言い訳を並べた。


ちなみにクリスマス当日エースは仕事である。
なので彼女は友人とクリスマスパーティーをする予定らしい。仕事が何時に終わるか分からないのでプレゼントは友人に預けて、渡してもらう予定だ。プレゼントを開けた瞬間の彼女の顔を見たいような見たくないような、複雑な心境を読んだのか、プレゼントを渡してくれるよう頼んだ際、友人が「ちゃんと開けるところ動画に撮って後で送っとくよ」と笑っていた。

「あとはクリスマスカードだな」

カードはすでに買ってあった。ヴィランズらしく赤と黒を基調としたデザイン性の高いカード。"メリークリスマス 仕事終わったら迎えに行く、楽しめよ"そこまで一気に書いて、"今年も一緒にクリスマスを過ごせて嬉しい"と続けて少し考える。
今年で5回目のクリスマス、来年も一緒に迎えられるだろうか...来年もここに、オレの隣にいるだろうか。毎年考える事だが、この願いは「彼女が元の世界に帰れない、親や友人に会えない」事と表裏一体だ。あまりにも残酷で彼女が不憫な、オレの身勝手な願いだ。わかっていながら願わずにはいられない。

「あ"ーーーーー...」

髪の毛をガシガシ掻き毟って、"今年も一緒にクリスマスを過ごせて嬉しい"の1文を2重線で消した。ついでにオレの我儘な願いも消えてくれればいいのに。

「プロポーズに関しては、帰ってからゆっくりでいいか...」

彼女を迎えに行って、帰ってから、彼女の前に跪いて指輪の箱を開き、言うのだ。

「結婚してください」と。


いつかのあの日、彼女が真似事でそうしたみたいに。




と、まぁここまで全て幻覚なんですが(お薬出しておきますね)



noteとか言いながら、「エース・トラッポラが彼女へのクリスマスプレゼントを悩みながら選ぶSS」が始まってめちゃくちゃ困惑してると思うけど、私が一番こんなはずじゃなかった大賞なので許してほしい。

事の発端は私が大学時代の友人M子(オタク)に、「お互いの推しからクリスマスプレゼントを預かった設定でプレゼント交換しよ♡」とある意味地獄のような遊びを提案し、ノリの良いM子が食い気味で「やる!!!!!!!!!」って乗ってきた(大好き)ところから始まるんだけど、お互い気合いが入りすぎて推しがプレゼントを選んでいる時の心情やら設定やらも凝りに凝って金もかけためちゃくちゃ楽しい大人のオタ活になってしまった次第。

ちなみに上のSSは、クリパの時M子に渡したプレゼントの設定集を、「ツイステッドワンダーランドのエース・トラッポラがM子と迎える5年目のクリスマスにプロポーズしようとプレゼント選びに苦悩する話」に編集し直した物です(死体蹴り)(翠は二度刺す)
おーいM子〜見てる〜〜〜〜??これ読んでもっかい死んでくれ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!


クリスマスパーティー当日、夢女子たちはデパ地下で金にものを言わせアクセル全開で食べ物を買い漁り、会場(翠氏自宅)で盛り付け、「映えとは...???」となりながら写真撮影。



いやほんとデパ地下で1万強飛ばしただけあって、めちゃくちゃに美味でした。


ちなみにこの日買った、LOLA MOLAっていうサングリアが本当に甘くて飲みやすくて、後日また買った。ワイン苦手な人でもカパカパ飲めてしまう。
早くプレゼント交換をしたいような、プレゼントを見るのが怖いようなはしゃぐ心を抑えてとりあえず夢女子たちは古き良きジャパニーズホラーの代表格「仄暗い水の底から」を鑑賞しながら美味しい料理達に舌づつみを打ちました。(なんで??)


料理もあらかた食べ終わり、テーブルの上を片付け、間接照明をつけてムード満点。ここからが両者死ぬまで終わらない夢女子共のデスマッチ。初手、私。
後でエースに見せるためにカメラもセットし、M子にBULYのシックな紙袋を渡しました。

「ありがとう〜」

若干照れながら受け取るM子と、エース・トラッポラの解釈が違ったらどうしようと手に汗する私。完全に幻覚と現実が混じっている...(お薬増やしておきますね)


「えっ、ヤバい今(心電図)モニター付けたらアラームなっちゃう」などと言いながらまず白い化粧箱を取り出しました。そう、エース君が店員にニヤニヤされながら購入したThe独占欲の塊(ヘアアクセサリー)です!!!!!!!!!

開けた後の一言、「えぇヤバい結婚するわ」

どうぞどうぞ。
ちなみにここまでですでに10回はヤバいって言ってる。オタクすぐ「ヤバい」って言う〜〜〜


次に櫛の包みを取り出したM子、ここまででプレゼントの中身はノーヒントなのでこの薄っぺらい包みが何なのか恐らく見当もついていない彼女は中から櫛を取り出して「ハッ....!!(声になってない)櫛?!?!(謎の小声)(完全に分かったぞ!!!!って顔でこちらを見る)」
「意味込みのプレゼントなので...」と言う私に大きく頷いた後、彼女は「...ええっ!!!!!!?!?!?」とハイパークソデカボイスをお出しになられました。この反応マジでめちゃくちゃ好きで、これ書きながら20回くらい動画再生してクソ笑ってる。


そして裏を見るよう促した後、裏に刻印された金色に輝く「TRAPPOLA」の文字を見たM子は鳴き声を上げながらソファに沈み、私はオタクを1人墓場送りにした事を天を仰ぎながら大喜びした。


この後すぐ蘇生して「ヤバい」を繰り返した挙句、どデカい声で「え"え"ーーーーー!!!!」って機関車の警笛みてえな悲鳴を上げてた。関ジャニの某ヤカンみたいな笑い声のアイドルと友達になれる。この悲鳴好きすぎて今日だけで851842612回は聞いた(オタク構文)

そしてさらなる追撃、ずっと俺のターン!!!
クリスマスカード。


いや〜〜〜、これ本当に書くの大変でした。
まず翻訳サイトで翻訳してから、筆記体変換サイトで筆記体にしてそれを間違えないようにカードに1度書き...。
エース・トラッポラ、iの点をハートにしてくんねえかなって願望も出ちゃった。
M子、開いて「ッッハァ〜〜〜」と溜息をついて一旦閉じてまた開いて「ねえ、ねえ〜〜、まって、まってまってまって!!」
オタクの口癖第3位「ヤバい」第2位「ねえ」第1位「まって」を全て網羅しておりました。オタクは物事が自分の理解を超えそうになるとすぐまってって言う...。


ちなみに解説文(手書き便箋2枚)を読んだM子は再度お亡くなりに。死体蹴り楽しすぎ😊


最後まで読む間に様々なバリエーションの「えぇ〜〜」を8回、「ヤバい」を4回聞いてフィナーレは「ありがとうございます(低音)ちょっと泣きそう」からの上の写真の死体が出来上がったので私としては、私の考えるM子のエース・トラッポラがM子に刺さった事がハチャメチャに嬉しかったですね...。
解説文の内容は最初のSSを簡略化したものなので、プレゼントの写真を見た上でもう一度SSを読んでみるともはや現実なのか妄想なのか判別が付かず楽しい事になります。

※M子にはSSを読ませてないので、このnoteをただのクリパレポだと思って開いて「ねえ〜〜〜〜〜ヤバい...」ってなってもらえると嬉しい。


まぁここまでが私がM子の彼氏(もう婚約者だね!おめでと〜🎉🎉🎉)から預かったプレゼントをM子に渡したくだりなんだけど、何が恐ろしいかってこんなに長文を書いたのにまだ私の番が残ってるんですよ...。
もちろんこの後私の彼氏がM子に預けたプレゼントを貰うんだけど、ちょっと手汗かいてきたしいい加減長文すぎるので前編後編に分けます!!!!!!!!!


気の狂った幻覚をここまで読んでくれてありがとねフォロワー。
ツイステの事知らないフォロワーには9.8割何言ってるかわかんなかったと思うけど、要約すると推し(彼氏)からクリスマスプレゼントという名のプロポーズをされて狂った女の話です。


次回予告「推し(彼氏)」から激重クリスマスプレゼントをもらったんだが」

見てくれよな!


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