第29回西関東吹奏楽コンクール高等学校部門Aの部 感想


2023年9月3日(日)
所沢市民文化センターミューズ(埼玉県所沢市)

【課題曲】
  行進曲 「煌めきの朝」 / 牧野 圭吾
  ポロネーズとアリア ~吹奏楽のために~  / 宮下 秀樹
Ⅲ  レトロ / 天野 正道
Ⅳ マーチ 「ペガサスの夢」 / 水口  透


1
山梨県立甲府城西高等学校
課 Ⅰ
自 アウディヴィ・メディア・ノクテ  /  O.ヴェースピ

スピード感のある煌めき
クラリネットを前列に配置したセッティング(九州型と呼ばれている)
そのため課題曲のトリオではクラが少し浮き出て聴こえました

自由曲は反響が大きいホールのようでしたが、ドラムが頼りの存在となり
後半の異国感のあるハーモニーがホールによく響いていたように思いました

2
叡明高等学校
課 Ⅲ
自 森の贈り物  /  酒井格

フロントにドラムを配置
バンド全体が豊かな音で、ホールの隅々まで響いているように思いました
レトロの冒頭、伸ばしの音を少しクレッシェンドさせるのはビッグバンドの奏法を取り入れていたようです。こうすることで伸ばしの音にも推進力が生まれ
ビート感が生まれやすくなるのです

自由曲の冒頭はまずスケール感の大きなハーモニーをめいっぱい響かせ
そこから登場するコルネットのソロがとても印象に残っています
各パートもよく響き
緩急ある曲の流れは瞬発力があり
聴いていてとても楽しい演奏でした

ボンゴは下に「すのこ」のようなものを敷いていたようですが
おそらくより響かせるための工夫だったのでは

3
埼玉県立越谷南高等学校
課 Ⅱ
自 「交響的舞曲」より第三楽章 /  S.ラフマニノフ  /  佐藤正人編曲

ポロアリは音の運びがスムーズで聴きやすく
かつ軽いということもない演奏でした

自由曲は各パートで音のまとまりがあり、ニュアンスを統一できるよう
かなり時間をかけて練習したのではないでしょうか
そのため聴いていて全体的に心地よい演奏でした

ポロアリとラフマニノフ晩年の曲
とても大人びたステージでした

4
星野高等学校
課 Ⅰ
自 ラ・フォルム・ドゥ・シャク・アムール・ションジュ・コム・ル・カレイドスコープ /  天野正道

マーチの雰囲気を厳格に守っている印象でしたが
それがかえって高校生のみずみずしい演奏が浮き立っていたように感じました
そして低音群が全体をリードしていて非常に安定したテンポ感もあり
好印象な演奏でした

自由曲は様々な楽器との組み合わせにより音色の変化を出していく、
まさにこの曲名「カレイドスコープ(万華鏡)」のような作りをしています
音程やニュアンスが悪いと一気に興醒めしてしまう難しい曲だと思うのですが
そんな不安は感じませんでした
緩急の移りやロマンチックさも楽しめました

賭けで吹くような場面が見られず
例えばトランペットのハイトーンは上から見下ろすような余裕があり
低音から高音までよく聴こえるバランスの良さもありました

5
群馬県立高崎女子高等学校
課 Ⅳ
自 ブラジル風バッハ第8番 /  H.ウィラ-ロボス /  川原明夫 : 編曲

Tp・Tbの人数が多めのバンド
ピッチが高いというわけではないのですが
他のバンドより上の方で鳴る音色のあるバンドと思いました
自由曲は全9曲からいくつか抜粋しており
物悲しさ、リズムの強い曲ときて最後はバッハの
フーガの形で荘厳に終わりました

6
東京農業大学第二高等学校
課 Ⅰ
自 ガレア・エト・ベルム /  J.デ・ハーン

金管が「しっかり鳴らします!」というポリシーが
あるように思いました。聴いていて爽快でした

それから艶っぽいフルートは個性があり素晴らしかったです
煌めきトリオでのトリルは頭にウエイトを置いてからかけるので
聴いていてニヤリとさせられました
ほとんどフルートの方ばかり聴いてしまいました

7
新潟県立長岡高等学校
課 Ⅲ
自 B-A-C-Hによる幻想曲とフーガ /  レーガー

全体もソロもじっくり聴かせてくる演奏でした
Tbがバリバリ吹いて「足跡残してくる系」の方がおりました
レトロのような曲は、ときにトロンボーンが打楽器的な
役割を持つこともあるので、そういったアプローチだったのかもしれません
自由曲もフーガがじっくり演奏する系のバンドの性格に
合っていたように思います

8
花咲徳栄高等学校
課 Ⅱ
自 ウインドオーケストラのためのマインドスケープ /  高昌帥

高音と低音がよく鳴るバランスの良いバンドでした

自由曲はサックスやオーボエがまず上手でないと選べない曲だと思うのですが
それぞれ名手がおり、ソロも全体も聞き応えのある演奏でした

9
山梨県立県立韮崎高等学校
課 Ⅱ
自 バレエ音楽「三角帽子」より /  M.d.ファリャ /  森田一浩 : 編曲

fはもちろんpを大事にしていたバンド
ポロアリは十分に間をとったり、フレーズの終わりでpにして長めに吹いたり
このホールの残響を想定した工夫だったのかもしれません、個性的に感じました

自は冒頭のファンファーレがホールによく鳴っていました
三角帽子のサビ(言い方合っているのかしら)の部分がくると、やはり聴いていて
燃えます

10
新潟明訓高等学校
課 Ⅰ
自 ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶〜 /  福島弘和

こちらのバンドは音の運びがスムーズな演奏
煌めきはマーチというより自分達のテーマソングにして歌っているような演奏
マーチの形式を厳格に守るというよりは自由に演奏しているように思えました
クラの音が結構飛んでくる!トリオでも引かない!

自由曲は訴えかけるようなオーボエソロが引き込まれます
何度も聴いていて、すでに展開もわかっているのにね
ソロの引き立て、全体での動きの切り替えも良かったと思いました

11
埼玉県立和光国際高等学校
課 Ⅲ
自 白磁の月の輝宮夜 /  樽屋雅徳

ドラムセットが派手。ラメラメのデザイン
ハットの位置も高く「戦闘体制のカマキリ」みたいでした
あれはプレイヤーのこだわりか、先生のこだわりなのか・・・
軽快なレトロ
自由曲はオーボエソロの入りが難しいと思うのですが
安定感がパねえと思いました
こういう曲って、ついセンチメンタルにやりたくなって
やり過ぎちゃうと思うのですが
制御しつつ最後まで統一性のある演奏を心掛けていた点は
素晴らしいと思いました

12
埼玉栄高等学校
課 Ⅱ
自 歌劇「アンドレア・シェニエ」より /  U.ジョルダーノ /  宍倉晃:編曲

冒頭から「がぶり寄り」されたかのような幅の広く、そして清潔感のある音
ポロアリはまるで歌詞が聞こえてきそうなアリア
そのあと遠くからやってくるテーマ、火のようなアッチェルもいいなって思いました

自由曲はそのまま身をゆだねて聴いておりましたわ

13
新潟県立長岡大手高等学校
課 Ⅲ
自 歌劇「アンドレア・シェニエ」より /  U.ジョルダーノ /  宍倉晃

パキパキと快活な演奏はまるで「早口言葉」のようなレトロ
誤解を恐れずいうなら志村けんの「なまむぎなまごめ・・・」のシーンを
思い出しました

自由曲はパーカスのイントロから歌スタートがいいなって思いました
いっきに世界が広がるようでした
カットでぜんぜん印象が変わる!

14
山梨学院高等学校
課 Ⅲ
自 交響曲第3番「ドン・キホーテ」より /  R.W.スミス

サックス、トランペットがよく聴こえるレトロ
これも曲のジャンルを意識したのだと思いました
自由曲はオーボエソロが印象に残りました
この曲は初めて聴きましたが私の世代はRWスミスがコンクールで
人気の作曲家だったのでこの選曲は
うれしかったです

15
埼玉県立伊奈学園総合高等学校
課 Ⅱ
自 「スペイン狂詩曲」よりマラゲーニャ、祭り  /  M.ラヴェル  /  森田一浩 : 編曲

pの表現を大事にしたポロアリ
ここまでpを丁寧に演奏したのは今日の中ではここが一番だったと思います
課題、自由曲と合わせていつもより最後の方までボリュームを抑える選択をされたように感じました
自由曲はスライドトランペットも使用
アングレソロの前にトロンボーンとかぶせて演奏したようです
(ライブ配信では映像には映らず確認できませんでしたざんねん)

16
群馬県立前橋東高等学校
課 Ⅲ
自 交響詩「鯨と海」 /  阿部勇一

レトロ冒頭の伸ばしにfp からのクレッシェンドを少し入れていました
これもビッグバンドのやり方
自由曲は前半から迫力ありの演奏
左右に揺さぶられるよう、聴いていてこちらも体力を使う曲

17
群馬県立伊勢崎高等学校
課 Ⅲ
自 カントゥス・ソナーレ /  鈴木英史

落ち着きのあるレトロ
自由曲はぶつかる系の和音や細かい動きも全体通して
丁寧な演奏を心掛けているようでした
かといって消極的な演奏になることもありませんでした

18
東京学館新潟高等学校
課 Ⅲ
自 中国の不思議な役人 /  B.バルトーク /  齋藤淳 : 編曲

まず注目したのは中低音のバッキングがはっきりしており
推進力のあるレトロになっていたことが素晴らしいと思いました
ドラム、ビブラフォン、ボンゴを中央に密集させ、バンド全体に
安心感を与えていたように思いました
自由曲は全体的にはっきりした音なので
細かい音もよく聴こえる
ベーストロンボーンの方は途中テナーに持ち替えてのソロで大活躍でした

19
春日部共栄高等学校
課 Ⅰ
自 楽劇「サロメ」より7つのヴェールの踊り /  R.シュトラウス /  中村睦郎 : 編曲

煌めきは明るい演奏。ユーフォの対旋律(裏メロ)が他の学校より浮き出ており
それがいい効果を生んでいたのかなと思いました
自由曲はTwitter上で見かけた方の意見では「物足りなさがある」と
おっしゃる方がいましたが、例えばラストの部分はベートーヴェンの運命が
元ネタとなっていると言われており、楽譜には「極めて速く」と指定がありますが
まんま鵜呑みにすると元ネタ感がなくなるのであれでよいかと思われます

なんてウンチクっぽいことをついみんなに言わせてしまう春日部共栄さん

20
山梨県立日川高等学校
課 Ⅲ
自 歌劇「蝶々夫人」より /  G.プッチーニ /  宍倉晃 : 編曲

ドラムのバスドラムやハイハットがヘビーなものをチョイスしていたのか
ややどっしりした運びのレトロ

自由曲は冒頭のソプラノサックスから引き込まれました
サックスやオーボエに自信のあるバンドでなければおいそれと
選べない曲だと思いますが、そんな不安もなく美しい演奏を
楽しめました

21
中越高等学校
課 Ⅲ
自 楽劇「サロメ」より7つのヴェールの踊り /  R.シュトラウス /  小野寺真 : 編曲

自由曲はチェレスタ(鍵盤楽器)が入っており
輪郭のあるサロメになっていました
原曲の弦楽器が入った雰囲気をそれで実現させようと
していたのかもしれないですね
後半のだいぶ後のほうまで「狂ってる感」は抑えていたように感じました

22
埼玉県立越谷北高等学校
課 Ⅲ
自 交響的断章  /  V.ネリベル

今日イチ速いレトロ
本人たちのノリやすいテンポ感がこれだったのでしょう
ボンゴのグリッサンドは他にはない感じで面白く聴きました
そのグリッサンド直後はバンド全体が前方を向いて吹いていました
音響と、演出も少し入った工夫ですね
ネリベルも速めでスリリング
ネリべル作品はバンド全体がよく鳴る作りをしているので
その特徴をここのバンドがいかんなく聴かせてくれました

余談ですが私たちの知っているネリベル作品
(コンクールでも耳にする交響的断章・二つの交響的断章・アンティフォナーレなど)
はほんの一部に過ぎず、教育用に書かれた作品などを含め無数にあるのですが
演奏される機会がなく埋もれてしまっているそうです
音楽大学など比較的楽譜が調達しやすい機関でぜひ発表していただきたいと思います。ネリベル好きより



さいごに

今回全国大会の代表に選ばれた学校はありますが、
その学校がやっていない表現で素晴らしいと思った他校の演奏は
たくさんありました
私はコンクールはお祭りだと思って楽しく聴いているのですが、どうしても全国大会がチラつくと独自の緊張感が生まれます
それが強過ぎて他の団体の良かったところ・いまいちだったところを発見できなくなると勿体無いので、ここでは賞には触れず各団体の良かったところをあげてみました
今回出場された皆さんはあまり結果にとらわれ過ぎず、イチ聴衆としては
今後さらに良い演奏を聴かせていただけたらわたしうれしいです

みなさんの演奏、また楽しみにしております

吹奏楽部の耳