何者
忘れないでくれ、僕が出した音を。
忘れないでくれ、僕が放った声を。
忘れないでくれ、僕が生きた証を。
何者にもなれない僕らが遺すものはなんだろう。
すごくちっぽけな記憶だけじゃ飽き足らない。
誰も知らないことを知りたい。
皆知ってることを忘れてでも。
ねえ、何者にもなれないよ。
唯一の存在だって誰でもないんだ。
誰も知らないことを知ってたって
誰もそれを知らない。
ねえ、何になりたいの。
何がしたいの。
何を知りたいの。
僕は知ってるんだ。
僕が知ってる音はこんなもんじゃない。
そのことを誰も知らないから、
伝えなくちゃいけないのに。
僕が知ってる音は僕にも分からない。
もっと大きくて、小さくて、熱くて、かっこよくて、厚くて、繊細で、そしてちっぽけな。
僕しか知らない音がこれだよ。
そうしてこんな感じで握り潰したいんだ。
ねえ、誰も忘れないでいてよ、僕の存在を。
もうすぐ消えちゃうからさ。あと少しくらいさ。
もう少しくらいさ。
どうしても許して欲しいんだ。
僕が何者であっても。
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