満月と沈丁花
自分の中の野生がうごめく春が苦手だった。
突然ぬるんで足元をすくってくる、いや、芯から揺さぶりをかけてくる地球の公転の都合と、どこからともなく漂う沈丁花の香りは、なんとなく連動している。
特に強い自我を持たないが故か、他所の強い自我や自身の情動のような、コントロール不能なものへの忌避感ばかりが強く泡立つ身は、抗いがたい春の引力すら許せなかったらしい。
満月からの風に、華やかで酸い、驕慢な沈丁花の香りが漂うような夜は、残滓の無様と始まり前の浅ましさが神経を逆撫でする。
流れに棹さすことすら業の深い季節。
鈍感になることの良し悪し。
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