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今のラルクが奇跡である理由

前回の投稿で、L'Arc~en~Cielのライブレポートを書いた。

前回のラルクリ、そして今回のツアーで大きな話題になっているのが、何と言ってもセットリストだ。とても今が2020年とは思えないほど懐かしい楽曲が並ぶラインナップになっており、ファンを狂喜させている。

今のラルクが往年の名曲を連発する事を、どうしてそんなに特別に感じるのだろうか?バンドの歩みと、それを見守ってきた1ファンの視点で綴っていきたい。

ラルクと私

音楽を好きになって数年の間によく聴いたアーティストは、生涯に渡って特別な意味を持つと思う。自分にとってL'Arc~en~Cielは、そんなバンドの1つだ。

1990年代後半から2000年頃にかけて、ラルクの音楽は日本中を席巻していた。当時は自分も未だ子供で、流行りの音楽として消費していた部分もあった。でもその後より深く音楽を知るにあたってラルクで培った感性は活きていったし、バンドにそのような意図があったかはともかく、ある種音楽的な教育を受けた感覚に近いと思う。リアルタイムではなかった初期のアルバムも、遡って聴いていた。(因みに今回の記事においては、「初期」というワードをsakura在籍時代までを指して使う事とする)

自分自身、ラルクの活動から著しく目を離した時期はない。しかし、1番好きだった時期は自分が未だ子供で、ライブを観る事が出来ていないのが惜しまれるという気持ちはずっとあった。

次第にバンド活動は各々のソロワークスと並行して行われるようになり、ライブの本数が減少。また時々ライブを行うにしても、当時の最新作を中心としたセットリストが組まれるのが普通だった。

それは現在進行形のバンドとしてごく普通の事であるし、長く活動を続けてくれる事自体に感謝すべきではある。でもそんな事は百も承知で、やっぱり自分の原体験となったあの頃の曲を1曲でも多く観たい。それがリスナーとしての正直な気持ちだった。特に初期曲にはほぼ"封印"されていた過去があり、それが自分自身の渇望感をより加速させていった。

封印された初期曲

1997年、sakuraの事件による活動自粛から復活した後のラルクは、イメージを塗り替えるかのように怒涛のリリースを行っていた。新曲でヒットを連発しメディアにも積極的に露出する一方、sakura時代のPVは事実上封印状態にあり、CSで特集をする時も「虹」以降の楽曲しか流れなかった。因みに、1998年~2000年にかけて行われたライブのDVD3タイトルには、活動休止前の楽曲は2曲(「Caress of Venus」「Blurry Eyes」)しか含まれていない。

2001年、メジャーデビュー以降の全シングルからファン投票で選ばれたシングルベストには初期の楽曲が3曲収録されているが、これ以降バンドの活動自体が激減。その後、メンバーがソロ活動に専念していた2003年にはレコード会社主導でメジャーデビュー以降を総括するベストアルバム3タイトルがリリースされた。初回盤には長らく封印されていた初期のPVを収録したDVDが付属し、同年行われた久々のライブでは初期の楽曲も少しずつセットリストに戻っていった。転機となった1997年からここまで6年。当時の体感としてはとても長かった。

2010年代のラルク

そして2011年に開催された20周年ライブは2日間セットリスト重複無しで、特に初日は1998年のアルバム「HEART」までの楽曲しか演奏しないという特別な内容だった。久しく演奏されていなかった初期のレパートリーが次々に披露され、長年のファンは狂喜乱舞。最新のラルクがあの頃の名曲を届けてくれる、その奇跡を噛み締める時間になった。

しかし2012年のアルバム「BUTTERFLY」のリリースツアーを最後にライブ自体が激減、全国を廻るようなツアーは開催されなくなった。その後ライブと言えば約1年半に一度開催される2日間の公演のみ、という極端な状態になっていく。但し新作アルバムのリリースもないため、2015年のL'ArCASINOあたりからは最新作中心というよりも幅広い時代から選曲されたセットリストへと変化。昔の曲を聴きたい古くからのファンにとっては、ある意味嬉しい展開だ。

そして訪れた初期曲大解禁

どんなに古い曲ばかりがセットリストに並んでも、最新曲も1曲は用意される。それはバンドが現在進行形で動いている意地のようにも感じていた。しかし新曲のリリースは2016年を最後に途絶え、2018年のライブ・L'Archristmasからは本当に昔の曲ばかりでセットリストが構成されるようになった。10年以上振りに演奏される曲が複数セットリストに並ぶという異常事態だ。長年のファンへのサービスなのか、バンドの可能性を改めて見つめ直す目的もあるのか。埋もれていたものも含め未だ未だ名曲があると言わんばかりに、バンドの底知れぬポテンシャルを改めて示すようなライブだった。

そして迎えた2020年、約1年振りのライブは実に8年振りの全国ツアーだ。結局新曲のリリースは無し。また全曲サブスク解禁の影響もあってか、ヒット曲からレア曲まで幅広い選曲で組まれたセットリストになった。しかもアンコールまでに披露した全20曲のうち、前回のクリスマスライブと重複しているのは僅か2曲。そんなファンへの配慮も嬉しい。セットリストの若返りは更に進み、1番新しい曲でも9年前・2011年の「XXX」だ。他19曲は全て10年以上前の曲という事になり、次に古い曲となると2008年の「DRINK IT DOWN」や2007年の「Pretty girl」「SEVENTH HEAVEN」まで遡らなくてはならない。また、2000年までに発売された楽曲が過半数を占めていた。

1997年以来の「風にきえないで」

今回のライブでは約23年振りに「風にきえないで」が演奏された。バンドは1996年、この曲で初めてオリコントップ10入り(4位)を果たした。にも関わらず、この曲はスポットを浴びる機会が極端に少なかった。
ラルクは何度かベストアルバムをリリースした事があるが、この曲が収録されたのは1度だけ、レコード会社主導でリリースされた時のみだ。その作品は2000年までの全シングルを網羅したものだったため、収録はある意味当然と言える。他のファン投票やメンバーセレクトによるベスト盤ではことごとく外され、ライブでも全く披露されていなかった。特に前述の2011年・20周年ライブの初日に披露されなかった時は、もう生で観る日など一生訪れないのだ、と悟ったほどだ。

どうしてこの曲にこだわるのかと言えば、自分にとってラルクとの出会いの曲だからだ。最初は読み方が難しいバンドという程度の印象だったが、その後ハマるにつれてこの曲が一番好きになった。囁くようなhydeのヴォーカルとサビに向けて加速する90年代らしい疾走感、そして開放的なサビ!その塩梅がとにかく最高だ。後から入手した8cmシングルをよく聴いていたが、今回のライブではカップリングの「I'm so happy」も併せて2曲連続で披露された。こんな事が2020年にもなって起きるのか。セットリストを知っていたとは言え、信じられない気持ちでライブを観ていた。音楽には人の気持ちを一瞬でタイムスリップさせる事ができるという不思議な機能がある。僕の心は、完全に1996年にスペースシャワーTVでPVを見ていたあの日に戻っていた。

今のラルクこそが奇跡

もう3年も新曲を出しておらず、今のラルクに新規の若いファンがそんなについているとはあまり思えない。しかしライブは即完どころか入手自体が難しく、未だ未だニーズは根強い。たまにしか現れないからこそ余計に付加価値を高めているとも言えるが、年齢を重ねてもついて行くファンが未だ多い事に変わりはない。2020年にもなってラルクが"あの頃"の曲をこれだけ演奏している。こんな未来は、正直全く予想していなかった。それだけでも、十分過ぎるぐらい特別な事なんじゃないかと思うのだ。願わくば、この奇跡が少しでも長く続きますように。



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