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オープン直前のコロナショック。独自サービスで1000万円の支援を集めた石垣島初のライフスタイルホテルによる生存戦略

ホテルをとりまく業界の先輩たちから龍崎翔子が学ばせてもらう対談企画「ニューウェーブホテル概論」。新型コロナにより移動が制限される中、オンライン通話を活用して連載を続けることになりました。今回対談に応じていただいたのは、沖縄・石垣島初のライフスタイルホテル「THIRD石垣島」を手がけたスターリゾートCEOの佐々木優也さん。

2016年創業のベンチャー企業が手がけた初の自社ホテルオープン直前に直撃したコロナショック。しかし、独自で生み出した「みらいパスポート」というサービスによって、1000万円以上の支援を集めることに成功したと言います。ホテルスタートアップらしいスピード感で、その後も新たなサービスをどんどん立ち上げている佐々木さんに、これからのホテルの生存戦略についてお話を伺いました。

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佐々木優也 スターリゾートCEO/大学在学時に美容商材EC事業で起業。大学中退後、街コン事業を展開し売却。マーケティング会社を立ち上げた後に、民泊事業を展開し事業売却。2016年にスターリゾートを創業した


開業延期になった初の自社ブランド「THIRD石垣島」

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龍崎:今日はよろしくお願いいたします。今は佐々木さんは石垣島にいらっしゃるのですか?

佐々木:今は沖縄の那覇の自宅にいるんです。緊急事態宣言が出て以来石垣島には行けていなくて。

龍崎:そうですよね。「THIRD石垣島」にはどなたかいらっしゃいますか?ぜひ簡単にホテルを見せていただければと思いました。

佐々木:現地にいるメンバーに案内してもらいますね。

龍崎:ありがとうございます。めちゃくちゃ景色がいいですね。

佐々木:ここは6階建の屋上にあるルーフトップです。目の前が竹富島などの離島に行くためのフェリー乗り場なんです。その先は海ですね。このホテルは2階がエントランスになっていて、1階は施主さんのお店が入っています。みんなが知っている「海人」のお店です。

龍崎:沖縄らしさ満載ですね(笑)。現在もホテルは営業していないのですよね?

佐々木:はい。今年3月にオープン予定でしたが4/24まで延期し、それからさらに開業延期になっています。実は僕もまだ完成してから伺えていないんです。

THIRD石垣島_ルーフトップ_眺望

(ホテルからの眺望:THIRD石垣島提供)

龍崎:それは悲しいですね。ここのオープンに至るまでの経緯について教えていただけますか?

佐々木:ここにはもともと違うホテルができる予定で、躯体まで完成していたのですが、金融機関から「ホテルをやりませんか」と連絡をいただいたんです。聞くとオペレーター(運営会社)がホテルを運営できない状態になっていて、うちに話が来た。カプセルホテルになる予定だったらしいのですが、観光業がメインとなる石垣島では集客が難しいだろうということで、壁を壊して今のような広い客室にすることでご納得をいただき、われわれが引き受けることになりました。

龍崎:御社としてのホテルの運営自体はいくつ目ですか?

佐々木:他社のホテル運営は十数棟やってきましたが、自社としてはここがはじめてのホテルになります。

龍崎:満を持しての自社ホテルということですね。

佐々木:そうですね。これまでオペレーションに特化してきましたが、ホテルのオペレーションだけではブランド力を維持できず、どんどん薄利多売の商売になってしまいます。今回のような有事の際でもオペレーションだけでは厳しいだろうと数年前から感じていたので、自社ホテルをやりたいということは常々感じていました。2019年1月にお話をいただき、1年かけて準備をした形です。

龍崎:どのような方に来ていただきたいと考えていますか?

佐々木:顧客層は私とも年代の近い30代前後の方ですね。もともとオープンにあわせてインビテーションステイ(招待)を2週間ほどやる予定で140〜150名の方をお誘いしていたのですが、結局叶わず・・・。本来であればその口コミやご紹介から少しずつ認知を広げていこうという戦略でした。ホテルのD2Cといいますか、比較がベースにあるOTAには依存しないホテル作りを目指していました。


コロナショックでホテル業界はどうなっている?

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龍崎:新型コロナによってホテル業界は厳しい状況です。特に家賃の固定費だけでも厳しいという声も多いですが、佐々木さんは最近の状況をどう見ていますか?

佐々木:家賃を払えていないオペレーターさんも出てきているそうですね。倒産する企業も出てきました。一番ダメージを受けていないのは(売上に応じた家賃を支払う)変動賃料制の会社さんですね。

龍崎:自前の不動や賃貸、運営代行によるマージン収入など、ホテル運営にはいろんなパターンがありますが、今はリスクに強いビジネススキームが功を奏していますよね。

佐々木:借り上げ(固定賃料)だと、調子がいいときは利益率も高いのですが、今のような状況でリスクが高すぎると前々から感じていたんです。万が一倒産する時にも、自社物件なら不動産価値が残りますが、借り上げだとそれすら残らないですからね。

龍崎:スターリゾートの運営するホテルはどのような仕組みですか?

佐々木:主に3つで、借り上げと変動賃料、最後は運営委託ですね。

龍崎:一番いいのはどれですか?

佐々木:やはり圧倒的に変動賃料じゃないですかね。借り上げの方が利益が2倍近くになることもあるのですが、リスクが高いので、当社としては固定賃料制を増やしていくべきではないと現状考えています。

THIRD石垣島_カフェバー_3

(THIRD石垣島提供)

龍崎:一方で、オーナーさんは固定賃料を求めることが多いですよね。

佐々木:そうですね。ただ僕が不動産出身ではないからか、当初から借り上げという選択肢はあまりなかったんですよね。

龍崎:なるほど。ちなみに、沖縄でのホテル運営が多い印象なのですが、沖縄のホテル市場の特徴はありますか?

佐々木:競合が少ないという印象です。沖縄には良くも悪くも魅力的すぎる観光資源があるので、多々あるホテルの中でも、手の込んだホテルは多くありません。ここ最近増えているホテルはどれもすごくいいなと思いますが。

龍崎:たしかに、素敵なホテルは東京や京都など、ホテル自体が飽和しているところに多いような気がします。私も沖縄でいつかホテルをやりたいんですが、工事が全然進まないと聞きました(笑)。

佐々木:工事は比較的遅れることが多いですね。「THIRD石垣島」ももともとは去年末竣工の予定でしたが、台風などの影響もあり、3カ月くらいは遅れました。でも、早い方ですよ。あとは、人々の性格もおおらかというか、ゆったりしている人も多く、ホテルの従業員が面接に遅れてきても気にせず歩いてくる、みたいな話を聞きますね(笑)。せっかちな方だと、沖縄では日常生活でもイライラすることが多いのかもしれません(笑)。

「みらいパスポート」にホテル売買プラットフォーム、次々に新事業を立ち上げ

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龍崎:今回は宿泊券のお話を聞きたいと思っていました。販売から1カ月で1000万円以上売れたそうで、本当にすごいなあと。このような状況なので、何か手を打ちたいと考えているホテルはたくさんありますが、どうやって売ればいいのかわからないというホテルも多いと思います。今回なぜこんなにご支援をいただけたのだと思いますか?

佐々木:ありがたいことに販売開始から3日で500万円、半月で1000万円を超えました。でも、特に何か難しい戦略を練ったわけではなくて、始めるのが早かったことが大きいかなと思っています。開業していないホテルでファンも少ない状況だったので、自分たちの周囲の人にだけでも素直な思いを伝えたいと、noteを書いたのも良かったのかもしれません。まずはnoteに共感してくれたまわりの人が応援してくれて、購入し、拡散をしてくれました。その結果、SNSで広がりを見せ、これまで接してなかった多くの方々にまでご購入していただくことができました。実際に購入者は知人が2割で、つながりのない方が8割だったんです。

龍崎:早かったというのはすごく大事ですよね。

佐々木:あとは、よりリーチを広げようとテレビや新聞などのマスメディアにアプローチをしました。マスメディアは必ず悪いニュースと良いニュースを両方伝えます。今回の場合で言うと新型コロナで世界が大変なことになっているというBADニュースとそんな状況化の中でもこんな取り組みをして頑張っていると言うGOODニュース。自分たちはまだまだ小さい企業だからこそ、テレビや新聞などのマスメディアのディレクターや記者に対して「売上や販売推移などの数字」を共有することで興味を持ってもらい、取り上げていただくことができました。

龍崎:素晴らしいPR戦略ですね・・・。加えて、今月は宿泊施設に特化した売買マッチングプラットフォームを始められました。これはいつから準備を?

佐々木:リリースする2日前ですね。ホテル業者のためになることをいろいろと模索していた中で、以前からホテルの売却の相談が多かったこともあって、自分たちのリソースを活用すれば取り組めるんじゃないかと。いろんなアイデアがあったのですが、まずは確度の高そうなマッチングプラットフォームに取り組もうという気持ちでした。

龍崎:すごいスピード感ですね・・・・。このサービス、どのような特徴がありますか?

佐々木:これまでのM&Aマッチングサービスと大きくは変わらないのですが、ホテルに特化していることでしょうか。今は売り手(=ホテル事業者)が苦しい状況なので、売り手は手数料無料、買い手から売買の3%を手数料としていただく形にしています。すでに買い手が30社くらい集まっていて、売り手も5施設くらいから相談をいただいています。今のサイトは私が作った仮のものなので、5月中にβ版のプラットフォームを作ろうと思っています。

龍崎:ちなみに、どんな企業がホテルを買おうとしているんですか?

佐々木:不動産ディベロッパー(不動産開発業者)が多いですね。会社の規模が大きくて、不動産業以外にも注力している企業は今は売買には手を出さないところが多いですが、不動産売買をメインにしている企業さんだと、苦しい時期だが少しでもお得に買えるなら買おうとしている印象ですね。

龍崎:売り手はきっと増えますよね。

佐々木:増えますね。今後、緊急事態宣言解除されても、すぐには人が観光地にあふれることはないと思っています。都市間の移動も減るだろうし、売り上げが伸びずに赤字が続いて今後売却を検討するホテルは今後半年で増えるだろうと思います。


ベンチャー企業は今、走り続けないと倒れてしまう

THIRD石垣島_ルーフトップ

(THIRD石垣島提供)

龍崎:まずは最初の事業ということでしたが、今後について、他にも考えていることがあれば、ぜひ教えていただきたいです。

佐々木:実はホテルに全く関係のないことをやろうと思っています。料理教室などが苦戦している状況を知って、zoomなどのウェブ会議ツールを使って、有料ライブ配信ができる「amanoi(アマノイ)」というサービスを直近でリリースしました。

龍崎:やはり、すごいスピード感だと思います。御社はどのようなメンバー構成なんですか?

佐々木:社員は全部で20人くらいです。エンジニアやデザイナーが社内にいるので、こうしたサービスに挑戦できるんです。

龍崎:本来オペレーションに従事する予定だったスタッフはどうしていますか?

佐々木:今は完全に休業しています。新規事業を作って、そこで人出が必要になればいいなと思っていますが、数カ月の間で軌道に乗るかどうかがまだ見えないですからね。難しいですよ。

龍崎:そうですよね。最後に、佐々木さんが予想するこれからのホテル業界についてお聞きしたいと思います。

佐々木:これから一年間は、まともに売り上げが上がることはないでしょう。大手は企業は資本力があるので我慢できますが、当社のようなベンチャー企業は打ち手を止めることなく、走り続けないと倒れてしまうので、まずはホテル事業以外の収益を作ることが必要だと思っています。ホテル市場自体は一年半くらいすればもとに戻ると思うのですが、オペレーションチェンジ(運営会社の変更)なんかは増えるでしょうね。一方で、顔認証や非接触などのサービスが主流になるという声もありますが、ホテルを利用する方が非接触デバイスなどを好んでホテルを選ぶという状態にならなければ、私は主流にはならないと思っています。

龍崎:PMS(ホテル管理システム)などのサービスとの連携も必要ですし、なかなかホテル側はシステムへの投資をしませんからね。

佐々木:その状況をなんとか「CHILLNN」で変えてください。

龍崎:頑張ります。お話を聞いて、佐々木さんの決断力とそのスピード感が素晴らしいなと思いました。

佐々木:ありがとうございます。決断においては会社の存続に関わるようなことなら期限を決めてじっくり考えますが、そうでなければ、経営メンバーに相談をしてその場で決断してしまうことがほとんどです。スタートアップだからこそ、小さなチャンスを見つけていかに早くベットできるかが重要だと思っているので、意思決定のスピードを意識して、これからも頑張りたいと思います。

龍崎:とても勉強になりました。本日はありがとうございました!

今はまだ旅に出ることができないなか、「THIRD石垣島」が「未来に泊まれる宿泊券」の導入を開始してくださいました。対談を読んで泊まりたいと思った方はぜひこちらもご覧ください!
対談を終えてーー
ホテルオープンを目前にしながらのコロナショック。その逆境の中でも、宿泊チケットの販売や新規事業のローンチなど一歩ずつ前進を勧めているスターリゾートは、従前からのリスクマネジメントと迅速な意思決定プロセスなどの骨太な経営に支えられていました。肝いりプロジェクトの「THIRD石垣島」がゲストで賑わう日を楽しみにしています。


(文:角田貴広、写真:小川遼


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