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レモン水は特別な味|なくならないでほしいホテル Vol.2

「HOTEL SHE,」などを運営するL&G GLOBAL BUSINESSで働くスタッフや、いつも応援してくださる皆様と一緒に「なくならないでほしいホテル」という連載をはじめました。絶対になくなってほしくない推しのホテルを主観たっぷりでお届けします。

「なくならないでほしいホテル」というテーマなのに、僕の選ぶホテルはなくなってしまった。正確にいうと移転だけれども。

出身が宝塚ということもあって、よく小さい頃から連れて行ってもらったのが宝塚ホテルだった。

祖父は生前、宝石の鑑定士を生業にしていて、世界中を飛び回っては宝石を買い付け、それらの販売をしていた。イギリスで生地を購入して、日本でスーツをオーダーするような粋な人だったし、精神的にも経済的にも豊かだった。

そんな祖父は「豊かな経験は豊かな人をつくる」と考えていた人だったので孫の誕生日や祝い事の時はよく宝塚ホテルのレストランを選んだ。子供ながら、廊下やエレベーターのホテル独特の香りが好きで行く度に背筋が伸びるような、清々しい気持ちになった。

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(僕が0歳のときの集合写真。右端が祖父)

物心ついてからはじめて宝塚ホテルのレストランに行った時は、出てきたチェイサーが「水やのに、レモンの味がする…!」と驚いた。しかも、ピシッとした制服を着たスタッフの方が毎度、このレモン味の水をピカピカのグラスに入れてくれるのでちょっとした偉い人になった気分だった。

僕がホテルを好きなのは、子供のころのそういった経験も大きな理由なのだと思う。今でもホテルに泊まった際に「ホテルの香り」を感じると嬉しくなる。

中学生以降は部活があったり、友達と遊んだりと祖父との関わりが薄くなった。社会人になってからは祖父が毎月定期検診で病院に通うようになり、僕が運転手をすることに。

いつも、宝塚から兵庫県の西宮という所にある病院に向かい、帰りは宝塚駅近くのスーパーで日用品を買って家まで送るのが一連のルート。

その車内で色々な話をした。「どんな仕事をしていた?」「出張で行った国で一番好きなところはどこ?」「おばあちゃんとはどこで出会った?」など子供の時には全く関心の無かったことをたくさん質問し、月一回のその時間が好きになった。

1年半くらいそんな事を続けていたけど、祖父の体調が悪くなり入院することになった。その当時、僕には恋人がいて、よく一緒にお見舞いに行ってくれていた。

それまで、お互い結婚願望はなかったけど、祖父の病院へお見舞いに行くことで家族になることを少しずつ意識し始めていた。そして祖父は結婚式を見たいと言っていたし、お互いの家族も結婚を応援してくれたこともあって結婚をすることにした。どうせするなら、祖父に結婚式を見せてあげたかった。

祖父はかなり体調を悪くしていたこともあって、結婚式の半年ほど前に婚姻届を出した。市役所で婚姻届を提出した後は久しぶりに宝塚ホテルに行き、当時の妻と母の3人でランチを食べた。その時に子供の頃によく来ていたことも思い出していたし、レモン水に感動したことは大人になった今考えると少し可笑しかった。

祖父に結婚を報告をした時は喜んでくれたのかどうか正直あまり覚えていない。それほど容態の悪化が速くて、僕自身焦っていたからだ。

結局、祖父に結婚式を見てもらえなかった。間に合わなかった。悔しさと申し訳なさはあるけど、婚姻届を提出したことの報告と前撮りの写真を見てもらえたことは本当に嬉しかった。

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「なくならないでほしいホテル」というテーマを聞いた時に真っ先に浮かんだのは宝塚ホテルだった。子供の頃の特別な気持ちや、大人になって感じた祖父の偉大さ、温かさ。家族が増えるという不思議な感覚、そんないろいろな記憶が宝塚ホテルにはあったので、老朽化と耐震問題から移転するという話を知ったときは思い出の地がなくなるようで寂しかった。

でも、ホテルは無くなるわけではなくて新しく始まる。リニューアルオープン後の宝塚ホテルでまた違う思い出を作ればいい、今はそういう風に思えるようになった。

実は、僕が働いているHOTEL SHE, KYOTOの1Fカフェラウンジにはウォーターサーバーがある。その中にも輪切りのレモンが入っているので、小さい子供が水を飲む時は様子を見てしまう。自分が子供の時に感動した瞬間があったようにこの子も…なんてことを考えながら水を手渡している。

文・写真:田中幹人(L&G GLOBAL BUSINESS)


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