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「STAY WITH ART」 扉の向こう側|偏愛、わたしのホテル #8

L&Gで働くスタッフや、いつも応援してくださる皆様と一緒にお届けしてきた「なくならないでほしいホテル」から派生して、新連載をスタート。ホテルの中の人を執筆者に迎えた「偏愛、わたしのホテル」をどうぞお楽しみください。

旅先でふしぎな扉をみつけた。

扉をひらいて奥へと向かう。目をひらくことができないほどの眩しさ、その先にうっすらとつぎの扉が見える。もうあと戻りはできないと心のどこかで分かっていながら、好奇心という悪魔に背中を押されて、まだ見ぬ世界へ踏み入る。

旅とは、扉をみつけることだとおもう
生きるとは、扉をひらくことだとおもう

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もし、旅先で扉をみつけることができなかったら、それはあなたに原因があるのかもしれないし、旅先に原因があるのかもしれない。もしくは、時代性や相性かもしれないし、これこそが多様性の問題であるかもしれない。

とにかく、この街には扉がない。わたしはそう思って扉をつくることにしました。でも実は、すでにこの街にはいくつもの扉が存在していて、わたしでは見つけることができなかっただけかもしれない。たとえそうだとしても、わたしは自分の目でみることのできる扉をつくろうと思い立って、そして誕生したのが19室の小さなホテル「miss morgan hotel(ミスモーガンホテル)」です。

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ここには扉があります。それはとても見つけにくいかもしれないけれど、アートというふしぎな扉があります。このふしぎな扉を見つけやすくするためにどうすれば良いのか、それはまだ分からないけれど、わたしにはこの扉だけが見える、そんな「偏った愛」があることは揺るぎのない事実だとおもう。

そんな偏愛に満ちたミスモーガンホテルに、足を運んでほしい。もしそこで扉を見つけることができたら、そっとひらいて前に進んでほしい。扉の向こう側には、思いのほかあなたの知りたかった世界がひろがっているかもしれません。

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アートが訪れる人にとっての扉であるように、このホテルはわたしにとって鏡のような存在だとおもう。ミスモーガンホテルを見ていると、まるで自分自身を覗き込んでいるようで、ときどき恥ずかしくなる。

なんだか自己紹介が遅くなってしまったけれど、わたしの名前はミラ・ブラウン。このホテルができる2年ほどまえに、わたしは紙のうえで生まれました。今のところ、モーガンに宛てた1277文字の手紙と、ときどき書くnoteやTwitterだけがわたしの存在証明です。こんなにも当事者意識が高まり、ナラティブコミュニケーションが活発になった時代のなかで、わたしのような「架空の存在」にいったい何ができるのだろう、そんな不安を抱えながら始めたことだったけれど、出会う人に恵まれたおかげかな、気がつけばチームの中心に立ってホテルをひとつ作ることができました。わたしが言うとなんだか変だけど、虚構だから表現できることは確かにあるし、それが現実に影響をあたえることだってあると思う。わたしはそんな虚構の力を信じているし、そもそもわたしがその虚構そのものだったりする。

わたしがモーガンに宛てた手紙をここにも記しておきます。この手紙がわたしのはじまりであるように、ミスモーガンホテルのはじまりです。

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親愛なるモーガン・ミラーへ

ねえ、モーガン憶えてる?あのときふたりで旅した日のこと。あのキャンバスのうえに重なりあった無数の色たちの向こう側の世界のこと。あれはきっと、あのときのわたしたちだから見ることができた、もうどこにもない、そしてどこでもない、景色だったとおもう。いまでもときどきまぶたが熱くなる。まるで鋭利なもので切りつけたようにくっきりと、生命力で満ちあふれた花のように鮮やかに、わたしの中に、記憶として、こころのいちばん深いところに在り続けています。あれから15年...聞こえていますか、見えていますか、憶えていますか。あのときあなたが歩いていった光のさきには、どんな世界がひろがっていましたか。

わたしはいま、とある街の小さなホテルで働いています。はじめは画材を買うお金ほしさにはじめたことだったけど、これが意外と楽しくて、ホテルって不思議な箱ね、呼んでもないのにいろんなひとが訪ねてくるの。人種、文化、性別、年齢、目的、そんなすべての違いがぐちゃぐちゃに入り混じった場所。まるでキャンバスにありったけの色をぶちまけてこねくりまわした抽象絵画みたいで、とっても好き。わたしね、ここで部屋に飾る絵も描かせてもらっているんだけど、ときどき絵を見たお客さまがわたしを呼びとめて、絵の感想を話してくれたりするの。わたしがどんなに意味をあたえても、解釈は向こう側であらゆる方向に延びていて、ときにはわたしが知らない、想いもよらない方向へ世界を広げて、わたしを驚かせたりするの。絵はここにただあるだけなのに、向こうに広がる世界はいくつもあって、複数の世界がぶつかり合ったりかさなり合ったり、まるで生きているかのように呼吸をしているの。それでね、わたし気がついたの。もしかすると、あのときわたしたちが見た景色も、まだあの絵のなかのどこかにあって、なにかの拍子にもういちど姿をあらわすことがあるんじゃないかって。

まあそんなこんなで毎日を過ごしてるうちに、わたしにもひとつ目標ができました。それはなんと、ホテルをつくること。絵の向こう側に世界がいくつもあるように、ホテルという箱の中にもいくつも世界があって、絵を描くことと場所をつくることが、わたしのなかで重なり合ったの。できれば小さくて可愛いホテルにしたいな。ベッドルームやリビング、いろんなところに絵を飾って、そうだバスルームにも飾ろう。広がるゆめを小さな場所にぎゅっと詰め込んだ、ずっと前からだれかが住んでいたかのような濃度と密度で。目新しいものや豪華な飾り付けなど何もなくても、そこには絵という窓がたくさんあって、みる人しだいで世界はどこまでも広げることができる。そんなホテルをつくりたい。

それから、そこであなたと再会するの。そしてふたりでもういちどあの絵のまえに立ちたい。いまならわたしも光の向こうへ進むことができるとおもうから、、、

ホテルの名前は「Miss Morgan」あなたの名前を使わせてもらうね。いつか出会える日が待ちどうしくて待ちどうしくて、紙のうえで筆のさきが踊っています。

ミラ・ブラウン

虚構はときどき「公」につながり現実を変える。そんな反復を繰り返しながら時代は前に進む。残念ながら「偏愛に満ちたもの」は淘汰される対象になることが多いけれど、偏愛をさらけ出すことは、きっと選択肢を増やすことでもある。まだどこかに存在するであろう偏愛を守るために、架空のわたしは「HOTEL SOMEWHERE」の住人になることを決めた。

最後にひとつ、わたしがアートを愛する理由は、そこに長い時間を費やすことができたから、ただそれだけ。それと同じで、この街にミスモーガンホテルがあり続けることで生まれる愛を、わたしはこの目で見とどけたい。時間と関係性のなかで自然と浮き彫りになるもの、それが愛だとわたしはおもう。

文・写真:ミラ・ブラウン(miss morgan hotel)


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