わたしはカスタムメイドのホテル体験をつくりたい
「旅館なんて、運営側の都合で食事やお風呂の時間を決めたり、大広間に集めたりと通り一辺倒なサービスを提供してばかりで、別におもてなしなんかじゃない」という趣旨のツイートを少し前に見かけた。
この言説に関して、宿泊業関係者として反論できる部分は当然あるが、実に面白い指摘だと思っている。
実際、私はいま武雄温泉にある御船山楽園ホテルで17:30の夕食に間にあわせるべく急いでnoteを書いているし、夜の大浴場は24:00までという話を聞いて夜の作業の段取りを急遽調整している。更に言えば、今日は電車の時間の兼ね合いでチェックインの時間より早く着いてしまい、客室に案内されるのを1時間ほど待つことになってしまった。これはどこのホテルでも当たり前にある光景なのだけど、確かに、せっかく休暇で旅に出て自分の時間を過ごそうと思いきや、ホテルの時間軸の中に組み込まれてしまっており、自分の思い通りに過ごせているかということには疑問符が残る。
仕事柄、ラグジュアリーとされているホテルや旅館、リゾートにお邪魔する機会はあり、概してどこをとっても申し分ないけれど、確かに食事の内容、時間、場所などを自由に選べることはほとんどない(もちろんVIPとなれば話は別で、これはあくまで一般ゲストの話)。ある意味、シェフが自信を持ってオススメする最高のおまかせコースみたいに、そのホテルの提供する最高のワンセットを体験するわけで、自分のした体験と隣の客室のゲストのした体験は多くの場合ほとんど同じだと思って差し支えない。
それが嫌とか楽しくないと思ったわけではないけど、つい気になってしまった。確かに、最高が保証されたおすすめを味わいたい気分の時もあるけど、自分の都合とか好みに合わせてほしい時もあるさ。もちろん、めんどくさければおまかせできる。あなた好みにカスタマイズできます!パーソナライズされます!て高らかに謳う感じじゃなくて、当たり前だよね〜て感じでわたしに合わせてくれるホテル。そんなホテル、どこにあるんだろうか?
食材や調理法を選べる割烹というものが京都にあることを辻愛沙子ちゃんに教えてもらった。祇園楽味(祇園さゝ木の支店らしい)というそのカウンター割烹の名店は、箱の中にあるたくさんの野菜・海鮮・肉といった素材の中から自分の好きな食材を好きな調理法でいただけるのだという。
きくところによると、そもそも割烹というのは、料理人と客が相見えながらこの食材をどういただくか話し合いながら料理が供されていたのだという。「今日はいい鯛が入りましたよ」と大将が言えば「じゃあ刺身を昆布締めにして少し炙って、あらで味噌汁を(注:想像です)」と好みの食べ方で注文する。それが時の流れによって、お客様側の料理へのリテラシーが下がり、今のおまかせが主流になったという。
モロッコには、敷地内のあらゆるところを食事場所に選べるリゾート『Dar Ahlam』があるらしい。プールサイドの椰子の葉の陰、風の吹き抜ける回廊、砂地。たった17室しかないからこそ、ゲストが望む時間の過ごし方でもてなすことができる。もちろん、大きなダイニングに集めてお食事を出す方が目が届くし、美味しい状態で召し上がっていただけるだろうけど、客にはとにかくプールサイドでディナーを食べたい日があるのだ。選ぶのをめんどくさがるゲストにはホテルのイチオシの場所や、配膳しやすくて姿が見えやすい場所をおすすめすれば良い。
台湾の『Play Design Hotel』というホテルの1室『Guest Selection Room』では、なんとインテリアを自由に選ぶことができるのだという。ホテルを予約する際に、テーブルや椅子、照明といったあらゆるインテリアを自分好みにカスタマイズすることができる。前から狙っていた椅子を確かめてみたり、自分のインテリアコーディネートの腕を試してみたりと楽しみ方は人それぞれ。もちろん、選ぶのがめんどくさい人はホテルのおすすめにしたらいい。
もちろん、自分で自由に選べることだけがおもてなしではないとも思う。
最近、京セラ美術館で行われた杉本博司の展示に行ったのだが、そこに同行してくださった方に『味占郷』を紹介していただいた。曰く、杉本博司が老獪な料理人に扮し、都内のとあるマンションの一室で完全招待制の割烹料理『味占郷』にて、国内外の様々な親交ある友人を招き入れ、料理と芸術でもてなす、という趣旨の婦人画報の連載である。ここで杉本博司は、現代アーティストかつ古美術商というそのバックボーンを元に、ゲスト一人一人の来歴や由縁に合わせて床の間のアートを選ぶ。そして、自ら食材を料理して供す。それは、ゲストの医師を江戸時代の西洋の解体図(ターヘルアナトミア的なやつ)とアナゴの開きでもてなす、といった調子。でもそれはきっと忘れがたい夜になるだろう。
何が言いたいかというと、
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