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Sui彩の景色 #20 -小路-

行き着けのファミリーレストランでは決まって窓際の一番端にある4人掛けのボックス席に座る。
勿論混んでいる時は別だが、何時でも空いているというのが、このレストランの最も気に入っているところだ。
「Sui彩の景色#19-針音」を書き終え、そっとノートPCを閉じると、ディスプレイの光を朝から浴び続けた眼球がズキズキと痛むのを感じる。
会計を済ませ店を出ると辺りはもうすっかり暗くなっていた。
「少し遠回りをして帰ろう。」
曲を作る時も歌詞を書く時もそうだが、思考に没入した後には、現実に戻ってくる時間が必要だ。
そういう時には僕の場合、ジムに行って身体を動かすか、サウナに行くか、散歩をするかのどれかになる。
散歩をするならば、出来るだけ普段通らない道を歩くのが良い。
大通りを外れて入り組んだ道に入り、閑静な住宅地をブラブラと歩く。
古びたアパートの投函口、3つか4つ同じ形状をして並んでいる建売住宅、もう誰も住んでいなそうなボロボロの平屋、突然現れる広大な敷地の豪邸、公営団地、誰もいない公園のブランコ、明かり一つない不気味に見える夜の小学校...。
その全ての建造物に誰かの生活や人生がある、或いはあったと思うと、初めて見る建物や景色がなんだか懐かしく思えてくる。

そうやって歩きながら辺りを観察しているうちに、ふと、横断歩道を見上げると青色にも赤色にも光らない歩行者用信号機が目の前に現れた。
その見慣れない光景に僕は見惚れて立ち止まり、カバンの中からカメラを取り出してシャッターを切った。

確かに人生は
「進む」と「止まる」
だけじゃない。

今日僕が歩いた道のように、人生も複雑に入り組み、様々な分岐点があり選択の連続だ。
選択肢は青と赤だけではない。

気付けば随分と遠回りをしてしまった。
そろそろ家に帰ろう。
道中住宅街の中で店内が煌々と光る、すっかり錆びれた24時間営業のコインランドリーを見つけた。
今度ここで洗濯をしてみようか。
そして、洗濯物が洗い終わるまでの間、パイプ椅子に座ってボーッとしているのも悪くない。
洗濯が終わったら、今度はその洗濯物をドラム式の乾燥機に入れて、回転する洗濯物を眺めながらまたボーッとするんだ。
そういう日があっても良い。
遠回りを愛でよう。

P.S
SUIREN Digital New Single
「夢中病 (feat. Lezel)」
無事リリースしました。
沢山聴いて下さい。

写真は夢中病をRecしたスタジオの配線。

(2023.06.15)



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