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Sui彩の景色 #01 -原色-

初めて幼稚園に行くその日の朝。
送迎のバスに乗せようとする母親の髪を
引っ張って、泣き喚きながら乗車拒否する僕を、
何とも言えない表情で見つめる母の顔が
今でもまだ鮮明に覚えている。

席に着くとすぐ、
他の子は誰一人として
泣いてなんかいない事に気付いた。
自分だけが赤ん坊の様に泣いた事が、
なんだかとても恥ずかしいことの様に思えた。



幼稚園では、
なかなか周囲に打ち解ける事が出来なかった。
泥遊びも水遊びもお絵かきも、
そこで行われる何もかもが嫌いだった。
大きな遊具の上に登る子を見上げながら、
どうしてあんなに危ない事が
出来るのだろうと思っていた。
僕が唯一熱中した遊びは、
部屋の隅っこで、おままごと用の泡立て器を
空のボウルに押し付けるという
謎の一人遊びだった。


思えば幼少期はずっと色がなかった。
生きているというよりも、
この世界に生かされているだけのような。
そうして、
どんどん内側の世界にのめり込んでいった。
当時の僕は、自分の頭の中で
一度見たアニメや映画を完全に
再現して妄想の中で再生する事が出来た。


おもちゃを与えられても、
初めのうちはそれで遊んでいたにもかかわらず、
気付くとそのおもちゃを手放して、
そのおもちゃを
頭の中で戦わせたりして遊んでいたのだ。
勿論台詞なんかもあって、
ブツブツと声にならない独り言を呟いていた。


その光景は、僕を知らない人が一見すると、
少々気味悪い光景だったと思う。

当時、妄想の世界にいる時の僕は
いつもお決まりの体勢をとっていて、
胡座をかいて手首を曲げて
地面をこねるよう様な動きをしながら、
体を前後に揺らしてノシノシと
地面に手首を押し付けて、
声は発していないまでも、
口が動いていて確かに
何かを喋っているような…。
そんな状態だった。


母親が僕に
「何をしているの?」
と聴くと、僕は、
「映画を観ている」
と答えたそうだ。


両親はこの癖をなんとか可愛い印象を
持たせられる様に、
手をこねて地面をノシノシ押さえ付けるような
動作から取って「コネノシ」と名付けてくれた。

一見気味の悪いこの癖を、
一つの個性として止めさせる事なく
受け入れてくれたのだった。
そんな内向的な僕の目に映るこの世界に、
やっと色彩が宿る出来事が
小学生になる頃に起こる。
そして、その出来事が。
僕が歌を歌う、その理由であり原体験となる。

#2へ続く


P.S
そんな幼少期から、時は過ぎ…2021年。
12/1にNew digital single
「月に咲く花 feat.成田あより」リリースしました。



来年に向けてレコーディングを沢山頑張ってきましたが、ついに先日2021年の録り納めでした。
歌い終わってヘッドフォンを外すと、
密閉された耳が開放されて周囲の音が聴こえるようになる。
そうすると、曲の世界から現実へとゆっくりと引き戻されるこの瞬間が僕は好きです。
歌い疲れて用意されていた椅子に座り、レコーディングスタジオの天井を見上げて、
ふと、今年は恐らく自分の音楽人生の中で、一番レコーディングをした一年だったな、
そして、一方ライブは一本も無くて、
最も人前で歌わなかった一年だったな…と気付きました。

でも、大丈夫。僕は知ってる。
その時はすぐにやってくる事を。


2022.3.21
いよいよSUIRENの初ライブです。
皆さんにお会いできる事。
楽しみにしています。

(2021.12.15)



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2020年7月より活動を開始した“水彩画のように淡く儚い
歌声を響かせる音楽ユニット”SUIRENのヴォーカルSuiが、
ヴォーカリストSuiになるまでのエピソードを描いた
「Sui彩の景色」

音楽情報サイト連載記事のアーカイブとなります

文・撮影:Sui



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