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Sui彩の景色 -近景- #01-氷菓-

2020年7月より活動を開始した“水彩画のように淡く儚い歌声を響かせる音楽ユニット”SUIRENのヴォーカルSuiが、ヴォーカリストSuiになるまでのエピソードを描いた「Sui彩の景色」(1st Season) を経て
本シリーズ -近景- では、現在のヴォーカリストSuiを彩る
エピソード、モノ、景色を写真とコラムにて、お届けします。


SUIRENを始めてから、もう三度目の夏。
「音楽を辞めよう。」
当時そんな事を考えていた僕の前に、何年振りかに現れ、
「一緒に音楽やらない?」
そう、切り出したRen君との会話がまるで昨日のようにも、遠い遠い昔のようにも感じる。

蝉すら鳴りを潜める程の猛暑。
殺人的な太陽の熱がコンクリートの壁を突き抜けて部屋に充満している。
テレビのニュースキャスターが使う「災害級の暑さ」という言葉を聴くことにも慣れてきてしまった。
いつかは、この「災害級の暑さ」も当たり前になってしまうのだろうか... いや、もう既になっているのかもしれない。
そんな考えに鬱々としながら、自宅制作部屋のエアコンの電源を付けた。
朝食代わりに氷菓子を頬張る僕の口の中に、背徳的な甘みと心地よい冷たさが広がっていく。
食べ終えた氷菓子の棒をゴミ箱に投げ入れて、シャワーを浴び、コーヒーを淹れて戻る頃には、制作部屋は快適な温度になって僕を迎えてくれる。
今年の夏は制作漬けの日々だ。
青い空、青い海、夏祭り、花火大会...、夏らしいものをこの目で見ていない。
今僕の目の前にあるのはPCの画面に映ったDTMソフトの音の
波形の羅列だけ。

幸か不幸か結局僕は未だ音楽を辞められずにいる。
納得のいく何かを生み出したい。
納得のいくパフォーマンスをしたい。
その時に全てが報われる気がする。
だから、この波形との睨めっこを続けられるのだろう。

現在制作を進めている楽曲のワンフレーズを決めるために僕が実際に歌を吹き込んだ無数のテイク。
キー、メロディ、リズムのパターンもその数だけ存在し、ヘッドホンを付けてそれ等を聴き比べながら延々と作業をしていると気が狂いそうになる。
時間や日付の概念が無くなって身体と精神が音の海に揉まれ、口の中で転がされた氷菓子のようにドロドロに溶けて、最後は海岸に打ち捨てられた漂流物みたいになってしまう。

アーティストは大なり小なり似たような経験をしている筈だ。
故に音楽の趣味嗜好や美学が違えど尊敬している。
先日Zepp Shinjukuのステージに立つメンバーの姿を観に行った。
沢山の出演者の中に懐かしい顔もちらほら…。
同世代の切磋琢磨してきた仲間達と再会出来たりすると本当に嬉しいものだ。
彼らもきっと、いつかの日にはヘッドホンを付けてドロドロに溶けていたりしたのだろうか。

初めて訪れた会場の照明がやけに眩しく感じた。
あのステージに立つ自分を想像した。
汗ばむこの熱量は猛暑のせいか。
それとも…。
未だ僕は音楽を辞められずにいる。

P.S
SUIRENのライブが決まりました。
最高の1日になりそうです。
皆さん是非遊びに来て下さい。

Music has no borders Vol.72
2023.09.05(Tue)
GRIT at shibuya
Open 18:30 Start 19:00
 
Sano ibuki
SUIREN
トミヅカダイチ(from toybee)
松本大(from Enfants)

Ticket
Adv ¥4,000(+1D)
Door¥4,500(+1D)
入場順:整理番号順→当日券
tiget.net/events/262794

おまけ
都内某所のベンチでコーヒーを飲んでたら近寄ってきた雀

(2023.08.15)



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