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「押し合い」の判定が、バレーボールという競技の未来を滅ぼしかねない件

◎ ことの発端

 それは、2020年12月5日、ウイングアリーナ刈谷での出来事。
  V.LEAGUE男子 DIVISION1の ジェイテクトSTINGS 対 ウルフドッグス名古屋 戦の第3セット、ジェイテクトが16-15とリードの場面で〝事件〟は起こりました。

 GAORAで中継があり、ご覧になっていた方も多いでしょう。私もテレビで見ていました。いや、テレビは「ついていた」というのが正確かもしれません。

 正直言うと、今シーズンはバレーボールそのものへの興味が薄らいでしまっているというか、普段ならどんなに本職が忙しくても、睡眠時間を削ってでも、試合の動画を見ずにはいられないはずなのに、テンションがなかなか上がらない自分がいます。録画はしているので、見たくなったらいつでも見られるから・・・と思いつつ、ほぼ見返すこともなく気づけばもう、リーグ終盤を迎えてしまいました。

 その日のその場面、チャレンジ判定を巡って揉めているなぁ、というのは気づきました。でも、確か本職の学会のオンデマンド配信をパソコンで聴講しながらの「ながら見」だったので、「いつものことか・・・審判がまた、微妙な判定をしたんだろう」ぐらいの、軽い気持ちでいました。

 その時「たまたま」そういう判定が下った、というだけの話では済まず、「同じ現象がその後も『必然的に』生じ得る」ことの恐ろしさに、不覚にもすぐには気づくことができなかったのです。


 その恐ろしさに気づいたのは後日、信頼する一人の取材記者から、この件で連絡をもらった時でした。

 この日の試合は、V.LEAGUE TV の方ではオンデマンド配信の形で映像が残っており、この記事を執筆している時点ではまだ視聴が可能でしたので、ご覧になっていない方はぜひどうぞ。第3セットの16−15、1:36:50頃からのラリーです。


 映像がどうしても見られない方のために、問題のプレーが何だったのかを説明すると、ネット上のボールを両チームの選手が同時に触りに行く場面で出現する、バレーボールの醍醐味の1つとも言える、いわゆる「押し合い」のプレーです。

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 DIVISION2男子の試合で、当該プレーに焦点を当てた紹介動画がありました。
 ヴォレアス北海道の越川 優 選手による、見事なプレーですね。


 この動画ではボールはサイドラインを割らずに、コート向こう側きんでんトリニティーブリッツのコート内に落ちたようですが、もしこれが、サイドラインを割っていたとしても、判定に影響が出ることはありません。サイドラインの内側だろうが外側だろうが、「ネットの向こう側」にボールが落ちる限りは、コート手前のヴォレアス北海道のポイントになります。

 要は「『押し合い』に勝った(押し勝った)」チームが、ポイントを獲得できるのです。


 ウイングアリーナ刈谷の試合での当該シーンは、ジェイテクトSTINGSの西田 有志 選手が押し込んだボールがウルフドッグス名古屋の高梨 健太 選手の腕に触れ、ウルフドッグス名古屋側コートのサイドラインを割って落ちた(=西田選手がうまくブロック・アウトを取った)、というプレーでした。

 改めてGAORAの録画を見返しましたが、ジェイテクトの得点という最初の判定に、会場中の誰一人として(GAORAの実況・解説席も含め)、疑問を感じていないようでした。ところがこの判定直後、ウルフドッグス名古屋から「ブロック・タッチ」に関するチャレンジが申請され、そして何と! 判定が覆ってしまったのです。

 もちろんジェイテクトSTINGSは猛抗議。実況・解説席も「どうして判定が覆されたのか?」・・・まるで見当がつかないようでした。

 連絡をくれた取材記者によると、試合後の会見でジェイテクト側は、

「(ネットを挟んだ当事者2人ともボールに触れていたが)最後までボールに触れていたのは西田選手だった」という判定

だそうです、と回答。
(詳しくは、『バレーボールマガジン』の当該記事よりどうぞ。)

 当然ですが、ジェイテクトはその審判の判定内容には納得がいかなかったようです。


◎ 何が問題なのか?

 ここで、論点を間違えて頂きたくないのですが、「チャレンジの判定映像(リプレイ映像)が公開されないこと」が問題なのではありません。

 確かに、今シーズンのV.LEAGUEでは、チャレンジの判定映像が公開されない取り決めになっているようであり、これはこれで問題ですが、今回の「押し合い」の判定については、ここが論点では決してないのです。

 むしろ、リプレイ映像が公開されたら・・・事態はより深刻になってしまうのではないかと危惧しています。

 チャレンジに関わるリプレイ映像が必ず公開される、FIVB主催の国際大会において、しかも勝負所の大事な場面で、今回の一件と全く同じことが再現されてしまったとしたら・・・想像しただけで、身の毛もよだつ思いです。

 それが現実になってしまう前に、何としても事の重大性を、一人でも多くのバレー関係者ならびに、バレーを愛する皆さんと共有し、バレーボール界全体で・・・日本だけはなく世界も巻き込んで・・・解決策をきちんと議論して決めるべき案件だ、と考えているのです。

 そう私が考える理由を、論点を整理しながら述べていきたいと思います。


 今回の論点は、以下の2つに大きく分けられます。

①「チャレンジ・システム」運用上の問題点

②「押し合い」というプレーの本質


 まずは、

① 「チャレンジ・システム」運用上の問題点

について。

 問題の場面で申請されたチャレンジ項目は「ブロック・タッチに関する」チャレンジでした。チャレンジ・システムは大会ごとにその規定が異なり、FIVB主催の国際大会とV.LEAGUEとでは、申請回数やチャレンジできる項目に細かい違いがあります。これは、各大会ごとに運用方法が決められているからであり、従って、FIVBの公式ルール・ブックには記載がありません。

 V.LEAGUEのサイトを確認したところ、チャレンジ・システムに関する規定は見つけることはできませんでしたが、他のサイトに、このような記載がありました。

スクリーンショット 2021-02-08 22.22.46

 一方 FIVBのサイトでは、"Video Challenge System Regulations" が公開されており、

それによると、

スクリーンショット 2021-02-08 22.18.08

との記載です。

 いずれの資料を読んでも、「ブロック・タッチに関する」チャレンジで、リプレイ映像を用いて確認すべき内容は、

ブロックに跳んだ(と判定された)選手が
ボールに触っていたか否か?

の1点のみ、ではないでしょうか。

 これは過去の国際試合で実際に何度か目にしたことがあるケースですが、「ブロック・タッチに関する」チャレンジをして、ブロッカーにはボールが触れていなかったことが確認され、ブロッカー側の得点へといったん判定が覆った後、同じリプレイ映像でブロッカーがタッチ・ネットを犯していることを見てすかさず、スパイカー側が「タッチ・ネットに関する」チャレンジを申請し、結局スパイカー側チームの得点に戻る、ということがあります。

 ただし、「ブロック・タッチに関する」チャレンジの段階では、リプレイ映像で「当初の判定時に気づかなかった新たな真実(ブロッカーがタッチ・ネットを犯した)」がいかに露骨に露わになっていたとしても、それを判断根拠として判定を下すことは認められず、「ブロック・タッチがあったか否か?」以外の点は、判断してはならないはずです。


 ところが今回のケースでは、V.LEAGUEの審判は「ブロック・タッチに関する」チャレンジ申請に対して、「ネットを挟んだ当事者2人ともボールに触れていた」ことを確認するに止まらず、さらに「最後までボールに触れていたのはどちらの選手か?」までをリプレイ映像で確認し、それを判断根拠として判定を下してしまったのです。

 実は問題のシーンの後、ジュリーがこのチャレンジ判定結果を会場に説明するシーンが V.LEAGUE TV の映像でも確認できるので、ご覧頂きたいのですが、「えー、チャレンジは成功です」と説明した後、「最終的に・・・」と判断根拠を説明しかけて、そこで黙り込んでしまっています。ジュリーは映像を見ずに、判定を下した審判からの説明をインカムを通して聞いているようなので、言われたとおり会場にアナウンスしようとしたのでしょうが、アナウンスしながらその途中で、審判が下したチャレンジ判定の運用方法があまりに不可解なのに自ら気づいてしまい、それで「最終的に(ボールに触れていたのは西田選手でした)」の(     )の部分を、おおっぴらにできなかったのではないか? と想像します。


 このように、どう考えてもルール運用に問題がある今回のチャレンジ判定ですが、この試合を発端として、以降私の耳に届いた範囲だけで既に2回、同じようなチャレンジ判定がなされ、実際に判定が覆ってしまったのです。

 その2回とは、

・2020年12月20日の天皇杯・決勝戦

ならびに、

・2021年1月16日にパナソニックアリーナで開催された、V.LEAGUE男子 DIVISION1

の、いずれも パナソニックパンサーズ 対 ジェイテクトSTINGS 戦

でした。

 直近の、1月16日のパナソニックアリーナでのジュリーの態度はジェイテクト対ウルフドッグス戦の時とはまるで違っており、「最終的にボールに触ったのは(パナソニックの)クビアク選手である」と、会場に向けて堂々と説明しています

 この試合もオンデマンド映像がまだ見られます。下記のリンクより、第3セットのパナソニックが21-19とリードした場面、1:25:15頃からのラリーをご覧下さい。


 このことから想像されるのは、問題が最初に起きたウイングアリーナ刈谷での試合以降に、V.LEAGUEの審判団の間で「内々に、ことの発端となったケースを『判例』として利用するという申し合わせがあった」のであろう、ということです。


 今回の一件におけるそもそもの問題点は、「ブロック・タッチに関する」チャレンジ申請に対して、本来確認すべき点以外の〝真実〟に目を奪われ、審判団がルール運用上のエラーを犯してしまった点にあったのですが、彼らは「『押し合い』でどちらが最後までボールに触っていたか」という、映像を見ている自分たちしか正解は知り得ない(と思い込んでいる)「判定結果そのもの」へと、問題点をすり替えてしまったのです。


 ここで勘の鋭い方なら、問題が起きた3試合すべてにジェイテクトが絡んでいることに気づかれたかもしれません。この理由については明確な答えが私の中にあるのですが、それについては後で述べたいと思います。


 次にもう一つの論点。

 先ほど、今回の件で審判団が「問題点をすり替えてしまった」と書いた、「『押し合い』で最後までボールに触っているのはどちらの選手なのか?」という部分に、話を移します。

 実は①よりもこちらの話の方が、より深刻な内容を含んでいるのですが、今回こうして記事を書くことで、隠されてきた〝真実〟を世に明かさざるを得ない時がやってきたんだ、と感じています。

 それは、

② 「押し合い」というプレーの本質

について、です。

 今回の件を記事化せざるを得ないと気づいて、重い腰を上げた際、事前に相談した力学に詳しいある方に、こう言われました。

「押し合い」のプレーって、バレーボールで唯一の「コンタクト・プレー」なんですね!

 サッカーやバスケット、ハンドボールなどと異なり、両チームのコートがネットで明確に隔てられ、相手の選手と接触するプレーが存在しないバレーボールにおいて、確かに「押し合い」は唯一、相手との直接的な駆け引きが表に現れるプレー、と言えます。

 何を隠そう、私自身はプレーヤー時代、この「押し合い」を十八番にしていました。「押し合い」に持ち込みさえすれば、絶対に負けない自信がありました。

 その自信がどこから来るのか? と言えば、「押し合い」というプレーにおいて、ボールに何が起こっているのか? を、頭で(直感的でしたが)理解してプレーしていたからに他なりません。私よりもはるかに力学に詳しい、先ほど紹介した方にこのプレーのことを説明して議論した結果、抜け目のない物理学的証明はできなくとも、私の直感的理解が、ほぼ間違っていなかったことは確認できました。

 この越川選手のように、ネット際の「押し合い」になったらめっぽう強い選手というのは、バレーを見慣れた方であれば何人かの名前が、思い浮かぶだろうと思いますが、いかがでしょうか?

 その中でも世界的に見ても1、2を争う強さを見せる選手が現在、男子のV.LEAGUE DIVISION1に在籍していますよね? ・・・そうです、先ほども登場した、パナソニックパンサーズのクビアク選手(現ポーランド男子代表キャプテン)です。

 今のV.LEAGUEには、クビアク選手に対抗できる選手はいないかもしれませんが、世界には他にも、ネット際で老獪なプレーを魅せるフランス代表のヌガペット選手などがいます。

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 この2人がネット上のボールを介して、空中で1対1で勝負するシーンが出現するたびに、世界中のバレーファンは、次の瞬間「どんなスリリングな展開が待っているのか?」を、ワクワクしながら見つめるのです。

 まさに〝空中で繰り広げられる格闘技〟と言っても過言ではないプレー、ですよね。

これこそ、 "This is VOLLEYBALL" でしょう!!


 では、彼らのこうした見事なプレーは、どのようにすれば再現することが可能なのでしょうか?

◎ 「押し合い」というプレーは元々は〝反則〟だった

 まず前提条件として、ここから理解して頂く必要があるかもしれません。その昔、私がバレーを見始めた(プレーはしていなかった)小学校高学年の頃は、ネット上にあるボールを両チームのプレーヤーが同時に「押し合う」と「ダブル・フォールト」の笛が鳴り、ノー・カウントの判定(サーブからやり直し)が下されていました。

 ここで言う「フォールト(反則)」とは、「キャッチ・ボール」のことを意味しています。両チームの選手が、同時に「キャッチ・ボール」の反則を犯したのでノー・カウントとする、という解釈だったのです。


 ネット上のボールを両チームの選手が同時に押し合うと、片方のAチームの選手がボールを押す力(作用)に対して、ボールならびに相手のBチームの選手から同じ力で逆向きに押し返されます(反作用)。そのため、選手たちが意図せずとも、ボールと両選手の手がくっついたままでしばらく時間が流れ、両選手はボールを「キャッチ」してしまうことになるのです。

 重力に従ってボールならびに選手は床方向に落下し続けますが、ネットを挟んでどちらかの方向にボールが動くことは「両選手が押し合い続けている限りは」生じません(足が床についている状態ではないので、空中でずっとボールを押し続けるということはできません。実際に「押し合っている」時間は0.何秒の話です)。

 言葉の便宜上、以下ではこの状況(床方向には落下しているが、ネットを挟んでどちらかのコートに向かってはボールが動かない状況)を『止まっている』と表現させて下さい。

 大昔はこうしてボールがネット上で『止まった』時点でダブル・フォールトの笛が鳴り、ラリーを止められてしまったのですが、明確に何年前か覚えていませんが、ボールが『止まって』もダブル・フォールトと判定せずに、そのままラリーを続けるようにルールが変更されたのです。

 こうした「押し合い」が、「ネットを挟んでその上空で対戦する」バレーボールという競技の特殊性ゆえに出現頻度が必然的に高いため、そのたびにラリーが止まったのでは「観客にとってバレーの魅力が伝わりづらくなってしまう」という懸念が、このルール変更の根底にありました。

 この変更により、「押し合い」のプレーに限っては「キャッチ・ボール」の反則が取られない、ということになりました。つまり、ボールを堂々と「持ってしまって」も、ルール上は何の問題もなくなったのです。


◎「押し合い」に関わる中学理科で習う〝からくり〟

 上述の背景を理解して頂いた上で、「押し合い」に勝つ・負けるというのは、どういう状態で生じるのか? を考えてみましょう。

 「押し合い」に勝つ・負ける、つまりは、ネット上でボールが『止まっている』状況から、どちらか一方のコートに向かってボールが動き出すのは、ボールにどのような力が働いた時でしょうか・・・?

 これは、ボール越しに両選手が押し合っている(作用・反作用)状態ではなくなった状況、ということになります。どちらかの選手が押すのをやめた瞬間に、作用・反作用の法則が成り立たなくなって「押し続けている」選手の力が勝り、ボールが動き始めるのです。

 従って「押し合い」のプレーで勝つには、「ボールを押し続ける」ことがカギになります。そのためには「意識して、ボールを持ってしまえばよい」のです。空中でボールを持ち続け、相手が押すのをやめた瞬間に、ボールを飛ばしたい方向(相手のコート外へ)めがけて投げることで、「ブロック・アウト」の判定がもらえます。


 プレーヤーでなくなった今だから言えますが、私はこう明確に意識して、プレーしていました。一度たりとも負けた記憶がありません。自分が十八番とするプレーの〝からくり〟は、誰にも教えたくはありませんでした。

 きちんと頭で理解しているかどうか、あるいはどうやってプレーしているかを明確に言語化できるかは別にして、こうしたネット上の「押し合い」で無類の強さを発揮する選手は、こうした中学校理科で習う〝からくり〟を、体が覚えているはずです。

 ちなみに、サッカーにおいてのボールの「奪い合い」においても、バレーの「押し合い」と全く同じ力学的現象が用いられているようです。



 長くなりましたが「押し合い」に関して、中学校理科で習う程度で説明できる〝からくり〟を一言でまとめると、

「早くボールをはたき落とそうとして、先に手を離した方が負ける」

ということになります。


 ということは・・・

 もう、おわかりかと思いますが、

 ことの発端となった、2020年12月5日のジェイテクトSTINGS 対 ウルフドッグス名古屋 戦の第3セット、ジェイテクトが16-15でリードの場面。

 「押し合い」に勝ったジェイテクトの西田選手が「最後までボールに触っていた」というのは、実は力学的には「当たり前のこと」なのです。


 「『最後までボールに触れていたのは西田選手だった』という判定を(審判が)下した」らしい、と聞いた時、私は、この〝真実〟が、機械の進歩によって遂に、人間の目に晒される時がやってきてしまった・・・もう隠し通すことはできないんだと覚悟しました。

 そもそも空中でボールを「同時に」押し合う2人の選手の「どちらが最後までボールを触っているのか?」などということを、人間の目で判別できるはずがありません。

 ましてや厳密に言えばそもそも両者とも「キャッチ・ボール」の〝反則〟を犯しているわけです。ですから、「押し合い」をノー・カウントにしないということを決めた時点で、厳密なバレーボールのルールを適用する事自体がナンセンスです。

 だからこそこれまで、「押し合い」のプレーでは例外的に「『押し勝った方が勝ち』にする」という判定が、慣例的に行われてきました。

判定でも有利
また、都合のいいことに、弾いたボールが相手コートの外に出ようが、味方のコートの外に出ようが、審判が判断する時には、最後に触ったのは黒シャツのブロッカーというように判断されるのですね。
(『ウラ技・バレーボール技術・戦術研究会』より引用)


 それを今になって、「『押し合い』で最後までボールに触っているのは、どちらの選手なのか?」をリプレイ映像で確認しようとするのは、その行為がいったい、どういう未来につながるのか? を全くもって想像できていないとしか、考えられません。

 これは、毎時100何十キロメートルで放たれた目にもとまらぬスパイク・サーブがエンドラインを割ったか否か? を、ホークアイで判定するのとは、性質が異なる話です。

 なぜなら、これまで慣例的に「負け」と判定されたチームが「チャレンジすれば判定が覆る」ことが、ほぼ必然的に決まっている、からです。

 記事の最初の方で「『チャレンジの判定映像(リプレイ映像)が公開されないこと」が問題なのではない、と書いたのも同じ理由で、

 そもそも、映像を見るまでもない話なのです。

 ことの発端で苦汁を味わったお陰で、ジェイテクトSTINGSのスタッフ陣がこの真実に気づいたのは、恐らく間違いないでしょう。彼らはゲーム中に「押し合い」のプレーが出現し、相手チームの得点と判定された場合には、「ブロック・タッチに関する」チャレンジを申請すれば「最後に触った選手が誰か」が映像で確認され、結果を覆せることを確信しており、だからこそ今度は2回も立て続けに、クビアク選手が苦渋を味わう結果になってしまいました。

 ジェイテクトが今後、同じようなシーンで「ブロック・タッチに関する」チャレンジを申請し、「ジェイテクトの選手(=ブロッカー)にボールが当たっている」ので「チャレンジ失敗」ともし判定されれば、彼らは「それならなぜ、12月5日の試合で同じ判断がウルフドッグス名古屋に対して下されなかったのか?」と抗議するでしょう。もしそう抗議されたら、V.LEAGUEの審判団は申し開きができなくなるので、それを恐れて彼らはチャレンジ・システムのルール運用を、仲間うちだけで、公にせずにそっと変えてしまったのだと容易に想像がつきます。

 この問題が今のまま公にならず、ことの発端となった「ブロック・タッチに関する」チャレンジについての扱いが「判例」となってしまえば、

この真実に気づいたチームだけがチャレンジをして
そして必ず成功する

という、大変不公平な状況ができあがってしまいます。

 さらには全チーム、全選手がこの真実に気づいた時、ネット際に上がったボールを、選手は今までどおりに「押し合う」ことが、果たしてできるのでしょうか??

 下手をすれば、ネット際に上がると両チームの選手がボールを触りに行かず、そのままボールが床に落ちる・・・なんてことになりかねません。

そんなバレーボールを皆さん、見たいですか?!


 今回の記事で、プレーヤー時代には決して他言しなかった「押し合い」に勝つための〝からくり〟を世に晒したわけですが、今になって冷静に考えてみると、いくら〝からくり〟がわかったからと言っても、明日から誰もができるプレーというわけではないはずですね。あくまで、ゲームでの相手との真剣勝負の中で鍛錬されて、できるようになっていくものだと思います。

 実際、今回の記事化にあたって色々検索していると、下記のような動画もあり、「できるかどうかは別にして、わかってる人はわかっている」ということを理解しました。
 0:43頃からの解説、ならびに字幕文字をご注目下さい。


 さらには、何と・・・海外での情報をあさっていくと、出るわ、出るわ。

 知らなかったのですが、英語圏では「押し合い」のことを "joust" と呼ぶようです。なかなか見事なネーミングだと思いませんか?

 "joust" = [中世騎士の] 一騎打ちの馬上槍(やり)試合


 で、この "joust" に勝つにはどうすればよいか・・・? それについての情報も山ほど出てきたので、いくつかご紹介すると、


 上記サイトには、本記事で私が「世に晒してしまった」と思い込んでいたテクニックが、そっくりそのまま書かれていました

 つまりは、海外では「押し合い」に勝つためのテクニックは、指導現場である程度共有されている知識である、という可能性もありそうです。

 もっと言えば、海外の選手たちは、無意識ではなく意識的に、「ボールを最後まで持ち続けることで『押し合い』に勝とう」とプレーしている、ということを意味しています。

 そうした海外の選手たちに、今、日本のV.LEAGUEの審判団の間で行われつつある、チャレンジ判定のことが広く知れ渡ったら、果たしてどんなことが起こるでしょうか?!


◎ 論点のまとめ

 以上、いつもどおり長くなってしまいましたが(汗、、、
 論点をまとめると、

❶ 今回のチャレンジ判定においての審判団のエラーは「ブロック・タッチに関する」チャレンジ申請に対して、FIVBで定められた規定(regulation)に反する判定を下した点にあったが、彼らはそれを正当化するかのごとく問題をすり替え、「押し合い」の勝敗判定という、非常にデリケートな問題に足を踏み入れてしまった。

❷「押し合い」の勝敗を「どちらが最後までボールに触っていたか」で判定しようとすると、力学的に考えれば従来の判定結果がほぼ必然的に覆る結果になってしまう。

ということになります。


 バレーボールという競技において、唯一、許されたコンタクト・プレーと呼べる、鍛錬されたプレーヤー同士の「一騎打ち」( = "joust" )を、つまらないものにしかねない今回のチャレンジ判定の問題は、

バレーボールの「未来」に関わる大きな問題

であり、日本の審判団だけで内輪で事を済ませられる話では到底なく、こうしてきちんと問題を公にしたうえで、当事者全員(全世界をも巻き込んで、選手関係者ならびに、ファンも含めて)解決策を考えるべき問題である、ということは、声を大にして明記しておきたい、と思います。


 私自身が考える、今回の一件に関する解決案としては、

「ブロック・タッチに関する」チャレンジで確認できる項目は、ブロッカー(と判定された選手)にボールが当たっていたかどうか「のみ」であることを、チャレンジ・システムのregulationに明記する

この1点に尽きます。


 FIVB主催の国際大会がいつの日かまた、当たり前のように満員の会場の中で行われることが可能になるまでの、しばしの猶予期間のうちに、日本だけでなく、世界中で議論して、ファン・選手全員が幸せになる方向でこの課題を解決していきたい、と切に願います。

photo by FIVB

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