わたしと弟と天竺鼠と
関西の人に「お笑い好きだよ」と言うと、「ハイハイ関東の人の“お笑い好きだよ”は信用してませんから」みたいな反応をされるが、続けて「いちばん好きな芸人は天竺鼠だよ」と言うと途端にニコニコになる。
実際これで仲良くなった大阪の人が何人かいる。
天竺鼠ありがとう。
お笑いコンビの『天竺鼠』が大好きだ。
どのお笑い芸人よりも1番好きだ。
もういつから好きなのか覚えていない。
ずっと天竺鼠がすきだ。
わたしは東京生まれ東京の育ちで、天竺鼠に触れる機会はほとんどなかったはずだ。
天竺鼠にはまったのは何がきっかけだったんだろう、とずっと考えていたが思い出せない。
弟もお笑いがすきで、天竺鼠が大好きだ。
弟はよく面白いお笑い芸人を教えてくれる。
あっ、そう言えば天竺鼠も弟に教えてもらったのではなかったか。あ、そんな気がしてきたぞ。
そう思ってこの前、弟に天竺鼠って何で知ったの?と聞いてみた。
「お姉ちゃんから教えてもらったけど」
え、まじか。全然覚えていない。なんのネタ?
「結婚式のスピーチのやつ」
思い出した。
YouTubeかなんかで、結婚式でおじさん(川原)がめちゃくちゃ長えスピーチするやつを司会(瀬下)が迷惑そうにしてるネタを見て、すごいお笑いだぞと思ったんだ。
(キングオブコント2008年でやったネタのロングバージョンで、オチがベロベロする方のやつ。分からない人は動画検索かなんかしてください)
カスタネットを叩くくだりで、呼吸困難になるほど笑ってしまい、弟に速攻で教えに行ったような気がする。
次の日、弟は川原さんが乗りうつったかのごとく「うんた うんた うんうんうん」とカスタネットを叩くくだりで発するセリフを母親にしつこく連呼していて、マジでウザがられていた。
それからもうずっと、わたしと弟は天竺鼠が大好きだ。
いつだかの弟の誕生日に、川原さんの「なすび」の被り物をプレゼントした。
ベッドになすびを寝かせるように忍ばせておいた。
プレゼントを発見したのか、弟の部屋からウワーーーーーーー!!!と絶叫が聞こえた。
数分後、なすびと化した弟が真顔で「ありがとう」とお礼を言いに来た。
天竺鼠は売れていないと思っていた。
東京のテレビにほとんど出ないからだ。
だから、大阪に会社の研修で1ヶ月くらい住んでたとき、休みの日に何の気なしにつけたローカル番組で、「今日のゲストは、天竺鼠でーす!」と司会が言った時には仰天してしまった。
衝撃だった。
大阪だと、天竺鼠ってゲスト扱いなのかよ。
そう思って弟に連絡した記憶がある。
別の時には、弟が何やら興奮気味に帰宅したのでどうしたのかと思っていたら、
「今日ちょっとすごいもの見ちゃったんだよ、ほんとすごい…………これはすごい……」
と言うので、何を見たのか満を持して聞くと、
「天竺鼠のライブ……」
と言っていた。
ほんとうにほんとうに面白かったらしい。
ちなみにワンマンではなく、新宿のルミネtheよしもとでやってた色んな芸人が出てるやつのやつだ。
ワンマンだったら死んでいたかもしれない。
2019年の天竺鼠M-1ラストイヤーは、本気で応援していた。
弟はよく、「キングオブコントで、天竺鼠が決勝行くのをまた見たい。お茶の間をひっくり返して欲しい」と言う。優勝すれば、お笑い界もひっくり返ると本気で思っている。
弟にとって、天竺鼠は20世紀少年のケンジのT・レックスなのだ。
(20世紀少年分からない人は読んでください)
弟とわたしは、天竺鼠のおかげで仲の良いようなものだ。
ほんとうに天竺鼠ありがとう。
天竺鼠はボケの川原さんがピンで活躍することが多く、瀬下(なぜか瀬下は呼び捨てしてしまう)を見かけることは少なかったけど、最近アメトークと相席食堂を皮切りに瀬下もテレビで見かけるようになった。
瀬下は「何も取り柄がない、体を張ることしか出来ない」と言っていたが、まじでそんなことは無い。
瀬下の天竺鼠のコントにおける普通の人を演じる力と、困り顔は絶対なくてはならない。
「親子運動会」「寿司」のネタは子ども役が本当に上手くて感動したし、「家族」(川原さんはずっと川原さんの格好のまんまで役の設定変わるやつ(伝わってくれ))のネタの演じ分けも見事だった。
瀬下が体を張るロケで売れてるのも嬉しいが、腐らずにネタもやってください。
あと、死なないでください。
川原さんの家-1グランプリ2020のイカレ散らかし具合は、もはや安心感の領域に到達していた。
わたしは慣れてしまったが、ここ最近お笑を見始めた恋人は天竺鼠のネタを見ると処理が追いつかないらしく、「初見のネタはただ情報を受け入れるのに必死」と言っていた。
分からなくもない。
そんな奇抜なセンスをもつ川原さんの個展『maenomeri』展に行ってきた。2018年の暮れだったと思う。
わたしは川原さんの絵本『ららら』を購入し、サインをしてもらえる特典会に参加した。
スタッフの人が「時間の関係でサインに名前は入れられません」と事前に説明していたのに、川原さんは名前も書いちゃうかと言い出し、全員に名前を入れてくれた。
サインを書いてもらっている時に、
「『んぐまーま』の隣に置きます」
と川原さんに言った。
『んぐまーま』は谷川俊太郎さん作の絵本で、川原さんが特に大好きな絵本として紹介しているものだ。
「うふふ!!ありがとう!!!」
と川原さんが言った。
ティアドロップのサングラスの向こうで、目がめちゃくちゃ嬉しそうに笑っているのが分かった。
いい人だ。
眠たいので、やめさせてもらいます。
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