見出し画像

【『藝人春秋』書評】「深海魚たち」 BY中野翠

『サンデー毎日』2013年12月30日号より

​ 浅草キッドの水道橋博士の『藝人春秋』(文藝春秋)を面白く読んだ。

 ぶあつい本なので一瞬たじろいだけれど、読み始めたら、ぐいぐいと引き込まれて行った。

 水道橋博士もいつのまにか五十歳。
 芸能界に身を置くようになって 三十年近くなるという。
 その中で出会い、衝撃を受けた人たち──北野武をはじめ、そのまんま東、草野仁、古舘伊知郎、デリー伊藤、ポール牧、甲本ヒロトなど十数人の濃厚な人物像が活写されてゆく。
 ほんとうに濃厚なのよ。
 タイトルに「芸人」ではなく「藝人」という字を使ったというのが納得できる。
「深海魚の群れ」と言っていいくらい奇抜で特異な人たちなのよ。

 水道橋博士は「笑芸人」だから隙さえあれば笑わせたいというサービス精神を持っているのだけれど、この本はそういうこまかいクスグリでもたせた本ではない。
 生真面目に相手とガップリ四つに組んで、相手の凄みや哀しみやおかしみを描き出している。

 私がその奇人ぶりに圧倒されたのは、笑芸人ではないけれどテレビ出演もしていた「国際弁護士」湯浅卓と「国際的博士」?苫米地英人の二大ビッグマウスの章だ。

 湯浅氏は、一九八九年、バブル絶頂期、三菱地所がNYのロックフェラーセンターを約二二〇〇億円で買収した際、ロックフェラー側の弁護士として活躍したという。

 いっぽう苫米地氏は当時イェール大学の大学院で勉強していたのだが、三菱の社員でもあり、また以前からロックフェラー家とは懇意だったので、ロックフェラーセンターを買う側として交渉に参加していたという。
 つまり、湯浅氏はロックフェラーセンターを売る側の、苫米地氏は買う側の黒幕だったというのだ。
 とにかく二人のビッグマウスぶりが凄い。
 「ワタシがウォール街を選 んだのではない。ウォール街がYUASAを選んだのです!」(湯浅氏)とか、「(渡米していた少年時代、飛び級で)中2になるはずが高3になってたんだ」(苫米地氏)とか。
 全然根拠のないホラ話とは違うらしいところが、おそろしい。
 とにかくこの二人の自慢話はケタはずれで、感心するより先に笑いがこみあげてくる。
 私はテレビで見て、その風貌は知っていたけれど、そのトークをじっくり聞いたわけではないので、「こんな日本人もいるのか!」と驚いた。

 終盤では「思春期をこじらせていた」自身の過去を振り返りつつこう書いている。 唯一の楽しみだった木曜深夜の『ビートたけしのオールナイトニッ ポン』でビートたけしのある一言を聞いて、「その瞬間、まるで幽体離脱したかのように意識が浮き上がり、気持ちの上で空が晴れ晴れと澄み渡り、すべての迷いが消えたようだった。そこからボクは、大学受験を口実に、ビートたけしのもとへ行くことに決めた」。

 著者の全体重がかかっているかのような一冊。
 児玉清さんとの思い出をつづった「あとがき」にも胸打たれた。

--------------------------------------

画像1

【『藝人春秋』は永く読み継がれて欲しい一冊です】



WEB版「はかせのみせ」で通販中。


https://hakasenomise.official.ec/


『藝人春秋①』文庫版 


(ボーナストラック)


 ・『2013年の有吉弘行』



(文庫解説)

 
・オードリー・若林正恭
 
 押印サイン本をおまけ

(変装免許証ブロマイドor缶バッチor江口寿史シール)

 付きです。

画像2

著名人書評 ⬇


https://hakase15.wixsite.com/mysite/review-1


サポートありがとうございます。 執筆活動の糧にして頑張ります!