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29. 吉岡里帆であーーる。

                                 

「最近のタレントで描きたいと思う女性はいますか?」
 との、ラジオ・リスナーからの質問に対して江口寿史絵師は即答した。
「吉岡里帆!!」

 2017年11月19日──。
 TBSラジオ『爆笑問題の日曜サンデー』のゲストコーナーに、本稿の挿絵を担当する漫画家の江口寿史画伯が登場した。
 昨年の本誌11月2日号、この連載の第25回となる「たけしのズル休み」で江口画伯が描き添えてくれた太田光像の、その出色の出来栄えが各所で反響を呼んでいた。
 そして、高田文夫先生が自身のニッポン放送「ラジオビバリー昼ズ」で、「あれ、文春の太田くんのイラストいいよな。江口寿史の」と話題に触れると、ネット界隈で〝バズってる〟事柄に感度の低い太田自身の耳にもようやく届き、慌てて文春を確認して大感激に至った。
 また、既にその文春を見ていた田中裕二は「いいなぁ江口先生に描かれて!」とひたすら羨ましがる始末。
 そんな経緯から爆笑問題のふたりは、日曜日の昼の生放送で、江口寿史先生を招くこととなった。

 爆笑問題の青春期から憧れの漫画家という触れ込みで江口画伯がいよいよ登場。そして番組リスナーからの質疑応答で江口は「文春では博士にオヤジばかりを描かされて迷惑です!」と言い放った後、今、一番、描きたい人物として「吉岡里帆」の名を挙げたのだった。

 ならば、相棒のご所望のとおり、『あさが来た』(NHK)『カルテット』(TBS)などのドラマや、「UR(都市再生機構)」「日清どん兵衛」などのCMでお馴染みの超人気女優・吉岡里帆について書こう!

「いやいや、博士と接点なんかないだろ!」と、江口画伯のツッコミが聴こえてきそうだが……。

 2017年1月11日──。
 ボクは、けやき坂通り沿いの六本木ヒルズの一角にあるJ-WAVEに赴き、吉岡里帆がナビゲートする『UR LIFESTYLE COLLEGE』にゲスト出演した。
 行きしなの車中で読み込んだ資料、経歴によれば、吉岡は4日後に誕生日を控えた23歳。
 今でこそ若手の演技派として売り出し中だが、実は駆け出し時代には、オーディションを落ちまくってきた苦労人であることを知る。
 2013年には、〝あの〟三又又三ですら出演できた、NHKの朝ドラ『あまちゃん』のオーディションに落選。もちろん、端役の〝デブ金八〟とは違い、主役を争うハイレベルな選考においてである。

 険しく狭い主演女優への道。様々な葛藤のなか男性誌からのグラビアのオファーにも随時応えながら、映画、ドラマへの出演を着実に重ねてきた。 
 そして、ついに2015年、NHKの朝ドラ『あさが来た』に出演を果たした。
 丸メガネ、袴姿、隠れ巨乳という圧倒的童貞殺しのルックスで主人公の娘の友人役を演じて注目を浴び、さらに『あまちゃん』で逃した宮藤官九郎脚本作品への出演の念願を、日テレ『ゆとりですがなにか』で叶えた。
 その出演歴を辿り、吉岡に対する漠たるイメージが像を結んだ。

 吉岡里帆とは、ボクが近年、最も夢中になったドラマ『ゆとりですが―』の「佐倉先生」だったのか! と車内で一人、ガッテンしていた。
 収録に向け、30歳以上年齢差がある23歳の女性との共通の話題づくりに一抹の不安を覚える。
 ところが、インタビュー記事で「学生の頃、つかこうへいの作品に衝撃を受けて演劇の世界に」との一節を見つけて「しめた!」と思った。
 何を隠そうボクも、つかこうへいには強い思い入れがあり、一昨年、『つかこうへい正伝』(新潮社)という本が出版された際には、著者の長谷川康夫、小説家の樋口毅宏と一緒にトークイベントも行ったほどだったのだ。
 もうひとつ、会話のきっかけになればと思い、彼女の誕生日プレゼントとしてボクが解説文を寄せている傑作ノンフィクション『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(春日太一著)の文庫版も鞄に忍ばせた。

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 京都の太秦出身で、女優を志した契機がこの土地柄、風土にある彼女にとって、必ずや将来の役者人生に有益な本になると信じて……。

 そして、いよいよ本番。
「金髪、可愛いですね? 切りたてですか?」が彼女の第一声だった。
 その模様は、後に彼女が『ラジオのかくし味2』という電子書籍のインタビューで、自身のラジオ番組で印象的だったゲストを問われ、語っている。
「私が特に印象的だったのは水道橋博士のお話でした。本を読む時間がなくて、一人でくつろげる時間がほしかったから、美容院に行って『一番、時間がかかる施しをしてほしい』とお願いしたら金髪にされちゃったそうなんです。家に帰ったら娘さんが『おネエみたい』っていって、ケラケラと笑ってくれたのが嬉しくて、ずっと金髪にしたまま、今もおネェキャラにしているっていうお話が忘れられません(笑)。普段のご家庭の様子が垣間見れて、素敵ですよね」

 この日の収録でボクは、師匠、運命、仕事論などを調子に乗って語り尽くした。話半分で流せば良いものを、彼女はひとつひとつに真剣に聞き入り、野心と向学心を秘めた眼にはキラキラと星の輝きが灯っていた。 
 23歳と54歳の年齢差の〝不協和音〟のトーク。さぞかし、編集は大変だっただろう。
 いっそ喋り過ぎて〝過呼吸〟で倒れてしまえば、この年の年末、『NHK紅白歌合戦』審査員の吉岡から大ファンの欅坂46のメンバーに注がれた、あの麗しき心配の眼差しをボクも、一身に独占できていたかもしれない。

 5日後の1月16日──。
 偶然見た、TBS『ビビット』で吉岡里帆が特集されていた。
 持ち物チェックの際、鞄の中にあった読み掛けと思しき『あかんやつら』がチラリと映り込み、目が止まった。
 硬派中の硬派の映画屋の漢たちの話『あかんやつら』をちゃんと読んでいるとは!
 さらに驚いたのは吉岡が愛読書として『文藝春秋』を挙げていたことだ。
 中吊りカンニング不倫ゴシップ誌「バカ文春」=「週刊文春」の方ではなく、なんと論壇誌である月刊のぶっとい本誌の方だ!
 ルックスの甘さを覆す硬派な勉強熱。
 現在の人気女優っぷりが嘘のような、オーディションに落ち続けた日々。
 控えめな胸囲の数値なれど、トップとアンダーの差で魅せる巨乳感と、その幻惑を産むスレンダーボディ…
 二律背反に己を磨いてきたからこそ、今後の吉岡の自信となるだろう。
 人々の勝手な印象と反目する実像、吉岡里帆とは、〝錯誤のビーナス;女神〟である。
 
 さて吉岡と言えば、本年1月16日、文春オンラインで、過去の発言から「グラビアの仕事が嫌だった」と誤解されていることに、やるせない心境を吐露し「あの時間がなかったら今の自分はない。そのぐらい、やってよかった仕事だと、胸を張って言えます!」と全否定していた。
 同じ太秦の近隣で育ち、このほど『広辞苑第七版』(岩波書店)に「マイブーム」という造語の生みの親として名前が載った、みうらじゅんは著書『「ない仕事」の作り方』(文藝春秋)でこう説いている。

 ブームの正体は誤解であり、ブームは勝手に自分の意見を言い出す人が増えた時に生まれる。

 奇しくも今、高築年数で手狭というイメージの〝誤解〟を解く役割をURのCMで担っているのが吉岡里帆だ。
 グラビア嫌悪発言に噛み付く男性。
 連続ドラマ初主演のTBS『きみが心に棲みついた』でのメンヘラ女子役の見事さに思わず嫌悪する女性。
 もはや両性から誤解の連鎖が起きている彼女だが、これこそ人気を超越した〝サイレントマジョリティー〟が支持する吉岡里帆ブームの一端なのだと断言できるのでア〜ル。

 江口画伯よ、どうだい、ここまで書いたぜ!!
 あとは似顔絵を「江口」流の「エロ」で描いてくれ!

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【その後のはなし】

吉岡里帆とその後のはなしは何もない。
あれ以来、会うことすら無いのでア~ル。
あの日はあんなに意気投合できたのに……。
それはそれで職域の違いとはいえ寂しいのでア〜ル。 

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