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19.麻生漫★画太郎・誕生秘話

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参院選真っ最中、こんな再会があった。

麻生太郎さんについては、
ボクの最新巻『藝人春秋Diary』で
こんな文章を書いているので、
ここで無料公開したいと思います。


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「(政治は)結果が大事。何百万人殺しちゃったヒトラーはやっぱりいくら動機が正しくてもだめなんだ」

 去る8月29日、自民党麻生派の夏季研修会の講演でそう述べ、激しい批判の声に晒された麻生太郎副総理は、翌日「動機も誤っていた」と釈明し、自身の発言を撤回した。

〝失言常習犯〟麻生太郎先生は、2013年7月にも「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も気が付かなかった。あの手口に学んだらどうかね」というセメント発言で物議を醸している。

  何度、党から注意されてもナチスにかこつけた軽口を出す方も、出す方だが、ナチスを引き合いにしただけで内容を問わず、すぐさま排外主義者だと批判する側も沸点が低すぎることが常だ。

 とにかくナチス問題はもともと議論ベタの日本人にとってもっとも不向きなテーマの代表例でもある。

  とはいえ、凡百の政治家なら政治生命を失いかねない度重なる失言癖に、多くの識者が「麻生太郎が喩え話にナチスやヒトラーをすぐ出すのは何故か?」と首を傾げる。

  麻生太郎──。

  明治の元勲大久保利通の玄孫にして、昭和の大宰相・吉田茂の孫。その血筋こそ、まさに華麗なる〝純血〟政治家である。

  学習院大学卒業後、麻生産業に入社し、麻生セメント社長や日本青年会議所の会頭などを経て、1979年(昭和54年)衆議院選挙に初当選。

 漫画に喩えれば〝リアル『こち亀』の中川巡査〟とも言うべきセレブだ。
 また、クレー射撃日本代表としてモントリオール五輪に出場した経歴(コマネチと同期)から〝政界のゴルゴ13〟との異名も持つ。

  総理在任中には「未曾有」を「みぞうゆう」と誤読して一時期、集中放火を浴びたのだが国会の質疑が麻生総理に対する漢字クイズ、はてはカップラーメンの値段あてクイズなどが横行するにあたり、日本の政治レベル、報道レベル全体を危惧する有権者の声にも繋がった。

 また当時、麻生総理の愛読書が『ゴルゴ13』と知った中曽根康弘大勲位が漫画本を取り寄せパラパラめくった後「こんなモノを読んで国際情勢を勉強しとるのか。麻生クンはバカだねェ〜」と揶揄したと『週刊文春』が報じたこともあった。

 もちろん、さいとう・たかを氏とゴルゴ13ファンの名誉のために健康番組風にテロップを付け足しておこう。

 ※これはあくまで中曽根康弘と当時の週刊文春編集長個人の感想です。

 しかし〝麻生漫画太郎〟とまで渾名された、この「漫画好き」キャラ……実は何を隠そう、きっかけを作った張本人はボクなのだ!

  経緯を説明しよう。

  ボクは麻生太郎をTBS『週刊アサ㊙ジャーナル』という政治家とのトーク番組で二度取材している。

  初対面は2003年2月19日だ。

  場所は自民党本部の政調会長室。
 テレビ・新聞嫌いで鳴らし、無愛想な麻生太郎から、ひとしきり生い立ちや経歴などを聞き出した後、
「実は漫画がお好きだとお聞きしましたが」
 とカマをかけてみると……
「漫画は横山光輝『三国志』を読んで面白いなと思ってね!」
 と不機嫌に曲がった口元から、突如、一瀉(いっしゃ)千里に漫画愛があふれ始めた。
「面白く興味を持たせるものって漫画に勝るものはない」
 と打ち明け、当時62歳ながら
「今も少年誌、青年誌、30年欠かさず読み続けてる!」と豪語。

「老眼かけて漫画読んでるんだから努力がいるよ!」
 と実にチャーミングな笑顔で語ったのだ。
 そして「漫画は時代が分かる」と前置きした上で時代状況を代表的な漫画をあげて例えはじめた。

「60年代の『忍者武芸帳』『サスケ』は反体制を象徴している。
 つまり、安保はこれだな。70年代に入ると『宇宙戦艦ヤマト』『巨人の星』、つまり地球、チームのためという体制に体を張っちゃうヒーロー像。           80年代の『バツ&テリー』『浮浪雲』は雲助とか野球のチームに属しているけど俺が俺がの個人主義になった象徴。
 90年代に入ると『ジョジョの奇妙な冒険』『犬夜叉』とかオカルトが入ってきて。それにあわせてオウム真理教が出た。ああいうのは漫画が影響するんだって!」

 と漫画と世相の流れを得意げに分析してみせた。

「なるほど。たかがマンガとか言いますけど、部数で言えば小説より全然多いし、確かに影響力も違いますね」と同意すると「活字など問題にならん。新聞社は鍋釜つけて宅配だけど、漫画はスタンド売りで500~600万部だからね」

 とまで言い切ったのだ。

  収録時、オンエアでは使われなかった雑談があった──。

 「マンガの単行本はどこに置いているのですか?」
  とのボクの問いに、
 「九州の実家に並べてある……」

  ここで突如、ボクの思春期の記憶が一葉の写真とともに仄かに蘇った。
「嗚呼ぁ!! それってひょっとして20年くらい前に週刊誌のグラビアになりませんでした!?」
「君、よく憶えているねー。『週刊文春』のグラビアが取材に来て、写真を撮らせたことがあるんだよ!」
「でも、そのときの肩書が政治家じゃなかったような……」
「そう、俺が日本青年会議所の会頭になる頃だよ。やー! ホント、君、よくそんなこと憶えているねぇ」
「印象がとにかく強烈で。部屋がまさに『まんだらけ』でしたもん!」
「『まんだらけ』!! そりゃいいや! ガハハハハハハハハハハ!!」
 麻生太郎は膝を叩いて大笑いした。

 当時ボクは、この麻生の部屋の写真に衝撃を受け、少年漫画だけではなく、青年漫画にもジャンルを伸ばして耽溺し尽くしたものだった。

(今回、バックナンバーを調べてみたら『週刊文春』1977年9月8日号のグラビア記事だった)

  そして2回目のインタビューは2004年4月12日、総務大臣時代に行われた。
  愛読書である『ゴルゴ13』のカルトクイズを出題する趣向だったが、いつものへの字口は終始、破顔し、取材の間、相好を崩し続けた。

  この放送は大反響を呼び、その後『ビッグコミックオリジナル増刊』(2003年7月2日号)「麻生太郎 コミックを語る」で番組を踏襲した特集が企画され、追加取材の模様が掲載された。

  さらに、そのインタビューが麻生太郎の公式サイトに転載されたのをきっかけに、若者層や海外のメディアにも「漫画に理解のある自民党次期総裁候補」の側面が一気に認知され、政府のクールジャパン政策推進にも一役かった。

  羽田空港で『ローゼンメイデン』を読んでいたとの噂が出回って以降は、ネットでは「ローゼン閣下」と呼ばれるようになりオタクの聖地・秋葉原での演説には若者が殺到する事態に……。

 まさに未曾有の人気を博し、見事に92代目の総理の座を射止めたが、やがて「漢字が読めない」事が発覚「漫画の読みすぎ」と謗られた。

 そんな〝ゆうひが丘の総理大臣〟の黄昏を見つめながら「ボクがあの時、思い出さなければ……」と勝手に〝渾名任命責任〟を感じたほどだった。

  ここで冒頭の一件に戻る──。

  麻生太郎が、ここまでヒトラーに執着する理由は何か?

  それは1983年から1985年にかけて、この『週刊文春』に連載されていた手塚治虫の問題作、ヒトラー自身にユダヤ人の血が入っていたとする実在の説をもとにフィクションを織り交ぜた長編『アドルフに告ぐ』を読んでいたからではないか?

 いや、手塚治虫ではなく水木しげるの『劇画ヒットラー』を熟読していた可能性もある。

 そればかりか、藤子不二雄A作の『ひっとらぁ伯父サン』の線も……。

  麻生漫画太郎なら実際、この3作の比較論を語ることも可能であろう。
  次回、麻生太郎の口からヒトラーの名が語られる時、どのヒトラー漫画で〝勉強〟してきたか考察するのも一興である。

  ともかく人類へのとりかえしのつかない過ちを冒した為政者として遥か未来に、ご自身が3度も4度も漫画の主人公になるようなことにだけはならないよう十分にお気をつけ願いたい! 

 ハイル!!ローゼン閣下!!

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                                                            (イラスト・江口寿史)


【その後のはなし】

 この問題は思わぬ形で再燃した。

 ラーメンズの小林賢太郎が、東京五輪開会式・閉会式の演出家に大抜擢されたが、開会式前日に突如解任された。

 その理由は、23年前のコントのなかで「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」という言葉を使用したためだった。

 そして、深く議論されないまま五輪大会に突入し、話題としては切り捨てられた。
 
 ナチスの問題が欧米社会で絶対的タブーであることについて、まだまだ日本社会全体が鈍感すぎるということが、様々に起こる問題の根底なのであろう。
  しかし、ナチスやヒトラーに関しては、それを連想させてはいけない、議論もしてはいけない、創作もしてはいけないのだろうか?

 『ヒトラー 〜最期の12日間~』(2004年ドイツ・オーストリア・イタリア)や『帰ってきたヒトラー』(2012年ドイツ)という映画などが公開されるたびに、ドイツ国内でもヒトラーの人物像その肯定的側面を決して描くべきではない。

 とする意見や、あの恐ろしさを伝えるためには、あえて日常的な姿や優れた人間性もある側面を描かなければリアリティは生まれないとする反論などが衝突するという。

  一方では『ジョジョ・ラビット』(2019年アメリカ)のように
「孤独なドイツ人少年のジョジョは周囲からいじめられており、イマジナリーフレンドのアドルフ・ヒトラーのみが救いだった」
という設定から、コメディアンで監督兼脚本のタイカ・ワイティティ(出自はポリネシア系ユダヤ人!)
 がヒットラーに扮して、反ナチの反戦映画でありながらヒューマン・コメディの傑作にしてしまうという技法もあるのだ。

  これは、欧米の文化に伝統的にあるコメディアン(道化)にだけ許される表現なのだろう。

  日本でも実は、数年前に高須クリニック医院長が再三Twitterでヒットラー、ナチ礼賛を綴り問題になった。

 当時、ボクも高須さんにTwitterで何度も直接メンションして「やめてください!」と呼びかけた。

 が、こういう話はネットニュースすらならない。

  しかし、いや、むしろテレビの大スポンサーなので問題にならなかった。と、言うべきかもしれない。

 その方が問題だ!!!

  2020年12月にネットで炎上した、DHCの吉田会長のヘイト発言は元を正せば2016年から続いているのだが、この方もテレビの大スポンサーなので見逃され、決して批判、糾弾されないままなのに!!

 あれほどあからさまなヘートの文言なのに。
(この当たりの悪しき弊害は『藝人春秋』2の下巻で言及した)

  この問題に関しては、第二次大戦のヨーローッパ戦線の当事者ではない日本が(同盟ではあったにせよ)、ナチスの戦争犯罪について検証する立場にないことが大前提であり、故に事実として決した悲劇を世界とともに共有するべきことである。

  あまりに事実が苛烈すぎて陰謀論に逃避する人たち(比較的地位の高い人たちですら)が後を絶たない一方で、万人が絶対正義の側にエントリー可能であるため、皮肉や比喩、創作表現すら悪意に取り、物量的総バッシングとなる側面も持っている…………

 と、誰も言わないことを、ひとりだけ毒ガス噴射気取りで書いてて気が付いたが、おっとと…………この文藝春秋にも〝古傷〟のある問題であったので、この辺で……口を閉ざそう。

 って、舌禍事件やタブー意識って、みんな他人の顔色を見ながら、やり過ごすのを待つ、こんな感じの日本人特有の集合的無意識の無責任なんだろう。

「私は声を上げなかった!」
 「二ーメラー牧師の詩の後悔」は誰もしたくないはずだ。




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