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『命懸けの虚構〜聞書・百瀬博教一代』外伝

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       (1998年刊 格闘パンチ )より。

 『命懸けの虚構〜聞書・百瀬博教一代』連載は25まで続いているが、ここらで外伝も挟みたい。
 最近、発掘した資料で文字起こしをしてみた。

 1998年の刊の『格闘パンチ』
 この雑誌で百瀬博教と前田日明は初めて公式に対談をしている。

これは私が一番大好きな対談であり、百瀬博教のトークの面白さに気が付いた最初の記事でもある。

           ☆☆☆

 前田さんと百瀬さんは一度、西麻布の『キャンティ』で遭遇事件があったと聞いたんですけど。


前田 あれ、そうでしたか?



百瀬 あなたは男3人でスパゲッティを食べてたんですよ。で、俺はその隣の席にいた。そうしたらね、凄くあなたがいい、言葉遣いで話しててね。それで連れの人がフォークか何かを落としたんですよ。あなたがボーイさんに「すいません、すいません」ってお上品に呼んでいたら、そいつがマヌケな野郎で気がつかない。だから俺がね、「おい、ほら、何やってるんだ!お客様が呼んでるぞ!お前っ!」って言ったんですよ。




前田 ああっ、はいはい!ああ、そうでした、そうでした(笑)。




百瀬 そうしたらあなたがね「申し訳ありません」つて俺に言ったんですよ。あなたが帰る時にも「どうも先ほどはすいません」つて俺に挨拶してくれてね。「いえ、どういたしまして」つて俺も応えた。あなたは「なんか下品な人だなあ」という感じで俺のことを見てましたよ(笑)。




前田 いやいやいや、えらい気合いの入った人だなと思ったんですよ。




百瀬 そうだったの。何から話をしようかなと思ってるんだけど、まず最初にね、俺はあなたに言いたいことがあるんですよ。要するにプロレスってのはカ道山が作ったじゃないですか。カ道山が作って馬場とか猪木とかが出てきてね、まあ前田さんが出てきたわけなんだけど。俺なんかはプロレスっていうのは全然わかんないんだけど、そのスター性っていうことにおいて考えるとね、たとえば力道山を長谷川一夫つていう感じにする。猪木が三船敏郎かな。そうするとあなたが石原裕次郎っていうことになるんだよ。


前田 石原裕次郎!ああ、そんな。



百瀬 なるんだよ!裕次郎に。

前田 光栄です(笑)。



百瀬 で、あなたも知ってるかもしれないけど、俺は石原裕次郎の用心棒みたいなことをしていたんですよ。だからわかるんだけど、石原裕次郎ってね、あなたみたいに努力して強くなった人でも何でもなくてね、生まれながらのスターなんですよ。当時の彼の周りには大川橋蔵、錦之助、市川雷蔵、勝新太郎、鶴田浩二、三國連太郎、森繁久弥とか、もうピッカピカのいろんな人がいたけどね、彼はね、全然気にしなかったのね、他の人を。



前田 ええ。



百瀬 相手にする必要がないんですよ。スターとしての次元が違うんだから。だからそういう意味でね、あなたも「俺は石原裕次郎なんだ」というつもりで、周りにごまんといるハンチクな敵とかを、相手にして欲しくないんですよ。でさ、あなた朝、鏡を見た?



前田 ・・・・はい。



百瀬 その時、どう思いました?



前田 いや、ごく普通に……何も考えもせずに……。



百瀬 俺ね、こんなこと言うのはヨイショでも何でもないんだけど「世界でいちばん美しいのは誰ですか?」つて白雪姫のお母さんが言うんだよ、鏡に向かって。知ってるよね、この話。



前田……はい。



百瀬 そうするとね、「それは白雪姫です」って鏡が答える。明日からはあなたが鏡の前に立つて「世界でいちばん美しい男は誰 ?」って聞いたら、「それは前田日明です!」って応えるように鏡の裏にテープレコーダーかなんか仕込んどいてさ。



前田 ぷぷぷぶぷぷっ。



百瀬 いや、ホントだよ!

前田 ハ、ハイ(笑)



百瀬 だからね、あなたはこれから朝起きて何をするかっていったら、もう腕立て伏せとかそういうことは絶対にやらない!ひたすら鏡を見るんだよ。それで「ああ、昨日よりちょっと男っぷりが悪いな」とか「今日はいいな」とか、そういう次元で生きていってもらいたいんですよ。もうね、力とか筋肉っていうのはね、どれくらい悲しいかっていうことは、あなたは誰よりも知ったと思う。とにかく、あなたがこれからやることは、めざめたら鏡を見て、自分は昨日より美しいか美しくないか、そこだけですよ。もう、これからあなたは力じゃなくて美貌で生きていってほしい、と。これはホントの話なんだよ、冗談でも何でもなくて。



前田 ええ、はい。美貌で……。



百瀬 たとえば、もっと英語を身につけて国際的な映画俳優になるとかね、いろんな可能性があるじゃないですか。これね、馬場さんに「世界であなたがいちばん美しい」なんて言ったら、俺は逮捕されちゃうよ詐欺罪で(笑)。だから、そんなこと馬場には言わない。ホント、これからはそういう感じでやってくださいよ。



前田 はい、がんばります(笑)。



百瀬 これからはね、格闘家とかプロレスラーとかとは付き合わないでね、「ボク筋肉たくさんついてる男イヤだ」とか言っちゃってね。昔と違う前田日明っていう感じでいくと「前田さんのためなら家を売って金を作りたい」とか言うバアさんとかさ、新しいタイプの熱狂的ファンがいっぱい出てくるからね。



前田 はあ(笑)。



百瀬 俺なんかあなたに比べれば、たとえばあなたが江戸城の若様、俺がその下の駕籠かきの鼻ったらしの連れ子みたいな役しかできないんだよ、見ての通りのブスだからさ。だけど、俺はいざっていう時には二人でいて「前田、この野郎!」つて生意気なヤツが言ったら、俺は弱くても「なんだこの野郎!」って1秒でやられても先に俺がかかっていきますよ。そのあいだにあなたはパーツと逃げちゃえばいいんだよ。その時に一緒にケンカしちゃダメなの。俺はいざという時の緊張度ってのは凄くありますから。今までそういうことに遭遇してね、一同も失敗したことないんですよ。とにかくいい女の代表は白雪姫!いい男の代表は前田日明!これで明日からやってほしいと思います。



前田 なんてリアクションすればいいんですかね?(笑)。



百瀬 あまり参考にならないかもしれないけど、ホント俺はそう思ってんのよ。カッコつけて守れない約束をするからカッコ悪いのよ。でもね、世の中ってそういう人が多いんですよ。たとえばアントニオ猪木!



前田 はあ(笑)。



百瀬 彼はカッコつけなければ何事も起こらないのに、カッコつけるから事件起きちゃうのよ。差しで会うと面白くて優しい人間なのにさ。プロレスも天才なんだし。

前田 ええ、よくわかります。

百瀬 だから猪木はあなたにも嫌われたりすると思うんだよね。あなたは心のどこかでまた「猪木が好きだ」つていう気持ちはあるの?

前田 はい。……マヌケなところが(笑)。

百瀬 うん。猪木もカッコつけないでさ、あなたが捨てられちゃったみたいな感じで他の団体に行った時(第1次UWF)もね、夜一人で来て正座して「前田クン、ごめんね。俺が金がないばかりにこんなイヤな思いをさせちゃって。たいした金じゃないげどここに9万円あるから、これで明日パンでも買って食べて」つて嘘泣きすれば、「よし、この人のためなら命懸けよう」とかなるじゃない(笑)。人生って演出だから。あなたはメッチャクチャ自分を演出していけば、ますますダンディーになると思うなあ。



前田 はい(笑)。



百瀬 これからはね、カッコつけてちゃダメなんですよ。英雄主義は敗北する!だから「俺がリングスの前田日明だ!」つて意気がるんじゃなくて、たとえばあなたのところで教わっている練習生のふりをしてね。生意気な野郎から電話なんかかかってきても「今、ウチの前田は出てますけど、なんなら私が稽古つけましょうか?」みたいな感じで言えると、いいんじゃないかなと思うんですよ。



前田 はい(笑)。



百瀬 そういえば、電話で思い出したけど、面白い話があったんですよ。六本木でね、俺がどうしても電話したかったんですよ。そうしたら酔っぱらってるヤツが二人、公衆電話で電話してて、俺が「すいません、電話したいんですけど」つて言ったら、「向こう行けよ!」って言うんですよ。今から11年<らい前かな。それで「イヤだよ、俺はここの電話がいいんだよ」って言ったの。それでそいつが終わって俺が電話しようとしたら、後ろから背広をつかんで「おい!早く終わらしてやったんだから、礼くらい言えよ!」つて言われたの。その時ね、胸ポケットに入れであった万年筆みたいになってる特別製のナイフをいきなりピッと出して、そいつの頬に突きつけてやったんですよ。「おい!お前、なめるんじゃねえぞ、手ぇ出してみろ!」つて言ったら「は、はい」つて手を差し出したの。それで「ポールペン持ってるか?」つて聞いたら「あります」つて。それで俺がそいつの手に電話番号を書いてやったんですよ。「こ、これ何ですか?」つて言うから「これはニューラテンクォーターってとこなんだよ。俺はそこの百瀬っていうんもんだ!」文句あるならいつでも来い。ヤボな野球帽かぶってるけど不良なんだよ。てめえ、カッコつけてるけど、不動産屋だろ!お前、名前はなんていうんだ?」つて怒鳴りつけてやったらさ、その野郎が直立不動で「ハ、ハイ、わたくし、大手町の鈴木と申します!」だって(笑)。もう笑っちゃってさあ。ひっくり返っちゃったよ、俺は。「大手町ってどこの会社だ?」つて聞いたら「それだけは勘弁してください」つて、で、そいつの連れに「お前は?」つて聞いたら「私はこの方とは全然関係ございません」だって(笑)

前田 ガハハハ八!

百瀬 そういうヤツばっかりだから、カッコばっかりでね。とにかく弱そうなヤツだけに気をつけてね。たとえば、あなたが酔ってお婆さんを突き飛ばしたとするでしょ。そのお婆さんが俺んちに来てさ、「前田選手に突き飛ばされた。私は悔しい。どうしてもリベンジしたい。家を1億4000万円で売るから、その金で彼をホームから突き落としてくれ」とかね、頼まれちゃうんだよね。そういうこともあるから、弱いヤツさえ気をつけとけばいいの。

前田 はい(笑)。



百瀬 それからもう一つあなたに非常に興味を持ったのは、何かあなたに失礼なことを書いた格闘技雑誌の編集長の人(現在『格闘マガジンK』編集長.・ザンス山田さん)がいたじゃない。



前田 はい。



百瀬 どこかのトイレで何かしたとか(女子便所説教事件)あったじゃない。それをビデオ(『前田日明とは何か?』発売・ポニーキャニオン)で大阪たこ焼き(原タコヤキ君)かなんかと、トイレの中で再現してたでしょ。あれを見た時にね、「なんて前田ってカッコイイやつなんだろうな」と思ってね。あれをできれば、人生でできないものはないですよ,あんな剽軽なことできるんだから、カッコイイ人生を送れますよ。



前田 送れますか(笑)。



百瀬 なんかさっきから俺ばっかり話しちゃってるけどさ。そういえばあなたの引退試合(7・20/前田日明リングスラストマッチ)、このあいだテレビで見ましたよ。



前田 ああ、ありがとうございます。



百瀬 でも、本当はああいう試合ってイヤだと思うんだよね。自分が仕込んだ若い衆に掌底かなんかで顔を殴られちゃってさあ。俺なんかね、身内とやる麻雀大嫌いなんですよ。なぜかっていうとね、麻雀は4人でするでしょ。そうすっと鼻ったらしの若い衆の中に入んなきゃなんない。そいつがね、俺が牌を切ると生意気に「通す!」とかなんとか言うんですよ。「何が通すだ!チンピラのくせに、この野郎!」と思ってね。



—いや、それは麻雀だから(笑)·


百瀬 我慢ならないね。そんなチンケな野郎に「通す!」なんて、言われてまで麻雀やりたくねえんだよね。だからね、そんな「通す!」なんて言われる麻雀はずうっと前にヤメた。

前田 いやあ、なんか調子狂っちゃうな(笑)。



—百瀬さんのパワーは前田さんの磁場まで狂わせますか(笑)。



百瀬 俺はね、生まれつき耳がいいんですよ。刑務所で500何人いたんだけど、俺がいちばん耳がいいのね。それで遠くにいる炊事夫の声が聞こえるんですよ。だから献立がわかるの。それで周りのヤツから「百瀬さん、今日は何ですか?」って聞かれて「おう、今日はカ・レーだよ」とかね(笑)。その耳がいいということで、俺はバブル時代に一時だけ大金を手にしたんですよ。



前田 耳が良くて大金を…?



百瀬 古本屋に行ったらね、そこの店長のオヤジが何かプツブツ小声で話をするんですよ。誰もそいつの話を聞いてくれない。声が小さくて聞き取れないから。でも俺には聞こえるんですよ。で、一生懸命そいつの話を聞いてやって仲良くなった。そうしだらそいつが株の天才だったんですよ。俺はそいつを信用して、必死になってかき集めた2億円をポンと貸してやったんですよ。それがバブルがはじける寸前には960億円の資産になったの。



前田 えっ? 960億!



百瀬 そう!それで俺は一気にマハラジャ気分になっちゃって、もう金のないャツとは口利きたくない、みたいな感じになっちゃって(笑)。



前田 それ、いつ頃ですか?



百瀬 昭和62年から平成2年くらいまでのことですよ。
「『週刊文春』に『不良ノート』を連載している百瀬博教がある家に行って金庫からいきなり10億円持っていった」とかヨタ記事まで書かれちゃってさ。ホン卜は4億円集金に行ってもらえなかったってのに(笑)。
そういうヤキモチ焼かれるほど金を儲けたんですよ。たまたま耳がよかっただけでね。



前田 はあ~、凄い話ですねえ。



百瀬 それで不動産や株の資産が100億になった時にね、その株の天才が俺んちに来たんですよ。昭和62年だったかな「百瀬さん、100億の資産になりました」って。そいつがね「将来、50億ずつ分けましょう」つて言うんですよ。「そうじゃないよ、俺はお金を出したかもしれないけど、君の方が頭よくて本当だったら俺は一銭も儲けられないのに君が一生懸命やってくれたんだから、君が60億、俺が40億でいいよ」つて。その時に天才が金をどうやって分配するかっていう覚え書きを書いたのよ。そんな念書持ってたって今は天才が倒産しちゃったから何の役にも立たないんだけど、それを書く時に「キミにはお父さんもお母さんも嫁さんもいろんな人がいるけど、そういう人にはこの件に関して絶対に容喙させないでほしい」つて言ったんですよ。そうしたら彼は「容喙(ようかい)」っていう、言葉がわかんなかったの。あなた「容喙」つてわかりますか?



前田 いや、わからないです。



百瀬 「口出し」つて意味なんですよ。それで「何で不良が『容喙』なんて言葉知ってんだろう?」つて中央法科中退の株の天才が不思議がっててね。俺は刑務所の独房で6年間勉強してたから、いろんな言葉を知ってるんですよ、難しい言葉をね。「一家脊属」とか「容峰」とか、たとえば「満天皇」と書いて「どうだん」とかね。そういうのを読めるのね、俺は。それでいつかそのお金を分けようって話になってたんだけど、天才が「百瀬さん、相談があるんですけど。このまま5年くらい株やってれば500億は行くと思いますけど、どうでしょうか?」つて。俺も凄い爪を伸ばす男だから「やろう!」つて言ったんだよね(笑)。そうしたら500億突破しちゃった。



前田 500億……。

百瀬 うん。それである時に、F-1のレイトンハウスってチーム覚えてる?



前田 ええ、はい。

百瀬 あれのオーナーの赤城明が俺のことをニューヨークやプダペストやミラノやパリ旅行をさせてくれたり、宮士銀行の中村課長っていう人にも会わしてくれたんですよ。そうしたら「お金を貸してあげるからもっと増やそう」みたいなことで、その中村課長と株の天才が組んで、とうとう960億にしたの。でもその後、中村も株の天オも、富士銀行の不正融資事件で捕まっちゃったんですよ。だけど俺は捕まんなかった。それはね、その中村課長っていうのは俺より12歳年下の人なんだけど、俺んちに来てね「先生よぉ、お金いらねえのかよぉ」つて言うんですよ。いつくら金がほしくてもね、12歳年下の銀行員の兄公にこんな安い口利かれてね「俺はイヤだな、こいつと付き合ってもしょうがねえな」と、お金はほしかったけど付き合わなかったんですよ。だから首葉を大切にしたおかげで事件に巻き込まれなかったんですよ。いつでもね、言葉遣いとか礼義とかが身を助けてくれる。「どうもすいませんでした」つて頭を下げれば済むことが「おう、いつでもやってやるぜ!」みたいになっちゃったらさ、殺られちゃいますよね。相手の言葉にカッときて、殺りたくもないのに殺っちゃったっていうヤツには、刑務所でいっぱい会ってるわけですよ。そういう人たちに暴力をふるわせない言葉。それはやっぱり挨拶がいちばん大切なんですよ。挨拶って身を守る鎧だからね。これからはあなたも『キャンティ』で俺に見せてくれた挨拶の上手さをもっと磨いて、挨拶の天才として生きていりと将来凄いことになるね。

前田 はい。

百瀬 そうすれば金だってついてきますよ。あなたが60歳になった時に「ああ、金はもういらない。金は空しい」とかなんとか言っちゃってね(笑)。「おい、そこの金庫開けて10億持っていけ」みたいな爺さんになれるんじゃないかな。とにかく「前田日明挨拶道場」みたいなのを作っちゃってさ、挨拶の有段者をたくさん生み出してほしいね。そんな感じでこれからは生きていってほしいなあ。

—なんか宗教みたいですね(笑)。

百瀬 うん、前田教っていうことでね、今までは力でひれ伏させてきたけどさ、そんなことじゃなくて、南アフリカのマンデラ大統領と世界に通用する挨拶の研究をするとかやってほしいんですよ。



前田 マンデラ大統領と(笑)。



—百瀬さんは子どもの頃から「おぼっちゃま」だったんですよね。



百瀬 それほどじゃないけど、とにかく運のいい子どもだったんですよ。勉強なんか嫌いだったけど、金くれるオヤジを見つける天才だったのよ。

ーコギャルみたいですね(笑)。



百瀬 俺んちは人様から金をもらっちゃいけないとか、そういう教育委員会みたいなこと絶対言わない家だから、「はしっこい」っていうことがウチでは美徳だったんですね。場面を見られる、空気が見られる、そこんとこをずっと俺は習ったんですよ。たとえば前田さんがこれから口説こうっていう女と飲みに来てるのにさ、「前田さん、このあいだの女の人キレイでしたね」とか言う嫌味な男がいるじゃない、よく。



前田 いますいます(笑)



百瀬 そういうことを俺は子どもの時から絶対に言わなかった。だから、警察に捕まった時に、俺はピストルを200丁持ってたんですよ。でも言わなかったんですよ。「言えば罪は軽くなる」とか何とか言われても、俺んちは曾祖父さんの時代から、頑張れば頑張るほど賞金が出るような家だったから頑張れたんだよね。差し入れにお袋が来てさ「弁護士さんが感心してた」とか「ワタナベ警部が感心してた」とか言葉の勲章をバンバン投げつけるわけだよ、金網の外から。そうなったらもう、嬉しくて嬉しくて「言うもんか!」つて頑張っちやったもんね(笑)。だから、俺が勉強嫌いだったのは、すぐに褒美をくれなかったからだね。たとえば学校の先生がさ、俺が分数できるたんびに1000円ずつくれてればね、俺は算数の勉強したんですよ(笑)。だけど、学校の先生ってのは、銭もくんねえじゃない。能書きばっかり言うだけでさ。

—さすが独特の教育世観ですね(笑)。



百瀬 いや、だからウチに出入りしてたフーテンひろしなんていう人が来て「酒買ってきて」って言われると、俺は女中を使いにやらず自分で特級酒買いに行くんですよ。それで「おにいちゃん、剣菱なんて気が利いてるねえ、お釣りはとっときな」「はい」なんてね。「猫の貯金箱に入れておきます」とか言っちゃって、ホントは入れないんだけど(笑)。入れるフリをしてると、「坊やはエライ、貯金はいいぞ。じやあもっとあげようね」とかね。で、しみったれた小父さんが来た時はどっか遊びに行っちゃってさ(笑)。箱崎の倉吉つていうウチの親父の子分が凄い金儲けが巧くて「アンちゃんはきっと出世する」なんて言って必ず小遣いをくれるんですよ。それから新田新作っていう新田建設や明治座の社長で力道山のスポンサー、知ってるでしょ?

前田 はい、知ってます。



百瀬 ウチの親父が新田新作の親分の鈴木榮太郎と兄弟分だったんですよ。ウチの親父は先が見えたから、若い頃の新田新作に博打の金とかを貸してた。だから、自分の親分以上に親父と仲良かったんですよ。で、新田新作っていう人は戦争中に川崎の基地で外人の捕虜に、行田の方から持ってきたキャベツを食べさせたり、憲兵に隠れて酒を飲ましたりしてね。それで戦争が終わった時に「新田新作出てこい」ってGHQから呼び出された。これはギロチンじゃないかと思って逃げる算段してたんだよ。ウチの親父なんかは「新分、もしギロチンだったら、俺たちも死ぬから」つて一緒について行った。そうしたら逆に、今でいえば600億円の東京復興の士建仕事をくれたんですよ、それで一挙に金持ちになった。昭和25年に自費の3000万で建てた国技館をポンと相撲協会にくれてやったくらいの人だからね。そんな関係で俺は中学3年生の時に新田新作の養子になるところだったんですよ。



前田 凄い縁ですねえ。



百瀬 その頃、俺はあなたみたいに強くないんだけど、ポチャポチャ太ってたから相撲取りになろうかなと思ったら、力道山に「相撲取りになんかなっちゃダメだよ」つて言われて、ならなかったんですよ。だから力道山もけっこう知ってたんですよ。で、新田新作はその当時リンゴが、一個10円の時にね、中山競馬場で会うと5000円くれるんですよ。その金を貯めちゃってね、それで中学3年からずっと金貸しをやってたんですよ。近所の大学生に貸したりしてね。

ー筋金入りですね、それは(笑)。

百瀬 金を貸す時の気持ち良さったらないんだよね、一昨日までえばってた大学生も、金借りるときには人格が変わっちゃってさ。中学生の俺に「ひろちゃん、ありがとうございます!」なんてね。その言葉に酔っちゃってさ、バブル時代にいい気になって貸しすぎちゃって今は百無しになっちゃった(笑)。ただ、そういうことをやってきたから、俺はお金を生み出す人とかを見る目ってあると思うんですよ、今は不景気だけど、自分自身が金だと思ってるから、やっぱりこれからもきっと金は集まるなあって安心してるんだよね。



前田 百瀬さん、お父さんの組は継がれたんですか。

百瀬 ええ。でもね、親分になるっていうのは、地球七周り半くらい苦労するとこだからね。これは昔お世話になった森田政治親分の姐さんの言葉ですけど「ヤクザで苦労するくらいだったら違うことで苦労したほうがいい」


前田 それほど厳しい世界なんですね。



百瀬 そう。あなたはヤクザ稼業に向いている性格なんだだよ。でも、あなたがヤクザだったら、いちばん最初に殺される!腕に自信のあるのは殺されるんだよ。なぜかっていうと俺がケンカするじゃない、前田組と。そうしたら前田組長がいちばん強いわけだから、どんな手段を使ってでもやっつける。組長がいなければいいんだもん。あとはへナチョコ野郎ばっかりなんだから。そうすると、昼飯のかやくうどんに毒を入れられたりさ(笑)いつでも危険にさらされているわけよ、親分は。だから、危ないんだよ。あなたがどこかの親分になってれば、あなたを倒さなければ自分の立つ瀬がないってことになるから、変なチンヒ°ラをそそのかしてハジキで撃つとか、そういうことわかるよね。



前田 はい。



百瀬 あなたの幸せっていうのは格闘家になったっていうことですよ。だから命長らえたのよ。あなたがストリート・ファイターから格闘家になったから、こうやって出世もしたし、名前も知れたし、今、中華料理を食べてられるんですよ。そうでしょ?



前田 はい。



百瀬 だから俺もある時にヤクザって辛すぎる稼業だなと思って。もちろん度胸もないし、俺は親分になって日本を制覇するっていうオ覚もなかったし、俺の視線っていうのも違ってたから。今は百瀬組はやってないけど、母の大好きだったお祭りだけは毎年6月にやってるんですよ、浅草の鳥越神社で。今度見に来てもらえばわかるけど、もう東映映画より格好いい。毎年お客さんが300人以上来るんだけどね。中村雀左衛門っていう歌舞伎の女形が舞台衣装みたいな着物を俺にくれるんですよ。それに着替えるためにみんなの前で俺が浴衣をパッと脱ぐと、上着のダボの胸のところにお袋の名前なんだけど「菊江」つて書いてある。「俺は今、お母さんを思い出してるよ」って。これがいい場面なんですよ。でもね、K-1の石井館長が祭の祝儀に一億円くれたら来年から「菊江」はやめますよ。「和義」つて入れますよ(笑)。

前田 ガハハハヘ



百瀬 でもホントに人生は演出だよ、刑務所に行く前に俺は凄い勉強をさせてもらったんですよ、父と仲の良かった銀座の森田政治っていう国粋会の会長が、当時山口組のナンバー2だった地道行雄と兄弟分の盃を交わすことになった。それで森田会長と一緒に俺も神戸に行ったんですよ。その時に地道行雄が森田政治に向かって「兄弟、本当だったらウチの親父(田岡一雄組長)と兄弟分になれる人間なのに、俺みたいなヤツと兄弟分になってくれて、すまねえな」つて言ったんですよ。その言葉が終わらない内に、森田政治は地道行雄の襟をグッと持ったんだよね「おい地道、何言ってんだ!俺はお前が好きなんだよ。お前に惚れてんだ!だからお前と兄弟分になったんだよ。それがイヤならここで別れよう!」って。そうしたら地道行雄がやられながら「嬉しいなあ」って。俺はそれを見ててね「ああ、こういうふうにやるんだなあ」つて。

前田 まるで魔法のかけ合い合戦の現場に立ち会ったようないい場面ですね。

百瀬 見事な演出だったね。アントニオ猪木が議員時代にキューバのカストロと話なんかしたりしてたけど、たとえばあなたがカストロと会ったらいきなリ首を絞めちゃうとかね(笑)。「いつまでも突っ張ってないで米国と手を組め!」なんて言って。相手に「そうだよな」つて思わせる、何だかわけがわからないけど実を結ぶやり方っていうのを俺はそこで覚えたな。それで地道さんがね「百瀬、これから懲役行くんだなぁ。何年だ?」「6年行くんです」「ふーん、短いな。帰ってきたら何するんだ?森田の身内になるのか?」「いや、私はアラビアのクウェートに行って石油か何かで金を儲けたい」「そんな夢みたいなこと言うな。俺のところに来い」つて。「いや、私は誰の子分もイヤなんです。親分ならなってもいいけど」つて。そうしたら「面白いな、お前は。よしつ、食べるのはお前、金を払うのは俺」つて言ってふぐを食いに連れていってくれた。



前田 いい話ですね....

。

百瀬 何でも演出なんだよ。あなたが、たとえば皇太子殿下の大親友になればさ、皇太子殿下と兄弟分の前田さんと俺とはこんなに仲がいいんだって感じでさ、俺もみんなに言いふらすでしょ。誰かが「雅子さまの具合はいかがですか?」つて聞くと「まだ御懐妊なされていないそうですよ」とかね(笑)。そういう感じで行こうよ。



一凄い感じですね(笑)

 

百瀬 いや、そのくらい次元を高くやっていってほしいんだよ。これからの前田さんは詩人になって「今日、朝起きてカエルを6匹探しました。7匹目のカエルを踏んでしまったったのです」とかさ。「カエルさんごめんねごめんね」とかさ。それを英語に訳して講談社のインターナショナルを通じてアメリカで出版して「ミスター・マ=ダは時人だ」って感じで俺と組んで向こうに行ってさ。そうすると向こうの大金持ちのユダヤ人のオバさんか何かがさ、金持ちにはカエル好きがいっぱいいるからね。

―いるんですか!(笑)。



百瀬 いるよ!そういうオバさんが「ミスター・マエダの詩は可愛い。全米カエル協会の理事にしよう」とかってさ。それで年間2000方円くれるとかね。するとマネジャーの俺が「ダメだ、彼は2000方なんかで暮らせる人じゃない。20億くれ」とかさ(笑)。そういうノリでやっていこうよ。

前田 すいません、あんまり面白すぎて聞き惚れちゃいますよ(笑)。対談になってませんね。でも、うちの親父が百瀬さんのような「男気」の世界が大好きなんですよ。で、凄い揉め事があって、誰がどういう場面でどういうことを言ったら治まった、あれはカッコイイとか凄いとかいう話をどこからか聞きかじってきては~ちっちゃい時から親父に聞かされて育ったんですよ。だから、百瀬さんのお話を聞いていると凄く懐かしくて。

―懐かしい(笑)。



前田 中途半端なことをするのを「ひやかす」とか、言うじゃないですか。



百瀬 うん、「ひやかしはダメだ」とかね。



前田 そういうセリフは30年ぶりに聞きましたよ、百瀬さんの本の中で(笑)。



百瀬 最後に勝利する人って、やっぱり「ひやかし」じゃないよね。だからあなたはこれからも、ひやかし野郎を蹴り続けて、もっともっといいポジションを目指してピッカピカの人になってほしい。これは前田日明ファンの俺の切なる願いです。



前田 ありがとうございます。



百瀬 だから、これから3年か4年はさ「あっ、僕はそば屋の出前持ちからやります」みたいなこと言ってさ、あなたがこれまでの栄光を捨てれば捨てるほど、人って見てくれるし、協力者もどっさりできるし、ファンもできるからね。もう明日からね、町内の縁の下で死んだ犬を探したりしてね(笑)。あなたは体が大きいからさ、ちっちゃい人間を連れていって「いなくなった犬はいませんか?」って近所を回るのよ。そうすると町内から今度は市になって国になって世界になってっていう感じでさ、そうやってフィールドを広げていきましょうよ。! 



前田 はい(笑)。



百瀬 俺はホントにね、そういうふうに思ってるんだ。この10月から秋元康さんが俺のプロデューサーになってくれて「お話会」とかをやるんですよ。その「お話会」のいちばん最初のお話を聞いてくれる人があなただから、今日面白い話をここでしたんだけど、これは全部本当の話ですから。こんなバカみたいなくだらないことを言ってるヤツでも長いこと不良の世界で生きていたんだなあということを見てね、いわんや自分は国定忠治よりカッコイイわけだからさ。



前田 今日は一生分カッコイイって言われた気がしますよ(笑)。



百瀬 いやいや、あなたにはこれからもっともっとカッコイイ男になってもらうよ。これからは強いだとか何だとかってそういうのは相手にしないでね、「おい、お前たち、まだ格闘やってるのか……俺は今日ちょっと草むしりしなくちゃいけないんだ。ロンドンのお城の」とかさ。そういう人になってほしいな(笑)。

前田 わかりました!(笑)。

百瀬 これからも一年に3回くらいは会おうよ!



前田 はい(笑)。


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