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【博士の備忘録】20年前、寺門ジモンかく語り記。Part1(21/5/12記)

 2021年5月10日。阿佐ヶ谷ロフトに寺門ジモンをゲストに迎えて、アサヤンVOL・7は開催された。

 このイベントでは、ボクの20年に渡る、寺門ジモン研究の成果が発表されたが、ボクの見立てやちょっと意地悪な邪推にも、ジモンは一切の言い逃れもなく、全てを肯定的に、さらに過剰に語っていく天下無双の寺門節に、客席に全員が圧倒された。

 この寺門ジモンの唯一無比のキャラクターに気がついたのは、今から丁度、20年前、2001年の5月11日のことだ。ボクは六本木、テレビ朝日で寺門ジモンと同じ楽屋で語り合っていた。

  以下、『お笑いお笑い男の星座2』から引用する。

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「タッ多分、オッ俺と同じ境地で同じ強さを求めて同じ目標で一日も欠かさず毎日トレーニングしているのは世界中でヒッ、ヒクソン・グレイシーとオッ俺くらいしかいないと思うよ! いや、コッこれマジで!」

 格闘技界で世界最強と目され〝400戦無敗の男〟を自分と比肩して、トンデモ意見を堂々と真顔で語っているのは、ダチョウ倶楽部の寺門ジモンである。

 2001年、5月11日──。
 テレビ朝日の深夜番組『虎ノ門』の楽屋。
 この番組の中のコーナー『朝まで生どっち!?』は、いとうせいこうが司会で、芸人が『朝まで生テレビ』スタイルで生討論を行う人気コーナーだった。
 今回の討論の命題は「芸能界で一番ケンカが強いのは誰?」である。
 この手の話題は芸人の楽屋話の定番である。
 もちろん俺たちにとっては、お手の物、相手がどういうスタイルできても話に困ることはない。
 しかし、この番組の趣旨はあくまで「芸能界一強いのは誰か?」というテーマのもと、パネラー各人が一名ずつ、誰もが名前を聞いた瞬間「なるほど!」と思われる最強芸能人を「他薦」し、討論によりケリをつけるものである。
 もちろん、バラエティーの鉄則として、ただただ真面目に「最強」を論じるではなく、芸人らしい笑い話や、強引な論理展開を交えたトークバトルを展開するものなのである。
 
 本日集められた出演メンバーも、そこのところは心得ていて、蛭子能収が芸能界の常識として、順当に安岡力也を推せば、よゐこ・濱口はキャスター界の筋肉マン・草野仁を推し、吉本新喜劇の石田靖が大阪名物「パチパチ・パンチ」の元・ボクサー、島木譲二最強論を繰り広げる。
 それに対し、玉袋が意外にも欽ちゃんファミリーの用心棒、「車だん吉さんこそ!」と遮ると、返す刀で博士が「沖縄カラテの黒帯の猛者・大木凡人に決まってるだろ!」と炎上するという具合に、それぞれの「私情最強」を口にして議論百出のなか白熱する……はずだった。

 ところがその日のパネラーに約一名、そんな番組趣旨を鼻っから、真っ向否定し、最強芸能人の名に自らを「自薦」するや、ムキになって己の「最強」を論じ始めたのである。

 この御仁、本番前から、一人だけ異様な熱気を帯びながら他人の意見を全否定し、一人で完全に楽屋の空気を乱しながら、芸人およびスタッフを引かせまくっていた。

 その空気を読めない男こそが、寺門ジモンなのだ。
 しかも、ジモンの目は真剣、疑いの余地など一切ないという構えであった。
 確かにテレビ的に言えば、これだけ、名前が挙がった錚々たるメンバーのなかで、自分自身で自分を押すのは一つのギャグである。
 しかし、これがお笑いのテクニックでもなく、オチでもなく、本心、本気で言っている場合はいかがなものか? 
 実際「奇人・変人」揃いのダチョウ倶楽部のなかで「超変人」として、ジモンが完全に浮き上がっているのも無理はない。

「オッおい! 俺は『奇人』じゃないよ。『超人』なんだよ。タッ多分、オッ俺と同じレベルで最強を考えているのは、昔だったらミッ宮本武蔵だし、亡くなられた極真会館のオッ大山倍達総裁が、オッ俺と同じタイプの人間、性格だから。同じ道を極めた人だったろうねぇ。言っとくけどオッ俺は、その領域の人なんだよ」
 これが、冗談めいた口調ではない。
 なにしろこの人は二十四時間、人を見たら、
「もし、こいつと闘ったら、こいつに勝てるのか? そして、どうやって仕留めるか!」
 という、集団的自衛権の行使ならぬ、個人的自衛権行使を主張している軍人なのだ。
 しかも、これが、ただの夢想ではない。
 その実証として彼は自ら課した過酷な肉体トレーニングを、なんと30年間、一日も欠かしたことがないと言うのだ。 
 仲間から「変人」と謗ら(そしら)れながらも、煙草も酒も芸人の付き合いも一切断ち、仕事が終われば、ひたすら一人汗を流す、そのトレーニング量が、「日本一」を自称しているのだ。

「ボッ、ボディビルみたいなウエイトを使ったトレーニングは見せる為だから否定はしないよ。デッでもあれは全然強くない。オッ俺なんかは、プロレスの神様・カッ、カール・ゴッチがやっていた自分の体重と重力を利用した自己流トレーニングを三十年間続けて、コッこれだけグッドシェイプな身体を作っているからね。しかも、、プロテインとか薬物は一切使ってないから、見せる筋肉と、闘いの筋肉とは全く違うからね、オッ俺みたいな、速筋繊維と遅筋繊維のバランスが絶妙にとれている筋肉が戦いの筋肉なんだよ。ボッ、ボディビルとかで、速筋線維だけの奴は強い力が発揮できるかわりに、すぐに疲れてしまうでしょ、ソッそういう場合はすぐには闘わず、オッ俺は持久戦で闘うね」

 だんだんと、ジモンの演説は雑誌『TARZAN』を読んでいるかのように専門的になってくる。
 「サッ最強というのは、自分の筋肉、スタミナとかあらゆるものを分析できる人間。イコール、相手と出会った瞬間、相手のことを分析できる人間、これが強い人間なんだよ。キッ筋肉が、ついているとかそんなことは関係ない。本当に強い人間って言うのは、いつでも自分の弱いところ、相手の弱いところ、そして、今居る、その場所をどう有利に使えるかが分かっている人間なの。ダッだから、こうやって、今、ここの楽屋に入ってきた時だって、オッ俺はパッと見渡して非常口は何処? って確認してるし、そして今も、そこのガラスの厚さを調べたからね」
 
 しかしサッシ屋でもないのに、なぜわざわざ楽屋の窓ガラスまでを調べる必要があるのだろうか?
「ダッだって何かあった場合、扉から脱出するより、ガッ、ガラスを割って飛び出したほうが逃げれる確率が高いじゃん。ヒッ非常事態を想定して、イッ入り口からいちばん近いポジションはどこか、ドッどこに誰がいるとか。そういう意識を日常の生活にいれてない人間は最強じゃないんだよ!」
 しかし、非常事態を回避するのと、最強は違うのではないか? との疑問も湧き上がる。
 「イッ家に帰るときも、もしかしたら中に誰か侵入してないか想定して、ショ障害物を置いておくの。その置き場所を毎日変えるんだよ。ダッだから、オッ俺は、家に帰ってドアを開けた瞬間、敵を回避しながらピョンピョン飛び跳ねて部屋に入るの。つまり、いつでも臨戦態勢にしておくんだよ」

 かなりのイカれた奇行の持ち主だが、つまり、寺門ジモンは常在戦場なのだ。
 しかし、問題は、それを実戦に使ったことがあるのか? 
 ということである。

「ジッ実戦なんか一切ないよ! 学生時代から、ここまで鍛えているオッ俺にケンカ売ってくる奴なんているわけないんだから、でもオッ俺はいつでも戦う準備できてるんだよ、それでも、そういう状態になると、みんな、すれ違っても、オッ俺とは闘わないね。わかるんだよ、それはいわゆる、ドッ動物の勘というか、遺伝子レベルで俺の強さが。ダッだってそうでしょ、ドッ動物も一緒なの。百獣の王、ラッ、ライオンには、どんな動物でも見境いなく襲い掛からないし、ラッ、ライオンを襲う獣もいないでしょ」
「つまり、ジモンさんは、自分はライオンだって言うことですか?」
「ドッどちらかと言えば、オッ俺は人間よりはラッ、ライオンに近いだろうね……。でも言っとくけど、こと動物と闘うことに関しては、オッ俺はうるさいよ」
 と、この話をあくまで真顔で。

 しかし、そこまで言うなら、いっそ本人自らプロの格闘家になればわかりやすいのだ。
 しかしながらジモンの職業は、あくまで芸能人であり「お笑い」である。  

 それでもジモンは『筋肉番付』などの体力番組によく出ているが、それらの番組では、いつも総合的にケイン・コスギなどに負けているのだから、言っていることに説得力が無かった。そこを指摘すると、

「オッおい! おまえ! それ本気で言っているのか、何年、芸能界やってんだよ! あの番組はケッ、ケインを勝たせるルールでやってるんだよ。ダッだからしょせん競技なんだよ。ああいう競技、腕立て伏せを何回するとか、トッ跳び箱何段飛んだとか、スポーツ的に比べても、オッ俺には意味がないから。その証拠に、世界最強のヒッ、ヒクソンが出たときだって、あんな記録じゃあ、たいしたことないじゃない。強いってことは、どっちが倒すかって事だから。デッでもあの番組、オッ俺はケッ、ケインの筋力が分かって楽しいよ。このぐらいの筋力だとあれぐらいのスピードで動けるんだなって、ОK! じゃああいつが攻めてきらら、こっちはこういう攻撃をしようって思うから。デッでも一瞬の瞬発性はオッ俺のほうが早いよ。言っとくけど、アッあれは決闘じゃない、殺し合いじゃないんだよ。あくまで、お約束のあるバラエティー番組なんだよ。あそこで、ガッ、ガチンコになるわけないだろ。オッおい、マジになってどうすんだよ! オッおい! おまえ、お笑いのくせにそんなこともわかんないのか!」

 とジモンは血相を変えバラエティー番組の楽屋でマジになって俺たちに激怒したのだ。
 今までのところ、ただのホラ話に聞こえるかもしれないが、実際、寺門ジモンは思い込んだら、一直線、一途な究極の凝り性である。
 その性質が発揮されるのは、肉体トレーニングばかりではない。

 ジモンが深夜の通販番組で見せる、その多趣味ぶり、コレクターとしてのこだわりは視聴者に既にお馴染みではある。
 しかし、芸能人が通販番組に出演して、好きでもないグッズを大仰に推薦してみせる、よくある、ありがちな安っぽい芸風とはジモンの場合は本質的に異なるのである。
 モデルガン・スニーカー・腕時計・ジッポ・Tシャツ・アイドルテレカ・限定レアグッズ・中国陶器、そして変わったところでは、攻撃光つきの懐中電灯、料理本、料理道具の主に包丁、および、なぜか、世界の塩、等の収集を誇っている。
 ちなみにそのコレクターとしての知識と物品をゲットするための行動力もハンパなものではない。

「タッたまごっちの激レアもの収集のために二晩、原宿のキディーランド前に徹夜で並んでいたのは芸能人でオッ俺だけだよ。オッ俺は未だに、タッたまごっち類似品も含めて未使用で未開封のモノ、ヒャッ150種類以上持っているんだから、オッ俺よりコレクションで上はいないよ。マッ間違いなく日本一だよ!」と自慢する。

 今時、「たまごっち」の話をする人も、それこそ「激レア」者であると思う。
「それにオッ俺は、コレクターじゃなくてマニアなんだよ、タッ、ただ、モノを集めたいんじゃないんだよ、追求したいんだよ」
 しかし検証してみれば、本人が語るように、とにかくその趣味の全てが「自称日本一」と言うべき規模なのである。

 実際、昆虫採集、特にオオクワガタに関しては、個人的に民間愛好家を組織して捕獲チームを主宰するほどの日本の第一人者である。
「オッおい! 言っとくけど昆虫採集だって子供だましの生易しいもんじゃないよ。オッ俺の場合は山篭りの肉体トレーニングを兼ねているからね」

 世界広しと云えども、昆虫採集を肉体トレーニングと結び付けて考えている人は、まずいないだろう。
 これには、アンリ・ファーブルもびっくりである。
 実は、ジモンはオオクワガタ捕獲の為にいまだに芸能スケジュールを調整しては、年に10回は山篭りしているそうなのだ。

「オッ、オオクワガタ捕まえる時は山の中に入るからね。標高が高い所にしかいないから、平気で一週間は山の中にいたりするよ。山の中入ったら、自分で課題があるからね。今日は、6時間、ホッ匍匐前進だけで移動するとか、木の上で3時間休むとか。言っとくけど、オッ俺は、木の上でも眠れるからね。しかも、オッ俺の場合は筋トレだけでなく、サッ、サバイバル訓練も兼ねてるから、だから、この間も、山に入るとき、食料はバナナ一本しか持たなかったから。たった一本だよ。それでどれだけ人間は動けるのか? エッ、エネルギー量消費のスピードを自分の体で実験するんだよ。前は、ヤクルト一本だけでどれだけ動けるか? とかやったし。飴一個とか。モッもし、それがなくなったら完全に自給自足だからね。山に入ってね、山の食べられる野草と毒草の見分けつくタレントはオッ俺ぐらいだから。ドッ動物が食べてる野草を食べるんだよ。ドッ動物が食べれるなら人間も食べれるじゃん。チッ知識があれば、野鼠だって蛇だって、人間、腹が減ったら、なんでもおいしく食べられるからね」

 なんとも、『野生の証明』チックな話ではあるが、つまり、これは趣味と肉体&精神鍛錬との修行を兼ねた山篭りなのだ。
 しかもこんなことを誰から強制されるでもなく自ら好き好んで自費でやっているジモンは、やはり芸能界にいるよりも、自衛隊に入って日本の国防に当たるべきではないか。

「今、デパートなんかで、オッ、オオクワガタは〝黒いダイヤ〟って言われるくらい、高値をつけてるでしょ。デッでも日本でオッ、オオクワガタブーム作ったのもオッ俺だからね。最高100万円まで値段つけたり、7センチ以上だったら、1ミリごとに10万円刻みで値段つけてたけど、あれだけの高値つけたのもブッブームの渦中にオッ俺がいたからだよ。でも、あれなんか養殖モノだからね。ホントの値打ちは天然モノじゃないと。非公認だけど、オッ俺は天然で73ミリの日本で一番大きいオッ、オオクワ捕まえた記録持ってるから。あのね、言っとくけどゲッ芸能人で女にマンション借りてやってる奴はいるけど、クッ、クワガタの養育用のためだけにマンション借りてるのは芸能界広しと言えども、オッ俺ぐらいだから」

 自分の趣味の自慢話はそれだけではない。
 ジモンの余技として有名なのが、西部劇でも御馴染みのガンの早撃ちである。
 コンマ数秒の差が生死を分けるホルスターからの抜き撃ち競技なのだが、ジモンがテレビで披露したのを契機に日本のガンマニアの間で一大ブームが起きたと言うのだから恐れ入る。
「オッおい! オッ俺はね、このガッ、ガンアクションだって、昨日今日、始めたわけじゃないからね、サッ三十年欠かさず、練習やっているからね。タッ多分、間違いなく日本で一番早く拳銃を抜けると思うよ」
 ガン捌きはいったいそれは何の為にやってるのか? 芸人として、余興の芸のレパートリーを増やすためなのか?
 否──。
 ジモンの場合はそうではない。
 それなら、ただのエンターテイナーである。
 ここがジモンのおかしなところなのである。
「オッおい! オッ俺の早撃ちをサッ堺正章さんのかくし芸と一緒にするなよ!」
 これはすべて路上のケンカ、バーリ・トゥード(なんでもありの格闘試合)、命の獲りあい決闘、を頭のなかで設定しているためなのだ。
 兵(もののふ)の心構えなのである。

「例えば、モッもし一対一で闘う時、お互い拳銃を持っていたら。一秒でも早く拳銃を抜けるほうが強いわけだろ。そういう想定をオッ俺は、いつも考えているから」
 しかし、これまた湧き上がる疑問。
 果たしてこの平和な日本でそういう設定、状況がありうるのか?

「アッ相手は、日本人とは限らないだろう。アッアメリカに世界で一番早射ちの人がいるんだよ、マッ、マーク・リードってプロのガンマン。オッ俺は十年以上、一方的に、この人を追い続けてるんだけど、イッいつかその人と勝負しなくちゃならないかもしれないからね。その時のためにね備えてるの。モッ、モデルガンなんてしょせん子供の遊びだから。拳銃を持っていたら、それは命のやりとりだからね」

 モデルガンをオモチャ、自分のやってることを本物といったら拳銃の世界で言ったら銃刀法違反でないのか? と突っ込んでみると、

「ダッだから、気持ちが本物ってことだから。コッ、コンマ一秒負けても、それは死に至るんだから。実際、オッ俺は海外の本物の戦争のプロ、傭兵とも友達なんだよ、コッここの人たちは凄いよ。戦場で何人もの敵と実際に戦っているからね。あらゆる、闘いを想定してるからね。でもね、オッ俺が銃器とかナイフとか武器マニアだってことは、これはテレビでは言わないようにしてんだよ。ソッそれを言っちゃうとタレントイメージが悪くなってCMとか来なくなるからね」

 さっきからトンデモないことを言っているようでいて、こういうところは実に冷静に計算しているのだ。
 果たしてこの様々な荒行はタレントになる前からそういうことやってたのか?

「オッ俺はねぇ、タレントになる前は、山に入る時に、漫画みたいに、カッ片方の眉毛まで剃っていたこともあるからねぇ」とジモン。

 これは極真空手総裁、故・大山倍達が若かりし頃、山篭り際、娑婆っ気を抜くため簡単には下山出来ないように片方の眉を剃り上げ、異形の顔で修行したという有名なエピソードの再現なのである。

 ジモンの年齢は、博士と同じ歳、つまり同世代である。思春期に、かの梶原一騎原作、名作漫画『空手バカ一代』の洗礼を受けてきたのだ。
 しかし、本当に超人追求の夢を追い一人で山篭りの修行を何度も経験しているのと言うのだから、まさにバカそのものである。

 「オッ俺はバカだよ! なんでもバカになりきってトコトン出来るからね。あの『空手バカ一代』に描いてあったことや、単行本の『わが空手修行』とか、大山総裁の本に書いてあったことは一通りやってみたよ、ヤッ山篭りもやったし、自然石だって割ったし、十円玉を指で曲げるのも挑戦したよ!」
「えええっ! そこまでやったんですか? で、硬貨が曲がったんですか?」
「アッあのね、コッ硬貨を曲げることが出来るようになるには、指立て伏せをやり続けて、5本指立てから一本づつ減らしていって、最後に親指一本だけで指立て伏せが出来るようになるのが最低限の準備なんだよ!」
「ええええっ! ジモンさん、親指立て伏せが出来るんですか?」

 あの超人・大山総裁をして、修行の末にようやく体得したトレーニング法の一本指立て伏せをジモンは試していた。

「オオオ、おい! それだけじゃないよ。それから逆立ちしたまま2本指立て伏せが、自分の年齢の数まで出来るようになったら、ようやく『コインは曲がる!』ってオッ大山総裁は本に書いていたんだよ。オッ俺は、その本に書いてあった、腕立ての条件、出来るようになるまで6年かけて、毎日練習して全部クリアーしたけど……。ダッだけどね、ここが面白いところだけど、結局最終的に曲がらなかった……」
「えええっ、じゃあ、そこまでやって結局、十円玉、曲がらなかったんですか?」
「ソッそう!『事実は小説より奇なり』って、よく言うけど、そういうことなんだよ。いくらオッ俺が超人でも全部が自分の思い通りにいかないんだよ。真実はそういうことだよ、6年かけてトレーニングしてソッそれがわかったところが面白いよねええ」

珍しく謙虚な顔をしたジモンであった。

「ソッそういうことってあるよ。白人の力自慢がよくビールの王冠を二つに引きちぎったりするのって、マンガとかであるじゃない? あれも、オッ俺なら出来るはずだと思って挑戦したけど結局出来なかった。アッあれは指の皮が黄色人種じゃ薄すぎて出来ないんだよ。ジュッ純粋に人種的な問題なんだよ、知ってた?」

 こちらは当然、知る由もない。
「それに、オッ大山総裁は、他の誰よりも特別に握力が強かったらしいから、ああいうことも出来たんだろうね」
「それで10円玉も曲がったんですね」
「デッでも、確かに硬貨でも、ジュッ十円玉はダメだったけど一円玉は曲げたよ!」 
「……凄いですね」
「今振り返ると、オッ俺が、トレーニングで欠けてたことがあるんだよ。タッたぶん、ヨガの臍下(せいか)丹田(たんでん)の呼吸法を完全にマスター出来ていればジュッ十円玉でも曲がったな」
「じゃあ、あと一歩だったんですね」
「デッでも指立てで、指を一本、一本、鍛えてたから、最終的にテッ天井の桟に指だけで捕まることも出来るようになったよ」

 これまた『空手バカ一代』に出てくる〝小さな巨人〟極真空手出身の伝説のキックボクサー大沢昇の伝説的なエピソードの再現である。
 しかし、それはあまりに信じられない、と、我々の表情で察したのか。
「オッおい! おまえら、その目はウソだと思ってんだろう!」
「実際、やってもらえば信じますよ」
「アッあのね、今やれっていっても、すぐには出来ないよ、ボッ、ボクシングの世界戦でも、何ヶ月か調整するわけだろ、すぐには出来ないよ。わかった。ジャッじゃあ見てよ、この足!」
 とジモンは自ら靴下を脱ぎ棄てると、裸足になって、足の指をまるで類人猿のように異様なまでな屈折で曲げて見せた。
 「ナッな! わかるだろ! ここまで足の指だけを鍛えてる奴はいないよ。ホラホラ見て! こうやって手の指と同じように曲がるからね、このまま足で拳(こぶし)みたいに、ほら、こうやって握れるし、アッ足の指をこうやって絡めて鉄棒にぶら下がることも出来るからね。どう、こんなこと出来るの今まで見たことある? こんな奴はいないでしょ?」

 確かに。こんな足を見たことが無い。
 これは見事な実証だった。しかし一体、どこで、そんな技を使うことがあるのか?
「ヤッ山のなかで、木の枝に捕まったり、飛び移ったりするのに使うだろ!」
 それじゃあ本物の野生の猿ではないか!
「アッあのね、山って怖いんだよ、何があるかわからないからね、オッ俺、言っとくけど今まで山の中で4回、クッ熊と出くわしてるよ」
                        (つづく)

引用が長くなるので、今回は此処まで。
寺門ジモンの対動物戦はパート2で。


アサヤンVol.7 怪人・寺門ジモン一代記は5月24日まで視聴可能です。

https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/72285画像2


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