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【博士の備忘録】20年前、寺門ジモンかく語り記。Part2(21/5/12記)

 (パート1からつづく)

  2001年5月11日──。
  寺門ジモンはテレビ朝日の楽屋で、自身の最強論を大いに語っていた。

「ジッ、ジモンさん! マッ待ってください。クッ熊と闘ってるんですか?」

 長く話していると、俺たちにもジモン喋りが移ってくる。

「そう、ま、結果は4回とも、オッ俺の不戦勝だけどね」
「不戦勝? って、まさか死んだふりでもしたんですか?」
「それじゃあオッ俺の負けだよ! ちゃんと闘う姿勢を示さなきゃあ。あのね、クッ熊相手に、オッ俺が声をあげるだけで、相手のクッ熊の方が逃げだしたんだよ!」
「うん? つまりそれは獣が野生の本能、気配でこの人と闘っても負けるってことがわかるってことですか?」

「いや、違う! 『クッ熊に出くわしたら死んだふりをしろ』なんて迷信でね。クッ熊はね、体格の割には臆病なんだよ。だから人間と森のなかでばったりあったら、パニックになって襲い掛かってくるの。ダッだから人間も直撃する熊の力には体格的に負けるから、その前に雄叫びで思い切って威嚇すればいいんだよ! よく猛獣がガッガルルルルッツー、ガルルルルッツーって吼えるだろ。あれって威嚇だからね。威嚇されてビビるところを襲うわけ。オッ俺は、子供の頃にそれに気がついて山の中で野生に近づくため、いつも雄叫びやってんだよ」
「ジモンさんが、雄たけびするんですか?」
「そう! 考えてごらん、より強い種ほど雄叫びが大きいでしょ。トッ虎とかラッ、ライオンとか、気がつかない?」
「そそ、そ、そうなんですか?」
「じゃあ、ここで、今、叫んでごらん」
「ガルルルルッツー」
と俺たちも吼えてみた。
「ソッそんなもんでしょ普通の人は。鍛えてないし練習してないから。モッもっと相手の横隔膜に響かせるくらいじゃないとダッダメなんだよ! それじゃあ猛獣とは闘えないよ。じゃあいい? いくよ!」
 
 と言うと、ハーハーハーハーと独特の息吹きを始めた。
 ハーハーハーその間隔が短くなる。
 語尾が強くなり、十分、気を高めてから、今まで人間の口からは、聞いたことも無い声、いや雄叫びを絞り出した。

「ガッガガガルルルルッツーーーー!!
 ガルルルルッーーーーーーーーーッ!!」

 楽屋に、満月を見たオオカミ男か、はたまた、半狂乱のネオナチ・デスメタルバンドかといった、人間離れした声が渦巻き、超重低音の獣の咆哮が腹の底まで響いた。
「……どっからそんな声がでるんですか?」
目の前で人に吼えられた俺たちは、本当に一瞬すくみあがった。

 さすがに、ここまで真に迫った鳴き声を聞いたら動物声帯模写の故・江戸家猫八師匠も墓場で目を覚ますかもしれない。

「ダッだから、人間や草食動物は猛獣に吼えられるとビクッとするんだよ。あの声で腰が引けた一瞬がコッ攻撃のチャンスなんだよ。オッ横隔膜に響く猛獣の咆哮に負けないために、オッ俺は子供の頃、それに気がついて地元の能勢の山奥に入っている頃から、どれだけその恐怖を克服して大声で雄叫びをあげられるか、いつも練習してきたの。ダッだから、今は、横隔膜とか、声帯とか人間より野生のヤッ野獣により近くなってんだよ」
「わかった! そ、それで、ジモンさんの突っ込み。『オオオオ! オイ!』って言うのは、あんなに誰にも負けない大声なんですか?」
「オッオオオオ!オイ! やっとオッ俺の凄さがわかってきた?」
 ジモン、実に満足そうに頷いた。

 しかし、かつて猛獣との闘いをこれほど具体的に想定している芸能人がいたであろうか。
 ふぁ百獣の王、ムツゴロウを例外とすれば、過去にライオンに2度も襲われ〝エサ〟と仇名された松島トモ子以来であろう。
 こうなったら、身近な動物に対するジモンの強さの分析も聞いてみた。
「同じ動物でも犬はどうでした?」
「イッ犬はね、野犬のほうが強そうに思うでしょ?」
「野犬と闘ったことあるんですか?」
「あるよ! もちろん。でも、ヤッ野犬は栄養状態が良くないから痩せてて弱かった。オッ俺が自分で喉笛を手でカバーして、睨み付けながら、前傾姿勢で近づいてプレッシャーかけたら、奴は目をそらして逃げたからね。デッでも、その点、訓練された警察犬は違ったね。毎日厳しいトレーニングしているからパワーがある。ソッそれに目に自信があるんだよ。よく番組で警察犬と絡むけど、オッ俺も、つい本気になりそうな瞬間があるからねぇ。それだけオッ俺の本気を引き出してくるわけだから強いよ、シェパードは。特にドイツね、あの警察犬と、もし本気でオッ俺が戦うことになったら本当の殺し合いになってどっちかが死んじゃうどろうな。で、これは俺の理論なんだけど、『ツッパリは真面目な奴より本気で闘ったら弱い』に当てはまるんだよ。よく、ツッパリがケンカに強いから、闘いに向いているとか言うけど、ツッ、ツッパリはヤッ野犬と一緒。で、もっと、ちゃんと欠かさず真面目にトレーニングしている人は、いつでも大丈夫、警察犬と一緒なんだよ! ツッパリより絶対強くなる。だからオッ俺は強いんだよ。サッ三十年間、毎日、なッ鉛を飲むような辛いトレーニングを続けてるんだから」

「でも、やっぱり若い頃がピークで年をとるとハードなトレーニングは、体に毒になるんじゃないですか?」
「チッ違う! それはオッ俺の場合はあてはまらないね。やっぱり『オッ俺は30年間続けている』っていう欠けがいのない自信があるから。
そんな例は、セッ世界にだって何人もいないんだよ。つまりその時点で普通じゃない。統計外なわけだよ。だってオッ俺、今でも、70歳最強、70歳でピークに持っていくことを目指しているんだから」

 本気でここまで考えているのだ。

 しかし、考えてみれば多くの人には、もはや奇人を通り越し、狂人にしか見えないが、本人は「70歳最強」を信じ続ける思い込みがあるからこそ、日々の退屈なトレーニングを飽くことなく続けられるのだろう。
この自分への猛烈な妄信こそが誰にも辿り着くことのない境地である「最強」の源なのである。

「オッ俺のこういう話って、みんな信じてくれないけど、極真空手のマッ松井館長に話したら全部聞いてくれて分かってくれたんだよ。『ボクが今、ジモンさんと闘ったらもしかしたら負けるかもしれない』って言ってくれた。なぜオッ俺みたい芸人にそんなこと言ってくれるのかっていったらあの人が本物だからだよ! 『ボクはそういうのを認めます。今鍛えている、それが一番大事なんです。だからそれを続けて下さい。“70歳最強”ありえますね』ってマッ松井館長は言ってくれたんだよ」
 
 なんと極真空手の現・総裁で100年に1人の逸材と呼ばれた天才空手家の松井章圭館長をしてまで認めさせたらしいのだ。

 ここまでの超人追求をしているジモンに俺たちは、なおも質問攻めをする。
「熊以外には、ほかに、獣と闘っていないんですか?」
「アッあるよ。アフリカにさー、『世界の珍品料理』のロケで行ったんだよ!」
 アフリカ出身のゾマホンのようなノッキング・トークで、またも語り始めた。  
「で、ゲッ現地の野生の動物と闘ってみたよ。これは意外に思うかもしれないけど、カッカバは強いよ。カッ、カバがノロノロしていると思っているけど川底からジャンプするところ見たらわかるよ、大型動物は侮れないからね。サッ、サイも凄いんだよ。サッサイは直線的だからケニア人はジグザグに逃げたら逃げられるって言ってたけど、試したらそんなことない、ちゃんと追いかけてくるよ」
 ジモンの場合、サイでもカバでもラッコでもハムスターでも、動物に対する興味はただ一つヤツらの「戦闘能力」なのである。

「デッでもね、結局、ラッ、ライオンには負けるよ、オッ俺は5メートルの間近で見たからね。それ以上は近づけない。負けるよ、あれは。でも野生のラッ、ライオンにそこまで近づくことだけでも、オッ俺だから出来るんだよ、だってオッ俺が5メートル近づくまで、オッ俺は存在を気づかせなかったんだから。あの時、もし、オッ俺が風上に立たなかったから、匂いも相手が気がつかれなくて、ラッ、ライオンに喰われずにすんだんだよ。普段から徹底していてよかったよ、風上に立たないってことは、芸能界ってジャングルでもダッ大事な鉄則だから、サバイバルのためには覚えておいたほうがいいよ」

 まさに! 考えてみれば、ダチョウ倶楽部の芸能人としての立ち位置、スタンスまでもが、「風上に立たない」のである。

 それを証拠に93年10月、ダチョウ倶楽部は、初の冠番組『王道バラエティ・つかみはОK!』をTBSのゴールデンタイムでスタートさせた時も決して高視聴率を「つかむ」ことなく「立つ鳥跡を濁さず」、即座に黄金地帯から撤退し『熱湯コマーシャル』の番頭や、志村けんさんの番組のコント要員といった、決してリスクを負わない鳥獣保護区域に必ず舞い戻ってきた。

 和田アキ子やタモリ、さんま、たけしと言った芸能界生態系の〝百獣の王〟の前に、常にダチョウはその名の通り牙を隠した鳥類を装い、軍門に下り、服従の態度で簡単に腹を見せることで、この世界のサバイバーとして絶滅を避けてきたのだ。

 しかし、このダチョウの習性は、“逃げるが勝ち”なる兵法を思い起こさせはするが、「最強」の概念からは、程遠いのも事実。

 ジモンは、本当に「最強」と呼べるのか?
 ならば、いっそジモンに世間から「最強」と目された男、ヒクソン・グレイシーと、もし闘わば? と直撃する方が早い。

「モッもしヒッ、ヒクソンと戦ったら?……オッ俺が勝つでしょう。ナッなぜか? オッ俺は場所を選ばないから。ヒッ、ヒクソンとリングの上や畳の上で観客が見ている前で格闘技で闘ったらボクは確実に負けるよ。冷静に戦力を判断するから、オッ俺はその闘いはしない。サッ最終的にどちらが生き残っているかという闘いなら、勝つために、オッ俺は山に入る。山にヒッ、ヒクソンをつれていって長期戦にする。たぶん2ヶ月目には勝てるんじゃないかな。それをいつも意識して準備してるんだよ。デッでも勝負は時の運だから、ヤッ山で待ち伏せしている時に熊に出くわすかもしれないし、どうなるかわからないけど、オッ俺はその闘いの準備してるから、ヒッ、ヒクソンに勝てる!」

 なるほど、一理ある。

 まさにジモンの、脳内『バトルロワイヤル』である。もし、世界最強を自負する男たちの間で最後の一人になるまで殺し合いをさせる、BR(バトルロワイヤル)法が施行されたとしたら、最後に残るのは、この男なのかもしれない。
 だからこそ、ジモンの肉体に関するこだわりも、拳銃や兵器に関する興味も「最強」を目指すが故にルールさえ設定しないのである。     
「ジモンさん、そこまでノールールで設定するなら拳銃はともかく、もし、戦う相手が毒ガスを使ったらどうするんですか?」

 俺たちは聞いてみた。
 さすがにこの質問、この展開ならいくらなんでもギャグ、笑い話に流れていくだろう。
 しかしこれも、ジモンにとって愚問に過ぎなかった。
 ここでも、ジモンは待ってましたとばかりに、

「モッもちろん想定してるよ! ドッ毒ガス攻撃だって現代はありうるからね。オッ俺の車、知ってるだろ、ポッ、ポルシェ。なんなっだら、今、駐車場に行って見てきてごらん。トランクに湾岸戦争で使ったガッ、ガスマスクと同じものを今も積んでいるもん」

 と平然とした顔で語った。
 俺たちは、もはや言葉を失った。
 彼のポルシェのトランクは、平和を愛さない、ドラえもんのポケットと化していたのである。
「ソッそれだけじゃないよ! ダッ、ダッシュボードの中には、軍が使ってる攻撃光を放つ強力なフラッシュがあるんだよ。コッこの光を直視したら目がくらんで一時間ぐらい目が見えないからね。ソッそれでひるんだうちに逃げるの」
「それは逃げるが勝ちって事ですか?」
「チッち違うんだよ! 攻撃したっていいんだけど、攻撃して足がついたら過剰防衛でつかまるから逃げるの。ダッだから負けじゃないんだよ! ソッそれだけじゃないよ、ダッ、ダッシュボードには暗視カメラも入っているから!」
 
 パリ・ダカ仕様、ル・マン仕様、今まで様々に変化を遂げたポルシェだが、まさか日本で〝ジ・モン仕様〟にチューンされた一台があろうとは、かのポルシェ博士も驚いたであろう。
「サッ最近は、もう、小さい攻撃光は常に持ち歩くようにしてんだよ、ここに」
 と言って丁度、胸に巻いたポシェットを指差した。
「イッいつでも、攻撃光を取り出せるようにここに入れてんの。デッでも、このポッ、ポシェットも心臓側に巻いているでしょ、ギャッ逆じゃ意味がないから。いつ致命傷を負うか分からないからね、で、シッ心臓部には、鉄板とか文庫本とか入れるようにしてんだよ」
 段々、周りも、この一人自衛隊の軍拡振りに本格的に引いてきた。
「寺門さん、それだけ最強ならきっと下半身のほうも凄いんでしょ?」
話の流れを変えるのと、人の下半身に興味津々な俺たちはカマをかけて聞いてみた。
「うん凄いよ!」

 カマをかけても平気でそのハードルを越えた返事のジモン。これまた、どこまでも自信満々。
「ジッ実は、ヨガで、あそこも鍛えられるんだよ。ヨッ、ヨガの呼吸法を極めると自分で自由自在に普通は動かすことが出来ない不随意筋を動かすことが出来るようになるから、ポッポンプみたいにチンチンの先の鈴口から水を吸い上げることも出来るんだよ!」

 本当なんだろうか?

 そんな芸当が出来るならば全国のストリップ劇場で女性器を使った芸の「花電車」とパッケージで全国ドサまわりが可能だ。

「フッ普通に人は無理。これもヨッ、ヨガの本に書いてある通り、実際、しばらく練習してみたけど水は吸いあがらなかったなぁ、呼吸法がマスター出来ないんだよ、オッ俺、普通の人間とちょっと横隔膜とか内臓が違うから」

どういうバカな鍛錬なのだ!

 仮にこの芸をジモンが完成させとしても、芸人として発表する場もなかろう。
 しかも、そういう芸風が嫌だから、ダチョウ倶楽部から南部虎弾を追いだしたんじゃないのかとツッコミたくもなる。 

 しかし、ジモンの巨大な鼻を見ていると、どこぞの女性誌に書いてあった俗説だが「鼻のデカイ男はアソコもデカイ」の幻想がピタリと当てはまる。今度は、ジモンにアソコの大きさについて話を振ると。
「オッ大きさはそれほどでもないよ」
 珍しく謙遜しながらも、
「デッでも、前に番組収録中に女性霊媒師がオッ俺を見た途端にフラフラっと倒れて番組の収録止まっちゃったんだよォ」
「霊感番組ですか?」
「そう。スッスタッフが心配して『どうしたんですか?』って聞いたら、その霊媒師がオッ俺を指差して『あの人の股間に黒くて太い龍がとぐろを巻いて私をじっと狙っているのが見える。その龍はすごい強いから私の霊能力では勝てない。私は多分あの人にやられてしまうわ』って、その霊媒師が本番中、泡吹いて体中痙攣させて泣き出したからね」

 とこれまた真顔で語った。
 さっきの謙遜は何だったのか?
 なんと霊媒師がジモンの股間に対して悶絶し、いかなる呪文も通用しなかったというのだ。
 
 まさにジモンの股間は彼女にとって鬼門だったわけである。

 いつの間にか、本番の時間。
 2時間に渡って「自分最強説」を楽屋でここまで喋りとおしたジモン。
「オッ俺、この話はメンバーのなかでもテレビでするなって言われてるの。皆からホッ本気にされないし、オッおかしい人と思われるから。デッでも、キッ、キッドがここまで聞いてくれるか初めて話したよ。でもマニアックすぎてオッ面白くないでしょ」
「面白すぎますよ!!」
聞いていた芸人が、声を揃えた。

 「これだけ面白い話なら、もう本番もジモンさんの独演会で行きましょう!」
 と互いに示し合わせた。

 そして迎えた生放送の本番……。

 いくら廻りが話を振っても、肝心のジモンは沈黙。
 それどころか、
「いやいや、ソッそれほどのもんじゃないよ」
 と自分で否定までする始末。
 あのマシンガントークも発揮しないどころか、
「ホッ、ホントに強いかな オッ俺?」
 まさにジモンの自問自答を始めた。

 そして本番終了後──。
「ダッ駄目だったなぁー。オッ俺、ヒッ一人じゃだめなんだよ、ヤッやっぱ、3人じゃないと上手く喋れないんだよ」
と、言い訳するジモン。
「デッでも、オッ俺のトレーニング内容と実力がテッ敵に悟られなくて良かったよ!」
 と言い残した。

 果たして、これも「最強」であるがゆえの自衛手段の一つだったのだろうか。
 俺たちが発掘した「私情最強の男」──。
 寺門ジモン伝説は実証されることなく、このまま人知れず闇へ葬りされれるてしまうには惜しい。

 しかし、この日、一つだけハッキリしたことがある。

 「自称・最強の男」も「本番に弱い」のは間違いないのである。

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以上が今から20年前の話だ。
『お笑い男の星座2』からの引用である。

そして、20年後、寺門ジモンは何を語ったのかは、
こちらの配信番組を是非、見て欲しい!!

アサヤンVol.7 怪人・寺門ジモン一代記は5月24日まで視聴可能です。https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/72285  

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