20・5 YES!ユーキャン! やくみつる
「共演NGですよね?」
テレビに長年出演していて、よく腹を探られる〝忖度〟がある。
ボクの場合、この手の質問では、昔から天敵扱いされている爆笑問題、最近は生放送で降板騒動に巻き込んだ橋下徹、そして今回取り上げる、やくみつるの名前がやたらと挙がる。
聞かれるたびに不本意に思う。
何故なら、ボクは、奇人・変人・偏屈者は大好物であり、むしろ、そういう類はテレビに出没するモンスターとして網を構えて自らゲットに向かっているからだ。
やくみつる──。
1959年生まれの漫画家。デビュー当時はプロ野球を風刺する四コマ漫画の名手であったが、現在では博覧強記の平成のクイズ王としてのテレビ出演が定着。ゴールデンタイムの売れっ子だ。
昭和を知るものなら、彼が「平成のはらたいら」、「二代目はらたいら」を襲名しても良いほどの活躍ぶりだ。
それだけでもない。
ワイドショーの時事ネタのコメントでも定期的に物議を醸す火薬庫でもある。
そして、長年、年末恒例のユーキャン新語・流行語大賞で選考委員を務めていることでも知られている。
また、ボクが「カツラKGB」として申し添えれば「スヴェンソン」のヅラ着用を髪ングアウトしている、公表済みの実にレアな〝このハゲ!〟モンスターでもある。
また芸能人の「吸い殻」など、珍品グッズコレクターとしても名高いが、逆に我が家にはやくみつるのサイン入りグッズが溢れ返っている。
実は、クイズ・歴史好きの末っ子が小学1年生の時、初めて好きになった有名人がやくみつるだった。
「パパ、やくさんにサインもらってきて!」とせがまれ、共演するたびに、息子へのクイズを添えたサインと似顔絵が入ったフリップや台本を貰うほど懇意だったのだ。
そんな良好な関係を築いていたボクとやくが昨年、テレビ番組内で大論争を起こした。
経緯はこうだ。
2016年7月22日、『ポケモンGO』の配信が始まった途端、日本中でこの携帯用ゲームが大ブレーク。
スマホを片手に老いも若きも街中を徘徊する姿が散見され、社会問題になった。
7月25日、読売テレビ『ミヤネ屋』の生放送で、やくみつるは「愚かでしかない! こんなことに打ち興じてる人を心の底から侮蔑します!」とブームに水を差すと、案の定、ネットが大炎上した。
その炎上の延焼が続く2日後、7月27日、早朝。やくと共演しているテレビ東京『モーニングチャージ!』の本番前のロビーで、ボクは手ぐすねを引いて待っていた。
「やくさん、やりましたね! 久々の狙い通りの炎上、大バッシングじゃないですか?」
「……らしいねぇ。俺、ネットを読まないから、どこまでの騒ぎかよくわかってないけど……」
やくみつるは、現代では数少ない、スマホやネットに頼らないアナログ主義を貫いていた。
そして、生放送が始まった。
番組は『ポケモンGO』ブームの賛否両論を取り上げ、神社などでのプレイ禁止や鳥取砂丘でのゲーム解放区宣言など両論併記のVTRを紹介した。
スタジオに降りて大橋未歩アナに意見を求められると、ボクは毅然と
「我が家では思春期の中学生の長男と、ポケモンを通じてようやく会話ができるようになりましたよ」とコメント。
すると、やくは冷笑しながら、
「博士、末っ子のお子さんが歴史が好きなら、そういった芽を育ててあげることが親御さんの務めだと思いますがねぇ……」と苦言を呈する。
「余計なお世話だ! ゲームをきっかけに神社とかに行くようになって、そこで歴史に触れるようになることもあるよ!」
そして、敵意露わに睨みつけ、
「こんな風に物事を決めつけてコメンテーターとしてポジショントークしている人を、ボクは心の底から侮蔑します!!」と強く批判した。
その後は番組のエンディングでも
目も合わさず、怒りの形相で、「だいたい『ポケモン』のアニメを放送している、この局であんなこと言う、やくみつるはテレ東出入り禁止にすべきだ!」とまでボクが断言した。
喧嘩腰のまま生放送を終え、ネットを覗くと……それはかつてないほどの凄まじい炎上ぶりだった。
しかも、発言が切り取られた上、瞬く間に延焼に次ぐ延焼が続き、火の手が収まらなかった。
しかも、今までのパターンとは違って「よくぞ言った水道橋博士! やくは老害だ! やくを降ろせ!」と、ボクが正論正義側、やくみつるが完全に悪役ヒールであったのだ。
1日放っておいたが、あまりの拡散ぶり非難轟々ぶりに、流石にやくさんが気の毒になった。
その後、SNSを通じて、ボクは事の一部始終を書いた。
「やくさんと言い合いになったのはテレビ東京の朝の番組です。やくさんとは全部打ち合わせ済みでした」
舞台裏を全て晒して擁護したのだが、ネットは一度炎上すると、火の元の事情説明を拾ってくれない。
さらに、やくみつるの「ポケモンGOより昆虫採集の方がより素晴らしい!」という直言も「終日、部屋に閉じこもって漫画を書いている、おたくのくせに!」と世間から嘲笑を浴びたが……。
実のところ、やくは長年、昆虫採集の日本の権威として知られ、『オール讀物』の連載「やくみつるの秘境漫遊記」を10年がかりで書き続け、珍獣ハンター・イモトより危険な世界の秘境に毎年行っているリアル・ポケモントレーナーなのだ。
そして今だから明かすが……。
当時、この騒動が評判を呼び、広告会社から秘密裏に『ポケモン』のCMのプレゼン案があがった。
それはボクとやくが激しく論争をしながらも、最後はふたりがゲームをプレイして仲直りするという企画であった。
その展開は意表を突いて面白いし、高額なギャラを考えても、こんな美味しい話はない。
ボクは連絡をいただくと二つ返事で快諾したが、やくの返事は「自分の主義に反するからNO!」だった。
ここまで我と筋を通す、やくみつるの偏屈ぶりに、正直、シャッポを脱いだ。
さて、昨年末、新語・流行語大賞の選考委員会から鳥越俊太郎の名前が突如として消え、話題となった。
本人は都知事選に立候補した段階で「降りた」と言っているが、流行語大賞有力候補の「ゲス不倫」に託(かこ)つけて、自らの女性問題報道を勘ぐられるのを避けたからに違いないとボクは推測し、MXテレビの生放送で本人に疑惑を直撃した。
「違うよそれは!」と言いながら、オロオロと口籠る鳥越。
それはもはや〝鳥葬〟に等しい修羅場だった。
きっと鳥越は、ボクを今後、共演NGにしているに違いない。
さて、今年の同賞の展望であるが、「このハゲ!」が候補に選ばれることは、もはや確定的だ。
となれば新語・流行語大賞の選考委員を長く務めるやくみつるには、よもや2年連続選考委員が〝トンヅラ〟する事態は避けて頂き、選考会議に参加して、李下で冠を脱ぎ捨て、「このハゲ!」という今年〝ピカイチ〟の流行語を大賞に推挙してもらいたい。
あなたならきっと出来る!
Yes! ユーキャン!
【その後のはなし】
やくみつるには、もう一つ恩義がある。
かつて同じ事務所の後輩芸人であった、そして「改名王」でもある、元「ダイオウイカ夫」が、新たに殿から命名された新芸名「やくみつゆ」を襲名する際に、本人から直接快く承諾を得ているのだ。
いろいろとテレビ的には問題があるので正式には表記が「薬味つゆ」ではあるが……。
もはや彼が売れる気がまるでないのは間違いない。
さて2017年の新語流行語大賞は「インスタ映え」と「忖度」であった。
ちなみに「このハゲ!」はトップテンにすら入らなかった。
誰とは言わないが「インスタ映え」する独特の髪型をしている一部の審査員への「忖度」が働いたものと推定されるが……。
令和のクイズ王の冠を頭上に頂く、やくみつる氏には「ご明答!」とお答えいただきたい。
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