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職場における災害時のこころのケアマニュアル

前書き

事業場で災害や事件等に遭遇した労働者及びご家族への接し方、企業の対応に関する一般的な指針をしめすもの

トラウマティックストレス

  • 心的外傷を追うような精神的衝動を引き起こす出来事をさす

  • 本人や身近な誰かが危険にさらされるのと関連する

  • 例えば、戦争、テロ、強姦、身体的暴力、略奪、誘拐、監禁、拷問、大震災、噴火、死傷事件、交通事故、労働災害があげられる

  • 詳細はICD-11及びDSM5を参照

トラウマティックストレスによる病気といえる状態

以下は通常のストレスとは異なるトラウマティックストレスに関するものである

急性ストレス反応

  • 不安でソワソワする、心拍数が上がる、冷や汗をかく、逃げ出したくなる、おろおろする、不自然にはしゃぐなど

  • 急激な精神的・身体的負荷による状態はおよそ1か月以内で焼失するとされる

解離反応

  • いやな感情や苦しみを意識下においやるため気づかずに身体や精神症状を引き起こすこと

  • なぜかわからないのに声が出ない、立てない、赤ちゃん言葉で話し始める、意識がもうろうとするなど

死別反応

  • 抑うつと落ち込みの継続、自責の念、後追い自殺など

  • 数か月続くこともあるが一般的には自然に消失する

外傷後ストレス障害 (PTSD)

  • 1か月以上経過しても過覚醒が継続し、災害や事件の惨状が意に反して思い出されて再体験する状態をPTSDとよぶ

  • 一般的にはそれでも3か月以内に半数が回復するとされる

うつ病

  • 身体的疲労、精神的疲労、環境変化、睡眠不足が続くとうつ病発症の引き金になる

  • 自殺につながりうる

上記の状況は産業保健スタッフ並びに外部の専門機関を活用すべき状況である

トラウマティックストレスによる心身の反応

  • 一般的には1ヶ月間ほど感情や思考の揺り戻しが生じるのは一般的とされる

  • 継続するとストレス反応が疲憊期に至るため注意が必要

感情・思考の変化

  • 現実を受け入れられない

  • どうすればいいかわからない

  • 悲嘆、落ち込み

  • 感情のマヒ

  • 怒り、いら立ち

  • 感情の抑制困難による落涙、非現実的な自責

身体の変化

  • 不安・恐怖で眠れない

  • 頭痛、腹痛、のどの渇き、寒気、吐き気、湿疹、けいれん、めまい、嘔吐、胸の痛み、高血圧、動悸、筋肉の震え、歯ぎしり、視力低下、発汗、寝苦しさ

認知・感覚の変化

  • 方向感覚喪失

  • 注意集中困難

  • 過緊張・過覚醒

  • 決断力低下

  • 身構え、悪夢、災害や事件がよくの売りをよぎる

行動の変化

  • 睡眠障害

  • 食欲の変化 (減退・亢進)

  • 薬やアルコールへの依存

  • ひきこもり

被災者の回復のための心得

  • トラウマティックストレスに伴う心身反応は普通で一か月程度でおさまることを自覚する

  • 投げやりになったりやけを起こさない

  • しばらくは家族や仲間と過ごす

  • 食事・睡眠・休養は規則的に行う

  • 周囲や専門家にためらわず相談

  • 過度の飲酒を控える

  • 回復は波があることを理解する

被災者が専門家に相談する基準

  • トラウマティックストレスから一か月以上過ぎても気持ちが落ち着かない、何もやる気が起きない

  • 一か月以上経過しても事故の光景が何度も想起されて恐怖や不安に襲われる

  • 周囲への無関心・空虚な気持ちが継続している

  • 緊張・疲労感がいつまでもとれない

  • 悪夢が継続したり眠れない日が続く

  • 夢や映画の中にいるようで現実味がない

  • 些細なことでイライラしたり八つ当たりが続いて人間関係がこじれている

  • 死にたい

  • 過度の自責の念

  • アルコールやタバコの摂取量が増えた

  • 話を聞いてもらえない

子供の基準

  • 学校や幼稚園に行きたがらず家から離れない

  • 夜眠らない、突然おびえて飛び起きる、よくおねしょする

  • 親の気を引こうとしたり赤ちゃん返りする

  • いままでできていたことができなくなり親に甘える

  • すでに見られなかった癖が始まる

  • 様々な体の症状を訴える

  • 一人になるのを嫌がる

被災した人のケアのために周囲ができること

  • 休息をとってもらう。特に睡眠

  • 気持ちを吐露できる環境

  • それぞれの回復ペースを許容する

  • 解決できないことが多いので感情を共有する

  • 誰も責めない、自分も責めない

  • 回復を信じる

トラウマティックストレスへの事業場の対応

事業場

  1. 事業場としてケアに取り組む宣言

  2. 情報を開示して共有することで風説の流布や不安を防ぐ

  3. 活用する人的資源を整備する

  4. 危機管理チームを編成する (産業医または衛生管理者が中心となる)

  5. 危機管理チームで対応マニュアルを作成する

  6. 外部資源を活用し、事業場内資源と連携する

管理監督者

  1. 元気に見えても無理をしている可能性があるため休養には十分配慮する

  2. 部下の変化が気になったらためらわず産業保健スタッフに相談する

  3. あまり声をかけすぎずできる限り通常通り接してさりげない配慮にとどめる

産業保健スタッフ

  1. 情報共有、情報発信の責任をとる

  2. 相談窓口を統一する

  3. 外部資源と連携する

人事労務担当者

  1. 産業保健スタッフの評価に基づき管理監督者と適切に管理

  2. 職場や周囲のキャリアを保証する言質をあたえる

  3. 人事に関連する直接の相談窓口の設置

危機介入システムの例 (基盤)

  • リスクによる分類 (事業場内で産業保健スタッフが主体となり決定する)

  • 当然分類に非該当でも適切に行う

  • 低リスク者→情報提供・相談窓口の周知

  • 中リスク者→部内会議で災害や事件にかかる気持ちや家族への思いを話し合う機会の提供

  • ハイリスク→救援チームと合わせて気持ちの共有

危機介入システム (具体的に)

  1. ホットラインの設置

  2. 被災者への休暇の提供と専門カウンセラーや窓口紹介

  3. 被災者家族へは葬儀後にカウンセラーを紹介する、子育て・就職支援窓口、経済的援助相談が必要となる

  4. 従業員へホットラインや社内報による情報提供の周知が必要

  5. 管理監督者・人事労務者は、生産性低下を指摘せず心理的負担の緩和に努める必要がある。特にトラウマティックストレスは人により経過や長さにさはあるものの収まるまで一か月かかることを踏まえ、出勤抵抗を示す社員への仕事の方法を検討する必要がある

  6. 事業場外資源との連携 (CISM)


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