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【教師のウェルビーイング総レビュー】:Teacher well-being: A systematic review of the research literaturefrom the year 2000–2019

概要

近年、教師の健康に対する注が高まっており、さまざまな分野から多数の実証研究が行われている。本研究の目的は、教師のウェルビーイングを明確にし、知見を加え、予測因子と結果を体系化することである。2000年から2019年の間に出版された査読済み論文を対象にPRISMAを適用し、合計98の研究を最終分析対象とした。各あアプローチは、5つの異なる理論的基盤に分類された。実証的研究では、教師のウェルビーイングが危機にさらされていると証明できなかった。個人レベルまたは文脈レベルで一般的なカテゴリーと仕事関連のカテゴリーに分類される教師のウェルビーイングに関する予測因子の中で、社会的関係Social Relationshipsが極めて重要な役割を果たしていた。また、実証的証拠は乏しいが、教師のウェルビーイングが教育の質に影響を及ぼす可能性を示唆していた。

問題と目的

  • 教師のウェルビーイングは組織への関与と学校機能の安定につながる

  • 低いウェルビーイングは学校の改善と教育改革を妨害し、高いアブセンティーイズムをうむ

  • 本研究では、教師のウェルビーイングの概念を明確にし、発生率を同定し、潜在的に影響を及ぼす要因を系統的に明確にし、有効な介入の知識を増やすことを目的とする

教師のウェルビーイングの研究

  • ウェルビーイングの重要性は1946年にWHOによって提唱された

  • Diener (1984) が主観的ウェルビーイングを始めて研究した

  • Warr (1994) は従業員のウェルビーイングについて次の次元を提唱した:感情・願望・自律・能力・統合的機能

  • Baker & Oerlemans (2011) は、JDRモデルに従い階層的モデルを構築し、ポジティブなディメンジョン (ワークエンゲージメント・仕事の幸福感・仕事の満足度) とネガティブなディメンジョン (ワーカホリズム・バーンアウト) に分類した

  • Seligman (2012) のポジティブな感情、エンゲージメント、関係性、意味、達成というPERMAモデルもDiener (1984) に起源をもつ

  • しかしウェルビーイングの概念や構成要素は明確ではなく、むしろバーンアウトやワーカホリックと逆だとして定義するほうが明確になっている

  • このように研究が乏しい中で、学校でよい気分を感じている教師がいい教師だとする理論が根拠なく科学的に論じられているのは大変興味深い

  • 教師のウェルビーイングへの介入研究が根拠に乏しいまま行われている

先行するレビュー研究

  • この体系的レビューは、TWB の問題に関する実証研究に基づいて比較および総合することで、TWB 研究の包括的な理解を提供することを目的とする

  • 既存のアプローチの範囲を重視することを考慮して、TWB を 2 つ以上の次元のセットの中に少なくとも 1 つのプラスの要素を含む多次元の構成要素とする

  • また、バーンアウトではない、ストレスが低いことをウェルビーイングの定義としない

  • そこで以下のリサーチクエスチョンを設ける

  1. 教師のウェルビーイング研究の主な分野は何か、またその定義とTWBの運用化は、この概念の深い理解にどのように貢献しているか

  2. 教師のウェルビーイングが危険にさらされているという見解について実証的研究は何を示すか

  3. 実証的研究は教師のウェルビーイングの予測因子として何を示すか

  4. 教師のウェルビーイングの発展を目的としたプログラムの有効性は

  5. 教師のウェルビーイングの結果なにをもたらすか (アウトカム)

方法

  • PRISMAに従い文献を抽出

  • 除外基準に従い文献を削除

  • MAXQDAを用いて分析

結果

教師のウェルビーイングはat Riskなのか

  • 生徒との相互作用に関するウェルビーイングは、組織や仕事の負荷に関するウェルビーイングよりもよい

  • 少しの研究を除いて、教師のウェルビーイング得点が期待値よりも低いという根拠は見つけられず、中程度からよいウェルビーイングにあることが示されている

  • (以外な結論)

教師のウェルビーイングの予測因子

①客観的で一般的なもの

年齢、性別、既婚、宗教、民族などは結論が分かれる

②客観的で仕事に関連するもの

結論が分かれるもの:キャリア、学校、学年、学校での職位、教育歴

③客観的で仕事の文脈に関連するもの

ウェルビーイングを阻害する:都市部、物理的に悪い環境、経済的に悪い地域

④主観的で一般的なもの

  • ウェルビーイングを高める:一般的な健康、前向きな態度、レジリエンス、誠実な性格、コーピング

  • ウェルビーイングを阻害する:気に病む性格、

  • 結論が分かれる:外交的な性格

⑤主観的で仕事に関連する個人的なもの

  • ウェルビーイングを高める:有能感、組織への所属感、専門職の学習、意欲、挑戦的な仕事や要求、ポジティブな感情

  • ウェルビーイングを阻害する:仕事の負荷・仕事の要求、ネガティブな感情

⑥主観的で仕事に関連する文脈のもの

  • ウェルビーイングを高める:同僚との良い関係や支えあい、生徒との良い関係、支持的な環境、校長のサポート、学校の統一感、前向きな学校の風土、キャリア形成、保護者とのよい関係、社会的評価、

  • ウェルビーイングを阻害する:

  • 結論が分かれる:生徒の意欲

モデレータとメディエータ (主にモデレータ)

  • 年齢 (スキルがウェルビーイングを抑制する効果が、若年教師では認められるが高齢になると抑制しなくなる)(生徒との関係がウェルビーイングを高める効果が、若年教師では認められるが高齢の教師では影響がなくなる)

  • 小学校の教師 (生徒との関係がウェルビーイングを高める効果が、小学校の教師では認められるが中学高校ではみとめられなくなる)

⇒すなわち、小学校の教師は生徒との関係につよく影響を受けることになりストレス環境にあるものと考えられる

効果のある介入

ウェルビーイングの定義や介入方法・対象の多様性からいまだに明らかにならないリサーチクエスチョンといえる
以下に介入の例を示す

①Teacher effectiveness training (TEG; Gordon, 2003)

  • フィンランドの教師の社会感情的学習スキルを向上させるため、教室での自主性をサポートするというアイデアだけでなく、積極的な傾聴の実践と I メッセージの使用を促し、教師と生徒の相互作用介入したもの

  • 教室での実践に関連していたが、自己実現 (d = 0.55) と親との関係 (d = 0.74) という TWB のサブドメインに対して、中程度の効果がみとめられただけだった

②Autonomy-supportive intervention (ASIP; Ryan & Deci, 2000)

  • 自己決定理論に基づいて韓国の物理学の教員に対して実施された

  • ウェルビーイングは対照群より高かった (d=0.91-1.61)

③Achiever Resilience Curriculum (ARC; Cook et al., 2017)

  • ポジティブ心理学、認知行動療法、アクセプタンスアンドコミットメントセラピーに基づくアメリカの教師を対象とするレジリエンスに関する5週間の講義

  • ストレスが減少し (d=0.99)、事故効力感 (d=0.99)、仕事満足度 (d=1.24) が対照群よりも高かった

④European ENTREE (Fernandes et al., 2019)

  • ポルトガルの教師を対象にレジリエンス、関係構築、情動的ウェルビーイング、ストレスマネージメント、効果的な教育、教室のマネージメントに介入するもの

  • (そんなものあるの)

  • ポジティブな感情 (η2p = .216)、ウェルビーイングの上昇 (η2p = .228)、ネガティブな感情の低下が認められた (η2p = .252)

教師のウェルビーイングのアウトカム

結局、クロスセクショナルな研究のため、多くの要因がウェルビーイングの先行条件なのか結果なのかわからないというよくある結論だった


文献

  1. Cook, C. R., Miller, F. G., Fiat, A., Renshaw, T. L., Frye, M., Joseph, G., et al. (2017). Promoting secondary teacher’s well-being and intentions to implement evidence-based practices: Randomized evaluation of the ACHIEVER resilience curriculum. Psychology in the Schools, 54(1), 13–28.

  2. Fernandes, L., Peixoto, F., Gouveia, M. J., Silva, J. C., & Wosnitza, M. (2019). Fostering teachers’ resilience and well-being through professional learning: Effects from a training programme. The Australian Educational Researcher, 46(4), 681-698.

  3. Gordon, T. (2003). Teacher effectiveness training. New York, NY: Three Rivers Press.

  4. Hascher, T., & Waber, J. (2021). Teacher well-being: A systematic review of the research literature from the year 2000–2019. Educational research review, 34, 100411.

  5. Johnson, S., Cooper, C., Cartwright, S., Donald, I., Taylor, P., & Millet, C. (2005). The experience of work‐related stress across occupations. Journal of managerial psychology, 20(2), 178-187.

  6. Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American psychologist, 55(1), 68.


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