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異物が宝石へと変わる場所に

エリザベス女王国葬のとき、キャサリン皇太子妃が身に着けた四連真珠のネックレスが話題になった。あれはかつて天皇家の御用達ブランドだったことでも名高いミキモト製とのこと。

私は長らく、ぱちんこ業界団体がどうの組合の申し合わせがどうのと話題にしてきたが。ミキモト創業者である御木本幸吉は1932年(昭和7年)日本養殖真珠水産組合を設立し、初代組合長に就任している。

当時は財閥をはじめ横浜・横須賀などの外国人を中心に宝飾品の需要が高まっていて、これを機とみて応じた生産者側が供給量を増やしたり同業内で取引先争奪戦を繰り広げるなどした結果、真珠の品質が低下するという問題が発生した。

一定水準以上の品質を担保できないとなれば業の信用に関わるとして、彼は商工会議所の門前に低品質な真珠を集めて焼却するという措置をとり、これは当時大いに話題になった。

更に巷間を賑わせたのが、勧業博覧会に出品した宝飾品がごっそり盗難に遭った事件だ。

彼はすぐさま新聞社に駆け付けてこれらに懸賞金広告を出し、それと同時進行で博覧会の場に十分な展示品の補充を行い、そして幸いにも犯人が捕まったため盗品が戻ってきたので懸賞金をどうするかと話題になったところで、全額を公共事業に寄付し結果的には全てが宣伝として機能するという離れ業をやってのけている。

1937年(昭和12年)以降は日中戦争に突入し、西欧圏でも各国が陣営を成して第二次世界大戦が勃発した流れで、1940年(昭和15年)には奢侈品等製造販売制限規則が発布された。

これによって真珠も奢侈品と見なされたため、 真珠の生産・販売に関わるものは商売として成り立たなくなってしまった。実際、彼のものも含めて、沢山あった養殖場の多くがこの時期に閉鎖に陥っている。

同時期までのぱちんこ業界を見ていくと、1920年代前後から縁日の露店や港町などの仮設店舗で扱うようなかたちのパチンコが普及し、1930年代に入ってからは電動機能が付いたものが登場し愛知県でそれらを常設した遊技場施設営業が認可されたのを切っ掛けにして全国各地に広まっていく。

だがやはり、前述したように戦争の気配が色濃くなっていくに連れて娯楽産業への眼が厳しいものとなり、1932年(昭和7年)の満州事変の翌年にあたる1933年(昭和8年)に店舗数が多かった大阪で遊技場の取り締まり基準が厳格化し、1936年(昭和11年)のニ・ニ六事件から翌年の盧溝橋事件を契機とした日中戦争の流れで全国的に規制が掛かっていき、太平洋戦争が本格化した1942年(昭和17年)になって遂に、ぱちんこ営業は全面廃止の憂き目をみることとなる。

真珠産業もぱちんこ産業も当時の現場状況を詳しく知る者の多くは既に鬼籍に入っているため、産業史資料を紐解き伝聞に頼るなどして窺い知るしかないわけだが、巨大化した産業が社会の動乱と規制によって壊滅的な打撃を受けたという経験は共通しており、その状態から時代に合うかたちで復活して80~90年後のいまに至るというのは、ぱちんこ業界の端くれに居る者としても感慨を覚える。

このことは、双方ともに業の存続のために市井の営業者やメーカーが鋭意取り組んできたからというのはもちろん、業界団体・組合として行政・社会と向き合ってきたからに他ならないと推察する。

その一方で、産業に対する行政側のスタンスや社会の反応が当時といまとでは大きく異なっているのも看過できない問題といえる。

真珠産業のことについては現在進行形で状況を把握していないのでこれ以上は言及しかねるが、ぱちんこ業界側の者として感じることは、戦後「風俗」という大きな括りで管轄されていたものが個別化していること、IRの動きに呼応して依存問題対策と射幸性の抑制というチェック目線が強まったこと、セキュリティーとコンプライアンスの更なる向上を求められるようになったことなどが挙げられ、社会との関係性においてパチンコスロットに限らず娯楽産業全般が「こういう余暇の過ごし方・趣味嗜好も、あってもいいよね」という許容度がいくらか低下している。

その最たる事例が、新型コロナ感染拡大第1波時において「不要不急」という括りで麻雀やゲームセンターなども含めて非情なバッシングを受けたことだ。公職者さえも、数値・客観的事実に基かない業界批判を展開していた。

産業界全体としてだけでなく、特にホール営業の現場で働く従業員に対して、本来は非合法なはずの業種だ、そろそろ廃絶すべきではないか、どのような扱いを受けてもそれは自業自得などといった苛烈な言葉がSNSを中心に投げ掛けられたのは記憶に新しいところだ。

ここで、百歩も千歩も一万歩までも譲ったとして、そのようにどうしようもないと思われている産業界にあって、他業種も含めた広範囲から”こいつはデキる”と目されている人物や人格者なら”異物”ということになる。

私はぱちんこ業界で長くお世話になってきたため、こんなところに居るのは勿体ないだろう、他の様々な業種でも通用するだろうと”世間”の人たちからお節介にもそう言われるような人材がどんどん出てくるようにと願っている。

真珠というのは元々、自然環境でアコヤ貝などの内部に砂などが入り込んだり殻の一部が脱落して異物と見做されることで、これらから”本体”を守るために形成されるものだ。

見事な大きさに育った真珠は取り出されてしまうわけだが、ぱちんこ業界内で立派な社会人、ビジネスマン、施設・エリア管理者、事業責任者に育った人たちがこの業界を新時代に適応するかたちで牽引してくれればいいなと、そのように思う次第である。

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