自分の愛する場所を作ること
「自分がどれだけ愛する場所を作れるか、僕から言えるのはそれだけですね」
もう10年ほど前に、参加した写真のグループ展で、ギャラリーをされていたかたに、スタジオをやるか迷っていたとき、相談してもらった言葉です。
ずっとこの言葉が胸の中にあります。
その方は、ギャラリーのオーナーさんだったのですが、自分のものである場所というわけではなく、その後、そのギャラリーを離れられて、私が相談したのもそんなタイミングだったのかなと思いますが、いまとなってはもう思い出せません。
グループ展に参加したときは、私はまだ写真は趣味で、でも友達がとても褒めてくれるので、プロになりたいなと思っていました。
グループ展が終わって搬出して帰るとき、このかたが表まで見送ってくれて「ビックなことしてください」と、まだアマチュアでなにものでもない私に、きっちり頭を下げて送ってくださったこと。
そのとき振り返って見た景色が、ずっと写真のように脳裏にあります。
いま、私は自分のスタジオを運営しています。
運営といっても、私ひとりなので、予約が入れば撮影して写真を現像して納品し、撮影がないときはそこを事務所にして、仕事をしています。
予約がない日は、さびしいけれど、でも、いまも、このPCの向こうには、私の大切なスタジオがあります。
壁を塗って、床材を置いて、撮影に使う小物をひとつずつ選んで揃えたこのスタジオを、照れずに言うなら愛しています。
午前中は、窓からの光が白いカーテンに揺れて、その影が好きです。
先日、また手を加えて、壁にネジを新しく打って、オープンのとき友達が送ってくれたフラッグを飾れるようにしました。
(オーナーさんのご厚意で、内装は好きにしていいことになっています)
今日はこれから、ランドセルを持って、新一年生のご家族が撮影にきてくださるので、これからスタジオの灯りをつけて準備します。
天井のライトはこだわりでつけましたが、ベビーちゃんのときはキャッチライトがきらきらになるけれど、小学生だとまた違うので、今日はLEDのライトスタンドも使おうかな、と考えているところです。
スタンドを置かないのもこだわりだったのですが、機材ショップをしている友人が、スタンドとセットで、と、倉庫の引っ越しで処分するというLEDライトを安く譲ってくれて、使ってみたらいい感じだったのと、ばらしてしまうのがちょっとたいへんなので、危なくないように置いてあります。
スタジオをオープンしたら、うまくいっていなくても言わないほうがいいよ、うまくいっているような顔をしておいたほうがいいよ。
心配して言ってくれたのは、壁の色と床の色を一緒に決めてくれたデザイナーさん。
ペンキや道具のことも教えてくれて、ホームセンターに車まで出してくださり、買い出しにつきあってくださった。
いまだなんのお返しもできないままですが、きっと恩返ししますね。
このスタジオは、このあたりでやりたいなと思って探していたのではなく、完全にご縁で、オーナーさんから、「うち、ひと部屋空いてるんですが、どうですか?」と声をかけていただいたことから始まったもの。
内装は好きに変えていい、原状回復の必要はない。
「僕は投資する気持ちでいるんです」と言われた言葉も覚えています。
まだその投資に見合うだけのものをお返しできていないので、がんばらないと、と思います。
こうして書いていると、言葉でこのスタジオはできたんだな、と思います。
そろそろ、お客様を迎える準備です。
まだまだ私が至らないので、お客様は少ないですが、ひとくみずつ、心を込めてカメラを握ります。
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