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はじめて買ったCDは友人との思い出

CDは買うものではなかった。
といっても今みたいにスマホで聴ける時代より前のこと。中学生のわたしにとって、CDは借りるものだった。お小遣いを貯めてCDを買うなんて思いつかなかったし無理だった。お年玉でもらったお金は、わたしの手元にはなかった。
「CD買うからついて来て」
友人と近所のスーパーに入っているレコードショップで、よく分からない洋楽のCDを一緒に探すことがあった。万引すると思われていないか、不安をいつも感じていたから、CDは手に取らないようにしてた。それでもジャケットが気になって見つめていると、言われることがあった。
「買ったら?」
そんな高いもの、どうやったら買えるの?って、聞きたかった。

なんでだろう。
「〇〇のCD買った」「いいな〜貸して」「いいよ」
そんなやりとりをする人も多かったけど、わたしには言えなかった。せっかく買った自分のCDを、他人に貸したくないだろうと感じていたからかも知れない。断られたら嫌だったからかも知れない。

小学生の頃は、ラジオやテレビの音楽番組で流れる音を録音して楽しんでいた。
「今から録るから絶対静かにして」
家族にお願いして録音しても、ブラウン管テレビの前に置いたラジカセに録れる音は小さく、2つ同時押しする録音ボタンやリセットの音だけが大きかった。
小さなレンタルビデオショップなるものが近所にできて、ついにCDを借りる人生が始まった。薄暗い店内には所狭しとCDやビデオが並んでいて、独特のニオイがした。レンタルのCDには印刷された白黒の歌詞カードが付いていた。シングルCDでは歌詞カードは自分でケースから取るシステムだったから、無くなっていることも多かったけど、中学生になってからもCDを買うことはなかった。
塾や部活で友人が増えたが、一緒にいるのはだいたい、小学生の時からの友人数名だった。部活帰り、塾帰りに寄るスーパーでは、B’zが流れていた。そのお洒落な音や口説き文句に中学生女子の心は昂り、B’zについて話すようになった。
中間テスト前の学校からの帰り道、B’zが好きだと言う友人が「貸してあげる」とCDを持ってきてくれた。

まず、カセットテープを買いに行かないといけなかった。お母さんに頼んでも安いだけで短くて録音仕切れなかったら大変だし、見た目も良いテープが欲しかったから、ワゴンケースの中から吟味した。せっかく選んだカッコいい目のテープだったから、アルバム名や曲タイトルも気取った文字で書いた。
CDケースを開くと中には、CDと見たことのない、ブックレットというものが入っていた。
録音しながらブックレットを見た。
かっこいい写真、かっこいい文字。聴きとれない日本語の、その正体もそこにはあった。何度も何度も聴きながら歌った。

何日借りていたのか。
「テストが始まる前に返さないと」
学校に持って行こうとしてケースを見るとヒビが入っていた。しかも大きく、中央に。
わたしは母に頼んで新しい同じCDを買った。そうしてテストも終わる頃に友人にCDを返した。

#はじめて買ったCD

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