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将棋ペンクラブ大賞の、技術部門のこと

 
 棋書は星の数ほど出ていて、なぜたくさん出ているのかといえば、「この1冊だけ読めば必ず上達する!」というものがないからだ。絶対の上達本があればそれだけ読めばこと足りるので、これほど乱立していないはずだからだ。
 
 上達の必携本はないが、これだけ多いので、自分に相性が合う棋書は必ずある。その本に当たると、間違いなく棋力が上がる。気の合う友達の話がスッと頭に入っていくのと同じで、気の合う本は内容が頭にこびりつくからだ。
 
 気の合う棋書を見つけるには、そこそこの数を読まなければならない。気の合わない棋書を読んで、ちっとも頭に入っていかないなぁと苦しんだり、自分には簡単すぎてさらっと行き過ぎてしまうと思ったりして、合う棋書がより引き立つからだ。やっぱりこの1冊だよなと、気の合う棋書に強い愛着を感じるようになったら、さらに内容が脳にしっかり張り付く。
 
 将棋ペンクラブでは『将棋ペンクラブ大賞』の部門に『技術』があるが、研究に研究を重ねた高度な本ばかりを評価対象としないのが、上記の理由にもよる。好みの1冊として愛着を持てる本に、評価を与える。だからときにはエッセイ調のものや、コラム欄が優れたものも高評価となる。技術の内容でなく、1冊の本として選考するのだ。
 
 平成元年から始まった『将棋ペンクラブ大賞』も、正式に「技術部門」ができたのは第19回。それまで、注目を集めた技術書に賞を送ったことはあったが、エッセイや小説など一般の本と同じジャンルでの区分けだった。平成19年以降は、技術書数冊を最終選考委員が選考し、その中の1冊が「技術部門」としての大賞となる。
 
 1冊の本として選考するので、一口に技術といっても、内容は多岐にわたる。たとえば第24回「ゴキゲン中飛車の急所」(村山慈明)や第27回「角交換四間飛車を指しこなす本」(藤井毅)などのように、一つの戦法を突き詰めて研究するタイプもあれば、第26回「逃れ将棋」(森信雄)のような問題集タイプ、第31回「将棋・究極の勝ち方 入玉の極意」(杉本昌隆)のような、中終盤の勝負術を伝えるタイプと、それぞれだ。ぼく自身は、戦形の解説よりも一手ずつの問題集タイプの方が好きだ。でも詰め将棋はあんまり好きじゃない。
 
 今期は20の候補作の中から1次で5作に絞り、2次選考にあげている。1作は1つの戦形に特化した解説書だけど、あとの4作はカテゴライズがむずかしい棋書だ。
 
 前回記事では将棋番組の放送が多様化していると書いたが、棋書も多様化しているのかもしれない。大賞決定は1ヶ月半後です。
 
(上記画像は『将棋ペン倶楽部』誌最新号。表紙は会員の小川敦子さんの作品です)

書き物が好きな人間なので、リアクションはどれも捻ったお礼文ですが、本心は素直にうれしいです。具体的に頂き物がある「サポート」だけは真面目に書こうと思いましたが、すみません、やはり捻ってあります。でも本心は、心から感謝しています。