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ありがたい師匠の文章指南

 
 将棋ペンクラブ2次選考委員にして、長寿将棋ブログ『一公の将棋雑記』で有名な大沢一公氏。彼のブログに、またまた取り上げられた。
 
 それは6月20日エントリーのもので、『先を越された「詰め将棋へのある意見」』というタイトル。
 
 そのエントリーの後半部分を引用すると、
 

 先日A氏のブログを見たら、恐るべき記事が載っていた。それは「『詰め将棋』をめぐる師弟のやりとり」というタイトルで、要約すると、A氏は日ごろから「詰将棋に駒が余る問題があってもいいのではないか」「玉方を主役にした詰将棋があってもいいのではないか」と考えていて、その原稿を編集部(湯川博士氏)に持ち込んだ。だが「詰将棋のルールを変えてはいけない」という湯川氏の見解のもと、その原稿は自ら見送りとした。
 だがその数年後、森信雄七段の「逃れ将棋」が、将棋ペンクラブ大賞技術部門の大賞を獲ってしまった。A氏としては、かつて自分が欲していたテーマの詰将棋本が賞を獲り、それはそれでうれしかった。だがあろうことか、湯川氏がこの著書を絶賛していた。「師匠、それはねえだろう」というオチである。どうであろう。私の薄い主張がそっくり取り入れられているばかりか、A氏の文章のほうがよほど厚みがあり、明快なオチもついていて、面白い。
 惜しむらくは、持ち込み原稿が「将棋ペン倶楽部」に掲載されなかったことだ。A氏は、なまじ師匠に原稿を持ち込んだのがいけなかった。黙って編集部に送信してしまえばよかったのだ。
 だがそれでもし掲載されていたら、私のこの記事はなかった。

 
 このエントリーは、

 ぼくの6月13日の記事を題材に書かれたものだ。A氏とは、ぼくのこと。まぁ今回は流れもオチもうまく書けたが、総体的に見て大沢さんの文章の方が毎回うまくまとまっていて、面白い。
 
 この、実戦に即した詰め将棋を考案して原稿にし、湯川師匠に読んでもらったところ、ボツにされたというのは事実だ。大沢さんはこの原稿がボツになったことを残念がってくれたが、師匠にお伺いをたててボツになったり改稿させられたりしたことは1度や2度ではない。なので、ぼくの気持ちとしては、残念ではあるが、なんとなく間の抜けた師弟関係を楽しんでいる気持ちもある。
 
 もっと印象に残るところでは、ショートショートのオチを変えた顛末だ。
 ぼくはずっと前に「将棋ペン倶楽部」誌に将棋のショートショートを載せたことがある。縁台将棋を扱ったその作品では、ラスト部分で負けた方が盤面をぐしゃぐしゃとして、「もう一局!」と相手に言う場面があった。
 敗者がアツくなったところを描写したものだが、これに湯川師匠からストップがかかった。縁台将棋だろうが、盤と駒を雑に扱う場面を入れるのはどうか、という意見だった。
 その意見ももっともだと、ぼくは納得した。やはり活字になるのだから、押さえるポイントのひとつなのだろうと。そして、普通に終局して、「もう一局!」と敗者が言うカタチに書き換えた。書き換えたことで迫力は失われたが、でも原稿にOKは出て掲載された。
 
 
 そしてそれから間もなく、湯川師匠亭(邸ではない)で呑んでいるとき、恵子さんに、湯川師匠の将棋のことを聞いた。以前はかなりの指し手だったらしいが、我々の前ではまったく指したことがない。
 恵子さんのWikipediaには、夫に将棋を教わって上達、とある。女流アマ名人を5期獲った人に教えるとは、相当な腕に思える。
 
 その話の中で、どこかみんなが集まっているところで、夫婦で公開対局っぽいものをやった、というものを聞いた。大山永世名人のツアーだったか、三浦の将棋旅行だったかで。それで、恵子さんが勝ったということだった。
 問題はそのあとだ。師匠は投了を告げないで、ぐしゃぐしゃと盤面を崩してプイと立ち去ってしまったというのだ。ようは、アツくなってしまったみたいなのだ。それを聞いたぼくは、またやられた!と思った。あの原稿を変えなければよかった、と。
 まぁ、やるのと原稿に残すのとは違うよ、と言われるかもしれない。でも、こういった行為は褒められないよという言葉を真に受けて、一文や一言の密度が濃いショートショートの内容を変えてしまったのだ。また、師匠はぼくのこの部分を指摘するとき、「ホントの遊びならともかく、ある程度指してる人は、こういった行為はしないでしょ」と説明したのだ。「たしかにそうですね」と頷いた己がバカだった。
 
 こういったことが、多々、とまではいかないけど、けっこうある。そしてまた、こういったことがあるのも面白いじゃないかと、そこそこ楽しんでもいる。ネタにもなり、そのおかげで大沢さんにもブログで取りあげられてもらった。
 とにかく、偉大な師匠なのだ。

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将棋がスキ

書き物が好きな人間なので、リアクションはどれも捻ったお礼文ですが、本心は素直にうれしいです。具体的に頂き物がある「サポート」だけは真面目に書こうと思いましたが、すみません、やはり捻ってあります。でも本心は、心から感謝しています。