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最終盤の緊迫感を味わいたければ将棋番組を!

 
 今日noteを開いたら(noteだけに、開いたと書きたいところです^^)、おめでとうの表示が出た。
 すぐ消してしまったので詳しくは分からなかったが、募集中の『#将棋が好き』のお題でぼくが投稿した「駒より筆を選んだ女」が、先週最も読まれたか、あるいは「スキ」されたか、だったという意味の【おめでとう!】だったと思う。
 読んでいただき、「スキ」をつけてくれた人にはとても感謝しています。また、そういうお題を設定した『将棋ウォーズ』さんと『note』さんにも感謝です。ぼくは『将棋ウォーズ』で遊んではいないけど、将棋ペンクラブにはやっている人が多いので、あらためて彼らに継続して遊ぶようお願いしておきます。
 
 こういったお題があるとモチベーションが上がり、将棋に関する文章が増える。数が増えれば当然質も上がる。良質の文章が増えれば、万人に魅力が伝わりやすい。ぼくもコツコツと書いていこうと思う。
 
 それでもやはり、棋士のプレーが最も魅力を伝えやすいことには変わりがない。そしてその魅力だが、ぼくは、将棋に興味が薄い人に伝えるのに最もいい方法として、あの 秒読みの緊迫感 を広く見せるということだと思う。
 将棋は動きのない、スポーツに比べるとイマイチ視覚の点で見劣るものだが、終盤の秒読みの場面はスポーツ以上の緊迫感に包まれる。あの場面は、なによりも「普及」に役立つものだ。ぼくはそう思う。
 
 どんな競技だって、「最終盤の攻防」ほど手に汗握るものはない。それが逆転劇であっても、ギリギリの粘り勝ちであっても、接戦というものは、観る者の心を揺さぶる。「終盤の攻防」の前には、「圧勝」も「スター選手の活躍」も霞んでしまう。
 『ドカベン』で山田太郎が必ず9回にホームランを打つように、野球漫画では必ず最終回に動きがある。
 主人公がエースで、前半詳細に書いて後半あっさり流すなんて漫画はない。小説だって、ラストにヤマ場を入れる。
 
 漫画や小説のような作り物であれば、好きなように終盤を盛り上げられる。しかし実際の競技となるとそうはいかない。最終盤で大熱戦を繰り広げることは、むしろ稀だ。観ているものの望みとは逆に、競技者側からすれば、いかに終盤でリードを安定して継続させるかに長年腐心してきたからだ。
 野球は投手の分業が進み、後半で崩れにくくなった。盤石のクローザーは、そのチームのファンにとってはありがたいが、単に野球という競技を観ている者にとっては面白くない。いつも最終回を3人で終わらせられたら、単なる視聴者にとっては興ざめだ。どうせ今回も、となってしまう。
 守護神だって10回に1回くらいは崩れるが、単なる視聴者はそこまで食いつくように観続けてくれない。もうチョイ頻繁にドラマが起こってくれなければ、新たなファンは獲得できないのだ。
 
 サッカーも最後の数分は、リードしている側がボールを回してしまう。
 バックパスのときに負けてる側のフォワードが力ない走りでボールを奪いに行く、あの最終盤でのお決まりの場面。あれで単なる視聴者に盛り上がれと言ってもムリな話だ。
 かといって、面白みを出すためにリード側が追加点を狙いにいったら、ヘタをすれば造反行為にとらえられる。それで逆襲の同点弾でも食らってしまったら、メディアは追いついた方を褒めないで、「自爆」と書きたてる。
 時間をしのぎきれれば勝ち、という性質を持つスポーツでは、ドラマチックな展開が生まれにくいという「負」の性質を併せ持ってしまう。
 
 競馬はゴール前でドラマが起こるよう、ゴール前で上り坂を作った。先行馬の脚があがってしまうような工夫を凝らしたのだ。しかし競馬好きならみんな承知だが、国のやっている中央競馬以外の競馬場では、ほとんど先行逃げ切りだ。坂という人工的な紛れを作らなければ、リードしていた方が圧倒的に得になる。
 
 しかし将棋に関しては、毎回接戦を観せることが、ある程度可能だ。人為的に、最終盤のドラマを量産できる。「わぁ、あと2秒! 1秒!」と思わずこぶしを握り締めてしまう場面を毎回生み出せるのだ。
 
 まず、時間設定が自由ということが大きい。サッカーは90分で決まっているが、将棋は棋戦によって対局時間がまちまちだ。サッカーも、
「天皇杯はトーナメント方式で番狂わせが起こりやすいから、よりドラマチックな流れになるよう25分25分の50分にして、延長なしでいきなりPK戦にしましょう」
 などと大会によって変えられれば終盤の攻防を生むことができるが、90分で動かせられない。
 しかし将棋は、主催者が決めればいくらでも短くできる。短ければそれだけ間違える率も上がる。持ち時間が少なくてすぐ秒読みに突入するテレビ棋戦やabemaトーナメントなど、逆転するのがむしろ普通だ。
 
 また将棋は、野球のように終盤に盤石にする方策を打ち立てられない。最大の要因は、団体競技ではないということだ。
 攻めと受けを同時に考え、持ち駒も考慮しなければならない。人ひとりの脳で、数秒ですべてをひっくるめて考えて的確な答を出すということが、到底不可能な競技なのだ。
 「人はそこまで短時間で完璧に答を導き出せない」という人間の持つ一つの性質を利用すれば、逆転劇など漫画のようにいくらでも作り出せる。
 野球は分業制なうえ、選手の交代制限もないので、左打者の背中から入ってくるサウスポーのサイドスローひとり抱えておけば、逆転の種火は簡単に消せてしまう。もっともなかなかそういった芸術的な決め球を放れる投手がいないから、各球団が抑えに苦しんでいるのだが、少なくとも将棋よりも方法論はある。
 将棋には、方法論がない。大昔の棋士から現在活躍している棋士まで、「どうすれば終盤間違えないで指せるだろう」と悩まなかった棋士はいないのではないか。それくらい、(時間設定を短くしたときは)脳の限界を超えた競技だ。
 
 あの秒読みの緊迫した場面をもっと広く見せれば、ルールを知らない人にでも魅力をアピールできると思う。
 スター棋士が順当勝ちし、記録をニュースで流すことも一般へのアピールとなるが、スポーツに引けを取らない面白い競技だということも、伝わってほしいと思う。

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