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虔十公園林(2/2)

父:面白い資料を見つけたんだ。いまから50年前の国語の教科書に虔十公園林がのっていてね。

葉:へえ。

父:ここに先生が生徒をどのように指導するか?っていう方針が書いてある。指導要領というものね。

葉:指導要領はいまでもあるの?

父:あるよ。授業の進め方や、めあて、むすびなんかが書かれている。この時代の主題は「人間の幸福というものは、外見で測り知れるものではない。ひそかな自分の願いを満たそうと努めたものにのみ訪れるものである」なんだって。

葉:うんうん。

父:おとうはあれれ?と思ったんだ。外見うんぬんを言うなら、なんで差別のことに突っ込んでいかないのだろう?って。でも、ああ、そうか。昔のほうが差別が酷かったって思いだした。いまでは使われない言葉がたくさんあったからね。

葉:うん。知ってる。

父:それは獅子のようなエライ人が登場して「お前らの言葉は間違っている」と言ったからじゃなくって、世の中が成熟したから使われなくなったのだよ。

葉:大きくなったのね。

父:そう。それなのに差別はなくならない。獅子や人間の裁判長が「差別はやめなさい」と言ってもなくならないだろうね。

葉:獅子が事務所を解散しても、かま猫はどうしてもかまどで寝てしまうから、世の中のネコたちから「かま猫って汚いよね」って陰口を言われちゃうのね。

父:そう。そこなんだ。かま猫はかまどで寝てしまうネコなんだよね。

葉:うん。

父:そこを葉っぱは理解することができる?

葉:うん。だって皮が薄いんだもの。風邪ひいちゃうもの。「さあ、外で寝なさい」とは言えないね。

父:それがかま猫なんだから、しょうがないよねって認めることができるのは、とても大事なことだよね。虔十もそうだよ。何にも悪いことをしていないのに、人から小馬鹿にされてしまう。

葉:寅さんもそうだね。

父:そうそう。柴又のみなさんがささやいた悪口が、おばちゃんとさくらの耳に入ると泣きながら言うよね。「なんでバカにされなきゃいけないんだろうね」「お兄ちゃん、なんにも悪いことしていないのにね……」って。

葉:寅さんはなんにも悪いことをしていないものね。でもバカにされちゃう。

父:うん。寅さんのいいところを葉っぱはよく理解しているわけだ。そこがおとうはうれしい。山田洋次監督もうれしいと思うよ。

葉:ウフフ。

父:実際、あんな人が家族にいたら大変だろうけど!さあ核心に近づいたぞ。差別をなくするには?

葉:相手のことを理解する?

父:そう。大正解。理解しようと努力すること。いまの時代、本屋さんには隣の国のことを悪く書いた本がズラリと並んで売れているね。世界が小さくなってヒトが大きくなったのにね。まだまだそんな時代だ。

葉:おとうは悪口が大キライだものね。

父:葉っぱはそんな本に同調するかい?付和雷同だ。それともまわりに賛成する人が少なくっても「相手のことをもっと理解しよう」って努力する道を選ぶ?

葉:相手を理解する努力するほうを選ぶ。

父:ほんとか?

葉:うん。その前にね。たとえば中国のことなんだけど、テレビでサンゴを盗ったとか悪いひとつだけの情報を伝えるでしょ?それで中国は悪い国だ、法律を守ろうとしないって決めつけるのはヘンだと思うの。

父:おおお。おとうはビックリしたよ。

葉:ひとつの見方だけじゃなくって、四角い絵だと思ってよくみたら実は四角い箱だったってあるでしょ?全体から見ないとわからない。

父:ああ、もうおとうが言うことはありません。

葉:ウフフ。

父:賢治さんはみんなの幸せを真剣に考えていた。あの岩手の地で。すごい人だね。また岩手に行こうか。

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葉:うん!今度はカヌーで北上川の旅!!

父:よし。決まりだ。□

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これで第1回のブックトーク練習は終わりです。次回も賢治さんの作品を3冊選びました。慣れてきたら、本へのいざないを目的とした本来のブックトークに挑戦してみます。

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