狼森と笊森_盗人森_下ノ畑ニ居リマス

狼森と笊森、盗森(2/2)

父:この物語に出てくる人間、原始の人間とでもいうのかな?何をするにしても森におうかがいを立てるんだよね。

葉:「ここへ畑起こしてもいいかあ?」「いいぞお」だね。むかしは自然とそのようにつきあっていたっていたんだね。

父:そう。素朴で謙虚だよね。そして収穫のお供えをする。カミサマにおすそわけするんだ。これは日本人にとってとっても大事な行事だったんだよ。毎年11月23日におこなわれていた。

葉:11月23日?あれ?勤労感謝の日だね?

父:そう。むかしはそうじゃなかった。敗戦後にアメリカの指導であらためられた。それまでは新嘗祭という1年でもっとも大事な日だったんだよ。

葉:にいなめさい?へええ。

父:神官は天皇陛下だ。

葉:えええ!

父:それが天皇陛下の大事なお仕事なんだよ。ものすごく古いしきたりなんだよ。

葉:いまもしているの?

父:宮中でしているよ。僕たちの暮らしの中にも残っているよね。収穫祭に例大祭。直会(なおらい)をするでしょ?

葉:あっ、おじいちゃんたちがやっているね。おとうもおみこしを担いで、お米をそなえて、そのあとみんなで食べるんだよね。

父:そう。突然はじまったわけじゃない。むかしから続いているんだね。はじまりはこの物語に出てくる素朴な日本人の「ここへ畑起こしてもいいかあ?」「いいぞお」「ありがとー。お礼に食べてくださーい」じゃなかったのかな。

葉:そうかあ。この人たちはお供えを忘れてしまったから、いろいろめんどうなことがおきたのね?

父:そうそう。最初はなにがおきた?

葉:童(わらし)やどがいなくなった。それから農作業の道具がなくなって、最後にせっかく収穫した粟がなくなっていた!キレイさっぱり、一粒も!

父:そう。そのたびに人は?

葉:山に「誰か童やどしらないかあ」っていっせいに叫んで探しに行くの。

父:そのたびにちゃんと見つかるんだよね。

葉:そのあと粟餅を備えるんだよね。自然への感謝の気持ちを思い出すのね。ううん。思い出さされたんだね。

父:そして人はハッと大事なことに気がつくんだよね?これわかるかな?子供がいなくなったらどうなる?食べ物がなくなったらどうなる?

葉:その村は跡継ぎがいなくなって続かないね。農機具がなくなったら食べ物がつくれなくて生きていけない。粟がなくなったらもうオシマイ。

父:そうそう。自然にはどんな力があるだろう?人間なんてカンタンに?

葉:滅ぼしてしまうのね。自然にはそんなすごい力があることを人間は忘れてしまい、思い出すことを繰り返す。

父:それだ。忘れて思い出すを繰り返す。そして覚えているときは謙虚になる。おそれおののき謙虚になった人間はどうするか?山に向かって頭を下げるのですよ。

葉:フフフ。

父:そんな気持がカミサマを生み出したのか?カミサマが先にいらっしゃったのか?それを考えるとタマゴかニワトリかになっちゃうからよしておこう。最後に。なんで盗森の粟餅にだけ砂を混ぜたと思う?あれだけは人間も癪に障ったというか。

葉:人間のささやかな仕返しだよね。抵抗したのね。

父:そうだよね。人間は従順でいるわけではないぞと態度で示した。それが生きていくための自然との関わりあいだとね。ここは意味が深いよ。キレイごとや理想だけでは自然と付き合えないんだ。

葉:うん。

父:それから、大きな岩が言っていた最近粟餅が小さくなったと愚痴をこぼした理由を考えてみて。

葉:ええと。「時節がら小さくなった」って言っているね。うーん。。。たぶん凶作かな?

父:おおお!おみごと。他には?

葉:あ、最近、またあの教訓を忘れてきているっていうことだね。

父:そう。賢治さんが岩から聞いたのは100年前だとすると、100年後の僕たちはどうなんだろうね?

葉:今はもっと粟餅がけし粒みたいに小さくなっているんじゃない!そうしないとまた怒られるかもよお。

父:おおこわい。


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