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スギタヒロキ2ndアルバム「ろぼうのほし」セルフライナーノーツ

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2ndアルバム『ろぼうのほし』は2016年9月16日のリリース

ですね。24歳の頃。

『ろぼうのほし』の前に1stアルバム『素僕(そぼく)』というものがあるんですけど、自分にとって『素僕』はデモテープに近くて、この『ろぼうのほし』が“はじめてちゃんと作った自分のアルバム”という感覚です。

『ろぼうのほし』は知識も技術もなくて、表現したいことを形にできない未熟さが露骨に出ているんですけど、「どうしても自分のCDをつくりたい!」という思いを押し通して作りました。だから、自分にとっては「わがまま坊っちゃん」みたいなアルバムですね。

録音は、東静岡のライブハウスUMBERで当時スタッフをしていたフミくんの一人暮らしの家を借りてやりました。本当にフツーの部屋でしたけど、機材だけはある程度しっかりしたものを持ち込んで。

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編集も加工もなしの全曲1発録り

です。トータル300から400テイクは録ったかな。5日間みっちり朝から晩まで。録音しては聞き返し、「あーこっから崩れてるわー!」なんつっては録り直し。

フミくんもいいもの作ろうと頑張ってくれて、「今のもう一回演ろうよ」と言ってくれたり。『ストリートミュージシャン』という曲なんて6分もありますからね、録って聴くだけで15分近くかかるという。ああ、思い出してたらフミくんと語り合いたくなってきた(笑)。

今の感覚で聴き直すと、そうですねえ……クオリティ的には15点。でも「これが一番好き」と言ってくれる人もいて。このアルバムをきっかけに「静岡にスギタヒロキっていう面白いヤツがいる」と周囲も認識してくれたから、まあ良かったかなと思います。

歌はほとんどアルバム制作の直前にしていた一人旅の最中に思いついたことがモチーフになってます。「旅費はぜんぶ路上弾き語りで稼ぐ」をルールにした2か月の文無し旅行で静岡を出てから西日本を瀬戸内海側から進んで九州に行き、そこから中国地方をまわって静岡に帰ってきました。

カンピロバクターで死にかけたり、見知らぬ社長さんの家に泊めてもらって社員さん向けに歌を披露したりと(笑)、まあエピソードには事欠かない旅でしたねえ。

その旅についてはいずれまたどこかで。

「ろぼうのほし」全曲解説&視聴

1:あぁよかったな

そんな過酷な一人旅をしてると、「あぁ生きててよかった~」とか、「あん時ヤバかった~」みたいなことばかりなんですね。そんなところから「あれがあってよかった」「これはいらなかった」みたいなことが思い浮んで。

僕は完全に詞先の人間なので、そうして思い浮かんだあれこれを書きなぐっては、並べ替えたり削ったりする作業をノートでやって。最後にようやくギターを持ってパッとやった瞬間にはもう「あ、できた」みたいな感じでした。

3つのコードの繰り返しなんですけど、途中でコードストロークが変わったり、「ああ人間でよかった」のCメロがあるから単調に聞こえないのかなと思います。ライブだと1発目か最後に歌うことが多い定番の曲ですね。

2:君とファミレス

たまに「歌ってー!」とリクエストしてくれる方がいるんですけど、だいたい「いやだー!」と返してます(笑)。ただただ青臭い、おしりの蒙古斑みたいな歌です。だからもうリクエストは勘弁してください(笑)。

高校生のころ付き合ってた彼女がいて、その彼女はバイトをしてたんですが、僕はサッカーばかりしていてお金がないわけです。ファミレス行こうって誘われても「俺、金ないやー」って返したら、「いいよ、私出すから」とおごってくれて。

ちなみに歌に出てくるファミレスは「さわやか」です。僕は当時「さわやか」をまったく知らなくて、「さわやか?なんだそれ?」みたいな感じだったんです。普通「さわやか」といえば「げんこつハンバーグ」だと思うんですけど、僕はそれも知らないからメニューの値段だけ見て、ちょっと遠慮して「チキンステーキ」を注文して。

「こいつ、なんでさわやか来てハンバーグ食わねえんだよ?」みたいな不思議な顔を彼女はしてましたけど、「遠慮してるから…」とは言えず。そんな男の情けなさ、みじめさを歌ってます。

3:君の琴線はまだ遠い

これも旅行中、確か熊本にいるころに思ったことがベースになってます。当時、静岡に好きな子がいたんですけど、僕は熊本にいるから当然すぐ会えないわけで。「会いたいけど会えない、あ、遠距離恋愛ってこんな感じ?」と、勝手にその子と付き合っているかのような妄想を膨らませて。

名古屋の高架下でなんとなく形ができて、旅を終えてから完成した歌です。旅行中はこういう「思い」みたいなアイデアがいろいろと生まれてましたね。

『君とファミレス』と違って、こちらは今でもたまに歌いたくなる曲です。「みんな俺のこと、J-POPは聴かない、愛してるだの歌わねえヤツだと思ってるだろ?」と感じた時に、あえて歌いたくなるんです。「俺は19(ジューク)聴いてたぞ!実はJ-POPだぞ!」みたいな。そういうあまのじゃく的な衝動でたまに歌います。

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4:死んじゃった。

これも生々しいけど実話がベースです。僕は大学出たあと飲食店でバイトしてた時期があったんですけど、同じ店のバイトの子が、ある日交通事故で亡くなってしまったんです。しかも、お店の目の前の交差点で。

同僚の子たちはめちゃくちゃ悲しんで泣いていたんですけど、僕はその彼とはシフトが違うので、実は1度も会ったことがなくて。名前すらその時まで知らなかったんです。同僚から伝え聞く限り、男の子で、ちょっとひょうきんなヤツだったらしく、自分と似てるとこがあったのかなあって。

そこから「もし僕が彼みたいに死んでしまったとしたら、何を思うんだろう?」という想像が膨らみ、そんな歌を作ってみたくなったんです。みんなはすごく悲しいと思うけど、案外楽しいこともあって、でもどうしてもできないことが1つだけあって……という。

この曲の詞は迷うことなく一気にぐわーっと書けました。歌詞ができてギターを持ち、さあメロディだとなったら「Aメロ、あーこんな感じこんな感じ」「Bメロ、いいねいいね~」「次サビ。お、できた!」みたいな。びっくりするくらいスーっと完成しました。このアルバムでは一番時間が掛かってないですね。

歌詞の「女風呂」は当初「女子更衣室」だったんですけど、さすがに犯罪の匂いがするので変えて(笑)。のちに3rdアルバム『僕らの時代』でセルフカバーするんですけど、そこでも歌詞を少しアレンジしてます。でも、やっぱりこのバージョンが一番好きですね。みんなリクエストしてくれるので、ライブでは毎回のように歌ってる定番の曲です。

5:ストリートミュージシャン

歌っていることと、今の自分の間にギャップや嘘がない状態でありたいと思っているんです。そういう意味で『僕とファミレス』は精神的なギャップが大きくなりすぎて、今はもう歌えないんですよね。

でも、『ストリートミュージシャン』は、今もまさに僕の活動の中心となっている路上がテーマだし、おそらく10年後も同じように路上で歌っているので、きっとその時々の心境を反映しながら常に変わり続ける、一生完成することのない歌になるんだろうなと思います。

この時作ったのが最初のバージョンで、今ライブで歌っているのは4、5バージョン目ぐらい。Youtubeに上がっているのとも違いますね。当時の歌詞を振り返ると「この表現、今はしないな」っていうのが結構ありますね。軽率な一行とか、悩みに悩んだ末、適当に書いたような言葉も見受けられるなあ……。

コードが3つぐらいしかないし、言葉がまっすぐなので、自分の力量が試される、ある意味一番難しい歌だったりしますね。

どの歌もそうですけど、この歌は特に生で聞いた方が良いと思います。歌ってる場所の環境や雰囲気、そういうものも含めるととても伝わる曲なんじゃないかなと思っています。好きな人はすごく好きだと言ってくれる曲ですね。

アルバムジャケットは、静岡青葉通りの市役所前

で撮った写真です。工事現場のバリケードにさりげなく「スギタヒロキ」と合成してるんですけど、さり気なさ過ぎて気づいてない人いるんじゃないかな。

いやー、『ろぼうのほし』についてここまでじっくり振り返ることもないんで、懐かしいですよね。今でもライブでガンガン歌ってる曲もあるし、『ストリートミュージシャン』はその後何回も歌詞が変わってるから、このアルバムを聴き返すことはあまりないですけど、愛着や思い入れはとても強い作品です。

というわけで『ろぼうのほし』。よろしければぜひ聴いてみてくださいな。

(スギタヒロキ談)

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本記事で紹介した「ろぼうのほし」は、スギタヒロキOfficial Goods Shopにてご購入いただけます(外部サイトに遷移します)。

『ろぼうのほし』は、スギタヒロキOfficial SHOPにてご購入いただけます

また、スギタヒロキWebサイトでは、スギタヒロキの全アルバムをご視聴いただけます。ぜひご利用ください。

スギタヒロキ Official Webサイト

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