時計

私は、おじいさんと一緒に時を過ごした古時計です。100年働きましたが、とうとう止まってしまいました。おじいさんの心臓と一緒に眠るように止まってしまいました。大きなお屋敷から、おじいさんの棺は出て行き、私は、大きな庭の古びた小屋に移動されました。それから、どれくらい過ぎたでしょう。ずっと壁を見ています。壁を眺めていると落ち着きます。何も変化しないからです。人が老いぼれていく姿を見ることはありません。人は、いつか消えてしまいます。同じ小屋にテーブルがありました。その上に皿があり、食べ残したパンらしき物がありました。噛じられたのでしょうか。魚の形に見えます。しばらく、それを見ていると噛じられた跡から小人が出てきました。赤いヘルメットに、水色のつなぎの作業服です。小人たちは、城を作っていました。新しい城です。止まっていた私は、少し昔の記憶が蘇りました。笑い声、泣き声、走りまわる音。はしゃぎ声。

私は、小人に話かけました。

「私は壊れてしまいました。少しだけ動くようにしてもらえないだろうか」

そこに一匹の青い目をした黒猫がやってきて、小人たちに、小人たちの新しい城に飛びつこうとしています。

私は、動けません。

なぜか、深い悲しみと一緒に楽しかった記憶がどんどん、どんどん蘇ってきました。

そして、これから目の前で起こる災難に強い怒りの気持ちが涌き上がり、私は、

「ボーン」

と大声で泣きました。

チクタク、チクタク、

チクタク、チクタク、

はて?

先程の小屋ではないところで、私は動き出していました。


どこからか、今、産まれたばかりの男の子の産声が聞こえています。

※ナスカーチャさんの記事を読んでたらイメージできました。
これもオマージュですか?(笑)