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宇宙世紀原理主義者でしたがガンダムSEED Destinyを履修してみて:ここに「大人の女性」がいた

 私はガンダムが大好きです。去年は富野由悠季監督と対談させていただく栄にも浴しました。

 見始めたのはファーストガンダムの再放送から。Zガンダム、ガンダムZZは中学生として、F91は高校生、Vガンダムは大学生としてリアタイで見てました。しかしGガンダム、ガンダムWは飛ばし、ガンダムXは最初は見てなかったもののけっこう面白いと聞いて途中からリアタイ、ターンエーは社会人としてリアタイ視聴、SEED以降はユニコーン以外は見てなかったというのが私のガンダム略歴になります。

 ガンダムファンなら一目でわかると思いますが、ガンダムの中でも、「宇宙世紀」と呼ばれる、ファーストガンダムから継続する歴史を舞台とする作品のみを基本的に見る、「宇宙世紀原理主義者」ということでもあります。

 ただ、年末あたりから、ちょっと必要があって、「宇宙世紀」とは違う世界の、「アナザーガンダム」を見ています。まずは水星の魔女、続いてガンダム00、そしてガンダムSEEDと見て、最近ガンダムSEED Destinyを見終わりました。SEEDを見終わる前には劇場版のガンダムSEED FREEDOMも見ました。Destiny見る前だったので「デスティニー・プラン」が何のことだかわからず、もう一度見に行こうと思っていますが。

 今日は、いまさらながらということになりますがガンダムSEED Destinyの感想を。
 なんと言ってもガンダムSEEDと合わせると合計で約100話。第1話の時点で既に前に50話分のストーリーが書き込まれている上でのスタートで、しかもキラ・ヤマト、アスラン・ザラ、ラクス・クライン、カガリ・ユラ・アスハなど、前作の主要キャラクターのほとんどが引き続いて登場します。
 彼らは既に50話分かけて既に深く描き込まれたキャラクターであり、シン・アスカなどの新キャラクターを織り交ぜて、非常に完成度の高い群像劇が展開します。これだけの長さがある作品でなければ、アスランがいくつも抱える葛藤と、迷いが吹っ切れた彼の「強さ」を描き出すことはできなかったでしょう。「政治家」として歩き出すカガリの成長もまた然りです。
 ZガンダムとZZも合計で100話に達しますが、キャラクターの多くが入れ替わってしまっているし、ZZでコメディ調の時期があり、ストーリーとしての連続性が今ひとつなので、この点でSEEDに譲ります。

 ストーリーは、最終的に「デスティニー・プラン」を巡って展開します。これは、人間の遺伝子を解析することで、適切な役割を1人1人に割り当てようとするもの。そうすることで人は過度の欲望を持つことがなくなり、人類は戦争をやめることができる、という発想に基づく計画です。
 直接は説明されていませんが、仮に計画に従わない集団が出現した場合には「レクイエム」「ネオ・ジェネシス」という巨砲兵器を中核とする軍事力で制裁を加えるという二段構えの構想のようです。

 この「デスティニー・プラン」は、「戦争がない」という点でユートピア、「個人の自由と夢がない」という点でディストピアとしての社会を目指すということだといえます。
 アニメにおいて、こうした社会像は、これまでもしばしば描かれています。マクロスシリーズの「マクロスF」でギャラクシー船団のグループが、「マクロスデルタ」でロイド・ブレームが目指した、それぞれの個人を脳レベルで直接ネットワーク化して結びつけてしまう構想が似たようなユートピア的ディストピアですし、さらに遡って、「地球へ」でミューを排除しながら成立している社会も同様の構造を持っています。

 その意味でストーリー構成としてはオーソドックスなものと言えますが、そもそもガンダムSEEDシリーズの基盤に、遺伝子を調整された人類である「コーディネーター」の存在があることから、遺伝子をベースとしたユートピア的ディストピアの現実感が増しますし、これに対してコーディネーターであるキラ、アスラン、ラクスたちが戦いを挑んでいくことの大きな意味が生まれていきます。この戦いの意味は、さらに遺伝子操作を進めた「アコード」が出現するガンダムSEED FREEDOMにおいてさらに重く描かれていきます。

 個人的に、ガンダム SEED Destinyで強く印象に残ったのは、「ミネルバ」艦長のタリア・グラディス艦長でした。
 私は以前、文春ウェビナーで、「日本の(SF)アニメには『大人の女性』」が描かれることが少ない」と話したことがあります。それは日本のアニメが「少年が大人になる」成長物語であることが多く、女性は「少女」であるか「母」としてのキャラクターであることが多くなるからです。

 ところが、グラディス艦長は見事な「大人の女性」でした。
 「デスティニー・プラン」を推進したデュランダル議長との恋人としての過去、その過去と「デスティニー・プラン」との潜在的な関係性、そしてデュランダル議長を愛した女性として、同時にクローンとして父母を持たないレイ・ザ・バレルに対する母性として彼らとともに死を迎え、さらにデュランダル議長とは持つことのできなかった自分の子のことをライバルのマリュー・ラミウスに伝える最終回の姿には心を打たれました。
 あくまで男性目線なので、どれくらいキャラクターとしてのグラディス艦長のことを汲み取れたかはわかりません。しかし、これまで見たアニメの中で最も印象に残った女性キャラクターの1人であることは間違いありません。文春ウェビナーでは、「好きな大人の女性」を問う質問にシェリル・ノームと答えましたが、これから同じことを聞かれたらタリア・グラディスと答えるでしょう。

 まだ書きたいことはありますが、これくらいにしておきます。


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