令和6年度 京都大学法科大学院再現答案(公法系)



憲法

第1問(3枚弱)

1, 本件法律において、過去に性犯罪で有罪判決を受けた者は子供に接する業務に就くことができないとされている点が、性犯罪者の職業選択の自由及び職業遂行の自由(憲法22条1項)を侵害しないか。
(1)職業は個々人が自己の人格を形成発展に資するものである。そして、職業は国民の生活の基盤となるものであるため重要なものであるといえる。そして、この自由は性犯罪を犯した者であっても保障される。
 本件規制は過去に性犯罪によって有罪判決を受けた者は子供に接する業務に就くことができないというものである。子供に接する業務は学校に関わる事業の大半を占めていることから、学校に関わる業種全般に就くことが実質的に制限されている。
(2) この規制は公共の福祉によるものとして正当化されないか。
ア. 職業選択の自由の重要性や規制の程度を考えると、規制の目的が重要で、目的と手段が実質的に関連している場合にのみ公共の福祉に反しないといえ、規制が正当化される。
イ. 本件規制の目的…性犯罪から子供を守ること→重要。
 性犯罪を過去に犯したことのある者といってもその程度は軽微なものから悪質で反復性のあるものまで様々である。それにも関わらず、本件法律は性犯罪を過去に犯したことがある者を一律に規制している。また、法務省の調査によれば、性犯罪で有罪判決を受けた者のうち、5年以内に性犯罪を再び犯した者の割合は13.9%と低く、性犯罪を犯した者が全員再犯に及ぶわけではないことは明らか。
→過去に犯した性犯罪が悪質な者や再犯傾向の高い者にのみ本件規制を課すという、より制限的でないほかの手段が存在するため、目的と手段の実質的関連性は認められない。
(3)以上より、本件法律は公共の福祉によって正当化されることはなく、違憲。

2, 本件法律において、子供に関わる業務の求職者が、自らこども家庭庁に照会して性犯罪歴のないことを証明する書類を取得し、求職先に提出しなければならないとされていることや、その情報が20年間登録されることはプライバシー権(憲法13条)を侵害しないか。
(1)憲法13条の保障するプライバシー権には、自己の犯罪歴をみだりに開示されないという自由も含まれる。そして、その射程は情報の取得・利用・保管の全過程に及ぶ。
(2)本件法律によると、子供に関わる職業に就くことを希望する者は性犯罪歴のないことを証明する書類を提出する必要がある。また、性犯罪歴データベースが設置され、有罪判決を受けた者に関する情報が20年間登録される。
(3) これらの規制の態様や、取得利用開示される情報が過去の性犯罪歴という非常にセンシティブなプライバシー固有情報に該当することから、規制の目的が重要で、目的と手段が実質的に関連している場合にのみ規制が正当化される。
ア. 本件法律によって性犯罪歴のないことを証明する書類の提出を義務付けているのは、過去に性犯罪により有罪判決を受けたことがある者を採用しないという本件法律の施策を実行的にするためであると考えられる。したがって、本件規制の目的は子供を性犯罪から守ることにあると考えられ、目的は重要である。
イ. しかし、刑の言渡しの効力は原則として10年で消滅することを考えると、性犯罪に関する情報が20年という長期の間登録されるというのは過度である。したがって、登録期間を短くするといった方法によってプライバシー権に対する制約を減少させることができ、より制限的でない別の手段があるといえるため、目的と手段の関連性が認められない。
ウ. 本件法律はプライバシー権を侵害し、違憲。

感想:私的には解きやすかったです。職業選択の自由と平等原則違反で書いたという人もいて、たしかに…!となりました。どちらにせよプライバシー侵害についてはどこかで一定程度触れたほうが良い気がします。

第2問(3枚)


1, 事件1について
(1)法律上の争訟とは、司法権の主体たる裁判所が行為のうち、法律を適用することで権利義務を確定させることができるものをいう。
(2)団体内部の紛争に関しては、それが一般市民法秩序に関連しない限り、法律上の争訟とはならないとする考え方を部分社会の法理という。 
 訴えAは国会という団体内部の紛争であるが、甲の議員歳費の支払いを求めるものである。議員歳費は議員の生活の基盤となるものであり、一般市民法秩序に関連するため、法律上の争訟といえる。
(3)では、統治行為論により裁判所が違憲審査を行うことはできないといえないか。
 高度に政治的な事項については、内在的制約として、裁判所は司法審査を行うことができないという考え方を統治行為論という。
 訴えAは、内閣が憲法7条により衆議院を解散したことの是非を争うものである。これについては、高度に政治的なものであるといえる。したがって、裁判所はこの内容について違憲審査を行うことができないと考える。
(4)また、訴えAは議会の自律権の観点からも問題とならないか。
ア. 国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である(憲法41条)。そして、権力分立の観点から、議会はほかの機関から独立して意思決定を行うことができる。
イ. 訴えAについて裁判所が違憲審査をできるとすると、裁判所が国会の行為に介入することになり、議会の自律権との関係でも問題があると考える。
(4)以上のことから、裁判所は訴えAについて司法審査を行うことができない。

2, 事件2について
(1)訴えBにおいて乙は、内閣が臨時会の招集決定を行わなかったことが違憲であり、それにより国会議員としての権利を行使することができなかったとして、損害賠償を求めている。これは、事件1の議員歳費の支払いと異なり、一般市民法秩序に関連するものではないと考える。したがって、部分社会の法理により、法律上の争訟に該当しない。
(2)次に、統治行為論について検討する。訴えBが提起された後の10月20日に内閣は臨時会を招集することを決定している。したがって、裁判所は10月20日に臨時会が招集されたため甲が国会議員としての権利を行使する機会が与えられたといえるか、それとも甲が10日20日よりも前に権利行使を行うことに意味があり、10月20日に召集されてもなお損害が生じているかを審理する必要がある。
 この審理は国会の実際の審議内容に深く介入して判断することが必要となり、高度に政治的なものとなる可能性が高い。したがって、統治行為論から、訴えBについて裁判所が違憲審査をすることはできない。
(3)また、実際の審理の内容について判断することは裁判所が司法権の範囲を超え、行政や立法作用に介入することとなるため、三権分立の観点からも適当でないと考える。
(4)以上より、訴えBは法律上の争訟と言えず、裁判所は違憲審査を行うことができない。

感想:法律上の争訟の定義を覚えたはずなのに、本番でど忘れしてしまい、正確に書けませんでした。
 部分社会の法理・統治行為論、議会の自律権をメインに書きましたが、それぞれの関係がよくわかっておらず、法律上の争訟に該当するか否かの判断と違憲審査を行うことができるか否かの判断のどこでどれを書けば良いのか混乱しました。統治はほぼ過去問でしか対策していなかったのですが、もう少しやっておくべきでした…。


行政法

問1
1, ①の時点で、Cが指定候補者に選定されるためには、ABの選定の取消訴訟(行訴法3条2項)と指定の義務付け訴訟(行訴法3条6項2号)を併合提起(行訴法37条の3第3項2号)することが考えられる。
(1)取消訴訟の訴訟要件…①処分性、②原告適格、③訴えの利益。処分性は認められる。原告適格も競願事例だからok。訴えの利益もある。
(2)仮の義務付けを主張することも考えられる。
ア. 仮の義務付けの要件…㋐義務付けの訴えの提起があった場合において、㋑その義務付けの訴えに係る処分がされないことにより償うことができない損害が生じていること、㋒その損害を避けるための緊急の必要があること、㋓本案について理由があると見えること
イ. 本件では、Cは義務付け訴訟を提起し(㋐充足)、Cを指定管理者に指定するという処分がなされなければCは指定管理者として活動することができない。これは金銭で償うことのできない損害であるといえる(㋑充足)。そして、この損害を償うために緊急の必要がある(㋒充足)。
(3)違法事由について、本件においてY市がCに対して送付した文書は理由提示が不十分であるといえないか。
ア. 本件ではY市行政手続条例が定められているため、行政手続法は適用除外(行手法3条3項)。
 Y市行政手続条例9条→理由提示をする必要
 理由提示の趣旨…行政の恣意抑制&不服申し立ての便宜
イ. 本件では、AとBが指定管理者に選定された理由のみを記載した文書を提出しているものの、Cが選定されなかった理由は記載されておらず、Y市公の施設の指定管理者の指定の手続等に関する条例4条のどの基準をどう適用したのかも明示されていない。
→理由提示が不十分、取消事由となる
(4)また、条例4条は選定について市長に裁量を与えた規定と考えることができるところ、Cを選定しなかったことは裁量の逸脱濫用であると主張することが考えられる。
 条例4条の規定内容は合理的
→市長がABを選定しCを選定しなかったことにつき、比例原則違反や平等原則違反がある場合や、考慮すべき事項を考慮していない場合、考慮すべきでない事項を考慮した場合に裁量の逸脱・濫用があり、違法事由となる。

問2
1, ②の時点で、Bが提起した取消訴訟の係属中に指定期間が満了した場合、訴えの利益があるといえるかが問題となる。
(1)本件では、Bは指定取消処分に対する取消訴訟を提起しており、その後に指定期間が満了しているため、指定取消処分を取り消したとしても、Bは指定管理者として活動することができず、訴えの利益がないといえる。
(2)この場合、Bは指定取消訴訟を指定取消しによって被った損害の賠償を求める損害賠償請求に変更することができる。
ア. 行訴法21条1項
イ. 指定取消処分の取消訴訟と指定取消しによって被った損害の賠償請求は、どちらも指定取消しの適法性を争うという点で請求の基礎が同一であるといえる。したがって、Bが指定取消しによる損害の賠償請求に訴えを変更した場合には、訴えは却下されない。

感想:時間がなかったのと、問いの書き方的に訴訟要件の検討がいるのかわからずかなり雑に書いてしまったのを反省しています(特に、原告適格の部分)。問2は訴えの利益の判例等の知識をど忘れしてしまい意味不明論述をしてしまいました。反省反省…


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