令和6年 神戸大学法科大学院 再現答案(憲法・刑法)

再現を書くのに疲れてきて規範のところなど省略してるところもあります。ご了承ください


憲法(第1問)

1, 外国人に対する生活保護を法律上の権利としてではなく、一方的な行政措置として行っている現在の状況は、憲法25条1項の保障する生存権に反していると考える。
(1)憲法25条1項。生活保護法は生存権を具体化した法律であるため、生活保護法は生存権の趣旨に従って解釈される必要がある。生活保護法1条は「国が生活に困窮するすべての国民に対し、…必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」としている。そして生活保護法2条によると、「国民」に該当する限り、すべての者は無差別平等に保護を受けることができる。
(2)ここにいう「国民」に外国人が含まれるのかが問題となるところ、憲法上の権利は、権利の性質上、日本国民のみを対象としているもの以外は外国人以外にも保障される(マクリーン事件判決)。したがって、外国人が国家公務員に就任する場合など、国の中核にかかわるような政治的意味を持つ行為のような場合を除き、外国人にも日本人と同様の権利が保障される。
(3)本件のような生活保護を受ける権利は権利の性質上日本国民のみを対象としているものとは解されず、外国人に対しても平等に生活保護を受給する権利を法的に保障されるべきである。しかし、現状はそれがなされておらず、一方的な行政措置にとどまっている。これは合理的な理由のない取り扱いであり、憲法25条1項の保障する無差別平等の原則に反する。
2, もっとも、反論として、地方公共団体が財政難で、外国人にも同等の生活保護をすることができない場合もありうるため、一方的な措置として保障すれば足りるという考え方がありうる。
 しかし、外国人も生存権が保障される以上、憲法25条1項や生活保護法の基本理念である無差別平等の原則が日本人と同様に妥当する。したがって、財源がないという理由で外国人に対する給付を拒否するというのは無差別平等の原則に反する。
 また、外国人も日本人と同様に税を納めているのであるから、やはり日本人と同等の地位を与えるべきであると考える。
3, また、実際には外国人に対しても生活保護を行っているのであるから、それで足りるという考え方もありうる。
 しかし、外国人については保護申請が却下された場合の不服申し立てが認められていない。不服申し立てが認められていないと、行政側が恣意的な運用を行う可能性があり、それを是正することができないため、不十分である。
4, 以上のことから、生活保護の受給権を法的権利として外国人に保障していないのは、生存権に反する。

刑法

(第2問)

〔設問1〕
(1)正当防衛(刑法36条1項)の成立要件は、①急迫不正の侵害に対し、②自己または他人の権利を防衛するため、③やむをえずにした行為であることである。
(2)①の急迫不正の侵害とは、侵害が現に存在していることを言う。そして、防衛行為者が侵害を招致した場合であっても、避けようとした害が先行行為によって生じた害よりも大きい場合には、急迫性が認められる。
 ②について、専ら攻撃の意思をもってした行為でなければ、攻撃の意思があったとしても「防衛するため」といえる。そして、③の「やむを得ずにした行為」とは、必要性と相当性によって判断される。相当性とは、防衛行為の手段が侵害行為の手段よりも過剰でないこと、つまり体格や凶器等を考慮して武器対等といえることである。
(3)本件では、甲がA宅に侵入し、突き飛ばすという急迫不正の侵害が発生している(①充足)。それに対してAは自身の生命・身体を防衛する意思で包丁を持ち出して「近づいたら刺すぞ」と述べて甲に向かって構えている。これは防衛のための行為であるといえる(②充足)。しかし、甲の両手で突き飛ばすという行為に対して、Aは非常に殺傷能力の高い包丁を持ち出し甲に向かって構えているため、防衛行為が侵害行為よりも過剰であり、「やむを得ずにした行為」とはいえない(③不充足)。
(4)よって、Aの行為について過剰防衛(刑法36条2項)が成立するにとどまり、刑が任意的に減免される。

〔設問2〕
1, 甲がAを包丁で刺した行為につき、殺人未遂罪(刑法199条、203条)が成立しないか。
(1)殺人罪の構成要件は、①殺人行為、②死亡結果、③①と②の因果関係、④故意である。
(2)本件では、甲がAを「死んでもやむを得ない」と思いながら包丁で刺しているが、死亡結果は発生しなかった。したがって、未遂犯(刑法43条)の成否が問題となる。
ア. 未遂犯が成立するためには、実行の着手が必要である。実行の着手が認められるのは、㋐実行行為に密接な行為、㋑既遂に至る客観的危険性が存在する場合である。
イ. 本件では、甲はAを包丁という殺傷能力の非常に高い凶器で刺しており、これは殺人行為に密接な行為であるといえる(㋐充足)。そして、腹部という身体の中枢部分を刺していることから、Aが死亡する客観的な危険性があったといえる(㋑充足)。
ウ. したがって、甲の行為は未遂犯の成立要件を満たす。
(3)ここで、甲の行為はAが包丁を甲に構えたことに対する防衛行為であるとして正当防衛により違法性が阻却されないか。
ア. 正当防衛の要件は、設問1(1)の通りである。
イ. 本件ではAの行為が甲の突き飛ばし行為により発生しているため自招侵害により急迫性が認められないのではないかという点が問題となる。甲が避けようとしたのはAが包丁により自身の生命・身体を害することであり、Aの先行行為は甲を両手で突き飛ばした行為であり、避けようとした害が先行行為によって生じた害よりも大きいといえる。したがって、急迫性が認められる(㋐充足)。
ウ. 次に、防衛の意思について、甲は「死んでもやむを得ない」と思っているものの、専ら攻撃の意思のみによってAを刺したのではなく、Aの攻撃から自身を守るという意思も認められるため、防衛の意思が認められる(㋑充足)。
エ. 次に、「やむを得ずにした行為」といえるかについて検討する。甲がAよりも体格面で優れていたことや、Aが包丁を甲に向かって構えただけなのに対し甲はAの腹部に突き刺していることを考えると、武器対等とは言えず、相当性が認められないと考える。したがって、㋒を満たさない。
(4)以上より、甲には正当防衛は成立せず、違法性が阻却されない。よって、殺人未遂罪が成立し、過剰防衛によって刑が任意的に減免される。

〔設問3〕
1, 甲がA宅に放火をして火災保険金を得る目的でこれを遂げなかったことにつき、保険会社に対する詐欺未遂罪(刑法246条1項、250条)が成立しないか。
(1)詐欺罪の構成要件は、①欺罔行為、②それによって錯誤に陥ったこと、③錯誤に基づく交付行為、④財産上の損害、⑤故意、⑥不法領得の意思である。
(2)本件ではA宅に対する放火行為を行っておらず、保険金の請求も行っていない。したがって、未遂犯の成否が問題となる。
ア. まず、甲は放火をしようと乙と協力して、乙がAの食後のお茶に睡眠薬を混ぜ、甲はガソリンタンクを持参してA宅に侵入している。これは実行行為に密接な行為といえる。しかし、実際にはAは睡眠薬入りのお茶を飲んでおらず、甲はAともみあいになってガソリンタンクのことは忘れ、逃走しているのであるから、既遂に至る客観的危険性がないといえる。
イ. よって、甲の行為は未遂犯の成立要件を満たさず、甲に詐欺未遂罪は成立しない。


(第3問)

〔設問4〕
1, 甲がAの現金を持ち出したことにつき、窃盗罪(刑法235条)が成立しないか。
(1)同罪の構成要件は、①他人の財物を、②窃取したこと、③故意、④不法領得の意思である。
(2)甲はA宅にあった現金をもって逃走しているため、「他人の財物を窃取した」といえる(①充足)。そして、これについての認識・認容も認められる(③充足)。
(3)ア. 不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の物を自己の物と同様にその経済的用法に従って利用・処分する意思のことをいう。
イ. 本件において甲は所有者であるAを排除する意思があるといえるが、「犯行を強盗に偽装するため金目の物を持ち出そう」と考えたのであり、利用処分意思があるといえるかが問題となる。これについて、犯行を偽装するために現金を奪うことについても、その物から生じる便益を享受しているといえるため、利用処分意思が認められると考える。
ウ. よって、不法領得の意思が認められる(④充足)。
(4)以上より、甲の上記行為に窃盗罪が成立する。
〔設問5〕
1, 甲がAを包丁で刺した行為につき、乙に殺人未遂罪の共謀共同正犯(刑法60条)が成立しないか。
(1)共同正犯の成立要件は、①共謀、②共謀に基づく実行行為である。
(2)本件では、甲乙間で、乙がAを睡眠薬で眠らせA宅に放火をして殺人し、火災保険金を得るという意思連絡があったため、共謀が認められる(①充足)。しかし、実際には乙はAを睡眠薬で眠らせることができず、甲はAと揉み合いになったのち包丁で刺している。これが共謀に基づく実行行為といえるか、つまり共謀の射程が及んでいるかが問題となる。
(3)実行行為に共謀の射程が及んでいるかの判断においては、当初の共謀と実行行為の共通性、犯意の継続性などを考慮して判断する。甲がAを指すという行為は当初予定されていた行為と全く異なる行為であり、甲はAから逃げるという目的で刺しているため犯意も継続していないといえる。したがって、共謀の射程は甲がAを包丁で刺した行為にまで及んでおらず、共謀に基づく実行行為とは言えない。したがって、乙に殺人未遂罪の共謀共同正犯は成立しない。

2, 甲がA宅から現金を持ち出した行為につき、乙に窃盗罪の共同正犯が成立しないか。
(1)これについても、甲の行為に共謀の射程が及んでいるかが問題となる。
(2)甲と乙の共謀においてはA宅から金品を盗むという内容は含まれておらず、甲はAを刺した後はじめて、犯行を強盗に偽造するために金品を持ち出そうという意思が生じているため、犯意の継続性が認められない。したがって、共謀に基づく実行行為とは言えず、乙に窃盗罪の共同正犯は成立しない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?