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1978年版ドラマ『人間の証明』論[序文]

1977年秋、角川映画『人間の証明』のCMが毎日のようにお茶の間に流れた。松田優作による「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?」というモノローグと、ジョー山中が歌う「Mama,do you remember…」のフレーズは、深い谷底に飛んでいく麦わら帽子のビジュアルとともに日本全国にとどろき、興行収入は前作『犬神家の一族』を上回る22.5億を記録した。
その封切日である10月8日、テレビドラマ「森村誠一シリーズ」の第一弾『腐蝕の構造』が放映を開始した。畳み掛けるような角川戦法だ。そして、その第三弾として『人間の証明』が用意された。大ヒットした映画の熱気が冷めやらぬ1978年1月7日スタート。否が応でも期待感は高まった。

土曜日、22時。
いきなり画面から少女の叫び声が響いた。
「助けて!!」
過去のドキュメンタリー映像のような、荒れたモノクロ映像。
夜、少女が数人のアメリカ兵に追われている。
終戦直後の記録写真が数点挿入される。
追いつかれた少女は銃を突きつけられ、ほぼ全裸の状態で立ち尽くす。
メインタイトル『人間の証明』。

油断していた視聴者の眼を瞬時に釘付けにする鮮烈なオープニングだった。
「とんでもないドラマが始まったのかもしれない」
小学6年生だった私にも、そんな予感がすぐによぎった。と言うより、衝撃の一言だった。そのままドラマの世界に引き込まれ、44年が経過した現在でも尚、私のテレビドラマの最高峰に君臨する全13話を、目撃していくことになる。

1978年テレビ版『人間の証明』(以下、本作と呼ぶ)は、その後あまり再放送もされず(CSでは放送されたが、首都圏での地上波再放送は無かったと思う)、ふたたび観る機会が極めて少なかった。2010年にようやくDVDが発売されたが、2022年現在、どこの配信サービスにも含まれていない本作を観賞する方法は、そのDVDだけである。
私はそのDVDを、今でも繰り返し観ている。少年期に観た作品を後年に観返すと、思ったほどではなかったというケースも少なくないが、本作は逆だった。むしろ大人になったからこそ気づくこと、感じることがたくさんあったし、何度も観ることで、緻密に設計された脚本・演出を隅々まで味わうことが出来た。脚本が早坂暁、メイン監督が恩地日出夫という、かなり贅沢な布陣であることも後年知った。

とにかく本作は、隅々までやたら本気度の高い作品なのだ。
原作を掘りに掘り起こした骨太の脚本。ドキュメンタリー手法と作劇を容赦なく融合した迫力ある演出。こってりとしていながらもテンポが良く、今の感覚で観てもダレるところがほとんど無い。脚本と演出が素晴らしいから、当然、俳優たちも魅力的である。それらの詳細については、総論編、各話解説編でじっくり語っていく。

繰り返すが、私にとって本作は、首位の座を数十年抜かれることがなかった、永遠の傑作ドラマである。その作品への愛をいつか文章にしたいと思っていたが、今回、遂にそれをまとめることにした。拙い文章ではあるが、この作品を愛好する人たちに少しでも届いてくれたら嬉しい。
それでは、この稀代の名作の観賞機会がもっと増えることを願いながら、そろそろ本論に入りたいと思う。
([総論]に続く)

※全編ネタバレだらけになることをあらかじめお断りしておきます。
※本稿は、作品論~各話詳細解説の順に、順次公開していきます。

【作品データ】
森村誠一シリーズ「人間の証明」
放映期間:1978年1月7日 - 1978年4月1日(全13話)
企画:角川春樹事務所/毎日放送
脚本:早坂暁
音楽:広瀬量平
監督:恩地日出夫/大森健次郎/渡辺邦彦/永野靖忠
出演:高峰三枝子/林隆三/北公次/多岐川裕美/岸本加世子/稲葉義男/篠ひろ子/岸部シロー/中丸忠雄/高沢順子/北村総一郎/ジャーニー・カイナ/戸浦六宏/山村聡/岡田裕介/佐藤慶/他

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