見出し画像

『人間の証明』各話解説を終えて

1978年版『人間の証明』は、初見から45年経った今でも、好きで好きでたまらないドラマです。
当時、ブームの渦中にあった作品ですから、それなりに観ていた人はいるはずなのですが、何故かそういう人に出会うことがなく、感想を語り合うという機会は一度もありませんでした。当時、私は小学校6年生。視聴者層はもっと上の年齢の人たちだったんでしょうね。
でも、ドラマの意図は、小学生にもかなり伝わっていたと思います。その後、CSやDVDで何回か視聴し、今回も各話解説のために全話を見ましたが、いまだに初回の面白さが全く劣化していないことに驚きます。展開もスピーディーですし、俳優たちの演技も見応えがあり、飽きるところが無いんですよね。

ということで最後に、魅力的なキャラクターを演じたキャストの顔ぶれを振り返って、各話解説の締めくくりにしたいと思います。

まずはやはり、高峰三枝子でしょう。
総論でも述べましたが、映画『犬神家の一族』の犬神松子に続く犯人役なわけですが、大事な息子がいるという設定も似てますね。殺人を犯しても毅然として隙を見せないけど、最後は罪を語り、自ら命を絶つ。ほぼ同じです(笑)。
そのあとも、『西遊記』の釈迦如来や『火の鳥』のヒミコといった大柄な役どころを、年季の入った往年スターの風格で演じきりました。国鉄・フルムーンのCMを鮮明に覚えている方も多いでしょう。あの時代、生きてる高峰三枝子をリアルタイムで見れてたってことですよね・・・凄い。
本当は、八杉恭子の年齢設定としては10歳程度の誤差があるはずなのですが、一度走り始めたら、そんな細かい設定など気にさせない圧倒的な存在感。この作品の成功に絶対に欠かせなかったキャスティングであると断言していいでしょう。

林隆三は、青春ドラマからシリアス、コミカルな役どころまで、わりと幅広く演じた人ですが、棟居弘一良は当たり役のひとつだと言えるでしょう。頑固で屈折した面を強調した早坂版棟居は、郡陽子、立花典子、那須警部、横渡刑事といった周囲の人たちをさんざん困らせたり、怒らせたり、泣かせたりするのですが、どうも憎めない。そうしたデリケートなバランスの棟居像に、ぴったりの演技だったのではないでしょうか。
そんな好演が角川春樹氏の目にも止まったのか、翌年の『森村誠一シリーズⅡ・野性の証明』でも主人公を演じていますが、こちらは作品全体として『人間の証明』の二番煎じを狙いすぎていて、正直、失敗作と言わざるを得ません。

岸本加世子については、第十二回のコラムに書いたので省略します。

そして北公次ですが、不思議な人ですねえ。役者として、決して成功した人とは言えないのですが、少なくともこの『人間の証明』と映画『悪魔の手毬唄』に関しては、とても良いと思います。郡恭平の馬鹿息子ぶりを、小賢しい芝居など一切せずに、とても自然に演じています。そして、総論でも書きましたが、とりわけ高沢順子との息がピッタリで、どちらが受けの芝居になっても面白いのですが、路子に言い負かされるときが特に最高で、笑わせてもらいました(笑)。

次はやはり文枝捜索隊のふたりでしょうか。
岸部シローというキャスティングは、よく考えましたねえ。ひょろっとした長身、ぬぼーっとした表情、大阪弁という3点セットが、本作ならではの小山田キャラを創造しています。小山田武夫というのは、病弱で、奥さんを寝取られた上に轢き殺されてしまうという、不幸の三重奏が畳み掛ける人物ですから、あまり鬱々と演じられても、観てる方が辛くなってくると思うんですよね。その点、シローの小山田は、いい意味でシリアスになり過ぎない。
中丸忠雄も良かったですねえ。ナオミへの愛情を力説する度に小山田に突っ込まれ、「すみません・・・」と、しおらしく謝るところが好きです(笑)。近年のドラマのように、最終回が15分でも延長出来たら、ふたりの別れのシーンが見れたかもしれませんね。それだけが残念です。

そうだ、山村聰を忘れてはいけません。
近年、山村聰のような恰幅のいい政治家を演じられる役者が少なくなりました。何が上手いって、電話のシーンがリアルなんですよね。電話で喋るとき特有のトーンや間の取り方。隅々まで完璧な郡陽平でした。

多岐川裕美に触れないわけにはいきません。
何はともあれ可愛いです(笑)。訴えかけてくる目力と、微かに鼻に掛かるような甘い声が最高です。当時、このドラマを観て憧れを抱いた私は、好きな女優の名前に多岐川裕美を挙げてました(笑)。

佐藤慶は何が良いって、わずかな手抜かりも認めない厳格な指揮官を、決して力むことなく表現しているところです。最近は、そうしたキャラクターを表わすために、パワハラっぽく演じる役者をよく見かけますが、ステレオタイプっぽくてシラけるんですよね。淡々と断言するだけで緊張感が走る佐藤慶のような作法は、ふと棟居への愛情を覗かせる瞬間のツンデレ効果も抜群です。

・・・ここで、ちょっと余談なんですが、辻萬長が演じた東邦企業の森戸について補足しておきましょう。
本作での森戸は、小山田が連れ込み旅館で手に入れた新見の本に「挟まっていた名刺の持ち主」という、RPGでヒントをくれる村人っぽい人物のようになっていますが、原作では、大事な取引先である新見から、恭平について調査を行うパシリを押し付けられ、クルマを調べるために郡邸に住居侵入までしでかします。その辺がバッサリ切られた結果、〈クエストで立ち寄った村の村人〉になってしまったわけです。

最後はやはり、ダン安川で締めますか。
国籍不明の怪しいキャラクターと言えば、アジア系であれば、藤村有弘かフランキー堺と相場が決まっていましたが、アメリカ系で強烈な印象を残した役者は、ダン安川の戸浦六宏しか思い出せません。ひょっとして早坂暁は、最初から戸浦六宏の当て書きとして書いたのではないか? と思うくらい、他の誰が演じればいいのか、全く想像出来ません。

・・・ということで、いよいよお別れのときが来ました。
ここまで長文をお読みいただき、ありがとうございました。深く感謝申し上げます。
ドラマ『人間の証明』の面白さを伝えようと、私なりに書いてきましたが、作品そのものの視聴には、到底かなうものではありません。今後、CSや配信などで観る機会が出来た際には、ぜひご自身の眼で確認し、楽しい時間をお過ごしください。(DVDであればAmazonに在庫があるようです)

それでは、これまでのテキストを、何度でも楽しめる傑作を世に送り込んだ、現在は鬼籍に入られている偉大なるスタッフ、キャストのみなさんに捧げて、終わりにしたいと思います。

(了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?