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永遠なるヴァン・ヴェール〜Chanel No.19~

初めてのシャネル

説明不要の香り、というのはこの世には多々ある。その最たるものの一本としてはシャネルのNo.5が挙げられるだろう(もちろん、香り酔いをした幼少の頃の思い出も含めて…)。そして、今回のN.19も同じくそのような香りと言えよう。

にしてもシャネルの香水、私自身はちゃんと手にしたことがない。「ちゃんと」、というのは私が持っているシャネルの香水は祖母から譲ってもらったNo.5のPと80年代のCOCO、そしてブラインド買いしたアドマイザーの『Cuir de Russie』であり、自分が実際に肌に乗せて購入したシャネルは初めてと言える。
そんなNo.19、面接に行った際にその試験会場の近くに新旧様々な香水を置いてある店があり、なんとなく入ったらまさに天国。正直小さな店だが所狭しと香水が置いてあり、1時間近く入り浸ってしまった。そんなお店だからシャネルなんて当たり前。特にパフュームは未開封のものが多くあり、No.5と一緒にNo.19、ガブリエル、そしてCOCOがあった。その中でNo.19は母から若い頃に使っていたと聞いていた一本。とはいえ、「母の時代のシャネル」である。あまり期待をせずに試してみたら、いつの間にかに手に入れていた。そんなこんなで初めてのシャネルをお迎えしたこととなった。

とろけた飴のような触り心地の良いボトル…

グリーンノートの突風

No.19の歴史などもう説明不要だろう。ココのための香りであり、ココの最後の香り。Googleで「No.19」と検索するだけで、一発で辿り着く香り。これでだけで語り尽くしているといえる伝説的なグリーンノートは、つけた瞬間からその凄み、また永遠(とわ)さえも感じられる。

肌に乗せた瞬間に青臭いガルバナムのグリーンノートの突風が駆け抜ける。そして、アイリスによるクラシカルな粉っぽい香り。それら突風の中に香るネロリの苦味のある爽やかさ。この時点でただものではないと感じる。突風が止むと、ジャスミンやローズの柔らかな香りが出てくる。その辺りから段々と深みが出始め、ムスクとオークモスといったアーシーかつセンシュアルな香りへと移っていく。これはまさに森林の1日。嵐の朝から落ち着いた昼、そしてシルキーな宵へと…まさにアンリ・ルソーの『夢』に描かれた森であって、理想の森。しかしながらやはりシャネル。様々なメゾンの香水が嗅いだとしても、「あーシャネルの香水ね」と一発で分かるあの独特なシャネルの香りが終始一貫してある。いわばグラン・パレのシャネルのコレクション会場で作られた森の如く、どこまでもシャネルであって、だからこそ永遠かつ崇高なグリーンノートなのだ。

シャネル 2013春夏オートクチュールの会場

最後の香りと最初の香り

さて、ファーストノートの「青臭いガルバナム」、これを嗅いだ瞬間にマルジェラの『(untitled)』を思わせた。『(untitled)』も青臭いガルバナムで始まルのだが、『(untitled)』の場合はタバコを思わせる煙いムスクと相まって、アトリエの画材類を思わせるいい意味で人工的な香りが香ってくる。この「人工的」というのが個人的にマルジェラらしいと感じているところであり、色々思い出のある香りでもあるのだが、この『(untiteld)』、マルジェラ本人が既に退任した後に生まれた最初の香水でもある。

ところで既にマルジェラがMMMを退任していた2009年、ロワトフェルドがマルジェラ本人にフランスの著名なデザイナーをトリビュートした服のデザインを依頼したという。その際に彼がトリビュートした「デザイナー」は誰かご存知だろうか。そう、ココ・シャネルだったのである。マルジェラはあの著名な「シャネルスーツ」の再構築したスーツを制作し、しかもそれをラガーフェルドが撮影した(着ているのはラガーフェルドのミューズ、バティスト・ジャビコーニ)という逸話があって、そんな話とシャネル女史が最後に生み出したNo.19、そしてNo.19を感じさせるマルジェラなきマルジェラが最初に生み出した『(untiteld)』…それらに妙な繋がりを感じるのは私だけだろうか…

ちなみに面接で落ちてしまったということもあり、No.19を購入したお店はそれ以降は行っていない。逆にそんなお店が職場の近くにあったら破産していただろうと思いながらも、もし今後、その場に勤めることができる機会があったらゲランが欲しいな(ゲランも新旧、豊富にあった)を計画している…って何しに行くんだ私…

両方とも無駄のないデザイン


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