赤い口紅が似合わない

憧れはある。

赤く、びっと塗られた大きめのくちびるは、元気そうで

豪快そうで、すごく魅力的だから。

でも、私の中途半端にちっさいくちびるを赤く塗ると

イメージですが、おばあちゃんの整理ダンスの上にある

ガラスケースの隅にたたずむ、おみやげの人形のごとし。

いつの時代であっても、時代遅れ感が否めません。

それでも、ひとは時として

おみやげに、おみやげものの人形にならざるおえない

赤い口紅をくださいます。

立派なシャネルとかです。それでも、私には赤すぎる。

さて。

そんな使わない口紅を化粧ポーチに忍ばせたままだったのでしょう。

わたしはGEISAIという村上隆さん主催のアートイベントに

短歌で参加することにしました。

短歌を気にもせずに生きている人たちに、わたしの短歌を届けたい

という気持ちで、何回か参加したのです。

そのときは、いちばん小さいスペースを借りて、自作の絵に

短歌をコピーみたいにつけたような気がします。

見まわりにきた村上隆さんが

「これだけ?」

と驚かれました。

そして、

「その横の壁、使っていいよ」

借りたスペースより、ずっとずっと広い会場の壁を

どうせ撤去するから書いてもいいと

ゆび指してくださいました。

村上隆さんの太っ腹に驚いたのはもちろん、大感謝です。

短歌を書こう。いっぱい書こう。

そういえば、赤い口紅がある。

あれで書こう。

ゆび先を口紅で赤く染めながら、大きく書いたり小さく書いたり

ねじれて書いたり、とごちゃごちゃ書いた。

赤い口紅がぜんぶなくなるまで書いた。

もろいとき赤えんぴつの先ほどの弱いちからで折れていたんだ

悲しいといえば悲しみへらないし悲しくないといえば淋しい

夕立ちにかくまわれてる二人には話すことなどなくてもよくて

ふれあったところがとけてどこまでが君か僕かがなくなればいい

点だった光をつなぎ星座とは呼ばずにきみは希望といった 

#赤い口紅 #短歌






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