坂口安吾 『長島の死』 ☆9 人は自分の追悼集を読めない
四十九日の法要に参列した。喪服はいつもわたしに奇妙な焦燥と嫌悪を与えてくれる。コロナのために長らく顔を見ていなかったし,通夜も参加できなかったから,この四十九日がある意味,最初で最後の対面だった。遺影の顔は記憶より少し細いような気がする。掛け軸の文字はどれも読めない。住職は教科書でもめくるような手付きで経本を読みすすめ,わたしは汗で滑る数珠を手のひらで転がしながら,ろうそくの揺れる火を見つめていた。ここは都心の一角にある小さな寺で,ときおり背後から響く車の走行音が,非日常な空