エレキング

今回18年ぶりに雑誌「ele-king 」のお手伝いをしました。

コーネリアスのアルバム『Mellow Waves』の発売時にタワレコで行われた野田努さんとばるぼらさんのトークイベントを見に行き、終了後に昔お世話になった野田さんに数十年ぶりに挨拶をしたことがきっかけで、話の流れで何故かwebでまた原稿を書くことになってしまったのが今年の7月のはじめ。レビューを書くにあたって最近の好きな音楽を幾つか挙げた中にDYGLの名前を出したのは私だけど、その延長で10月頃に「紙版ele-king年末号の表紙がDYGLに決まったのでインタビューをしてほしい」と突如連絡がきた時は嬉しい反面、さすがに少し慌てた。インタビューは98年に友人のDJにして以来だったし、大の苦手。それでも何よりまずDYGLが表紙だという事に「やるな、エレキング。偉い!」と喜んだのは、私がただのファンだからというのもあるけれど、最近のele-kingは年齢層が高めの敷居の高いインテリジェンスな雑誌という印象があったから。

話を受けたはいいけれど、そもそも喋るのが苦手だからこそ文章なんて書いてるわけだし、なかなか思うようにはいかなくて、それでもインタビューとして成立できたのは野田さんとDYGLのボーカルの秋山君のおかげ。私は喋るのが上手い人をあまり信用していなくて、どちらかというと端の方でじっと黙っている人の方にシンパシーを感じてしまうのだけれど、秋山君の丁寧な受け答えには心底感心しっぱなしだった。後日テープおこしをしていて驚いたのは、ひとつの質問にじっくり長く答えているのに、同じ言葉を何度も使わないこと。頭の回転が早い。そして真摯に答えてくれるのは、自分たちのことを誤解されたくない気持ちが強いんじゃないかなという気がした。他のインタビュー記事を読む限りいつもそんな感じみたいだけど、ライブなんかを観てもDYGLは秋山君のワンマンバンドでは決してないと思っているので、本当はメンバー全員にもっと喋ってもらえるようにと意気込んで行ったものの、私の力及ばずで無念の結果に。でもねー、実は唯一メンバー全員がちゃんと喋ってくれた場面があって、そこは会話も一番盛り上がって楽しかったんだけど、ele-king的には重要ではなかったようで、まあ紙面を見ればそうだろうなとは思うけれど、編集に関われない身としてはちょっと残念だった。それから“Nashville”という音源化されていない曲のリリースの予定はありますか?という質問に、「進捗状況1%なので全く分からないです。やってみたい曲ではありますけど。」と答えていたのを聞いたうえで、先日のリキッドルームでの“Nashville”の胸を掴まれるような素晴らしい演奏を観て、あの曲が良い方向に進むといいなと願う気持ちが更に強くなった。
(ライブレポートはこちら→ http://www.ele-king.net/review/live/006063/)

しかしまあ、今年のはじめにこんなことを書き連ねていた自分がまさかDYGLにインタビューできるなんて嘘みたいなこと。

ele-kingは元々、90年代半ばのテクノ・ムーブメントの中で生まれたクラブ・ミュージック誌で、若者向けのクラブ・カルチャーやその周辺の事柄を主に扱っていて、私は95年に発売された創刊号をCISCOテクノ店で購入し、そこに載っていた記事にたいそう感動して翌年にドイツのラブ・パレードに参加してしまったほどの熱心な読者だった。その当時の紙面には立派なライター陣だけじゃなく、DJやレコード屋の店員や私のような素人のミニコミライターが雑多な感じで名を連ねていて、その時から社会的なコラムももちろんあったけれど、もっと読者との距離も近くて何でもありだったし、そもそも私が97年辺りからしばらく書くようになったのも、ele-kingへの不満をシュガースウィートに書いて編集部に送りつけたことからだった。口の悪い生意気な小娘の発言を野田さんは「祐子ちゃん、いいね~」といつも笑って認めてくれて、今振り返ると本当にありがたかったと思う。その後、仲の良かった編集部の子達が辞めてしまったのと同時に原稿の依頼がなくなり、その翌年の2000年にele-kingが休刊をしてしまったことをずっと残念に思っていたので、私が子育てをしていた間に季刊誌としてele-kingが復活していたことを知った時は嬉しかった。そして今回、私が10年ぶりにちゃんと音楽を聴き始めるきっかけのひとつとなった日本の新しいバンドの記事でまた関わることが出来たことは本当に感慨深いし、こんなことってあるんだなあとまだ不思議な気持ちでいる。何でもない一曲が誰かの思い出に残るように、自分にとってこの号が大切な一冊としていつまでも心に残るはず、きっと。音楽雑誌ってそういう、特別なもの。

私はどうせこの時の気持ちを忘れてしまうだろうから、ちゃんと書いておく。それは無駄な時間なんかじゃないんだ、ってね。

(ele-king21号は絶賛発売中です。よろしくお願いします!)








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