フジロック2017 コーネリアスLIVE

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ステージの幕が落ちて姿を現したコーネリアスがまず最初に演奏したのは「さよなら さよなら バイバイ アディオス」という歌詞で始まる“いつか/どこか”だった。15年ぶりに観る私に向かってなんという挨拶だ、と心の中でツッコミながらも顔が緩み、軽快な演奏を笑顔でじっと見つめた。白いシャツに黒いパンツでシンプルに揃えた4人の姿はまるで測ったように等間隔に美しく並んで、このフェスティバルの1番大きなグリーン・ステージに配置されたのに、本人達は過剰に目立とうという気はあまりないらしい。

このあとコーネリアスの演奏が終わる頃に、同じ会場の入場規制のかかるホワイト・ステージでは小沢健二の演奏が始まる。フリッパーズ・ギターのファンにとってどちらを選ぶかはまったく笑えない苦渋の決断となるけれど、私の心は決まっていた。6月に出た『Mellow Waves』が何より素晴らしかったことと、アルバムの発売時のタワー・レコードのインストア・イベントで昨年のファンタズマUSツアーの映像を大画面で上映されたのを体験してしまったこと。その2つがこの場所でコーネリアスを最初から最後まで全部観ようという決め手となった。決意は固い。

続く2曲目は“Breezin'”。「くもり はれま くもり」「こさめ ぽつり ぽつり」という言葉が音とともにぱらぱらと交互に薄いグレーの空に散らばって、目の前のシャボン玉の輪のように弾けて消えていく。そしてアルバムの中でも重要な繋ぎの役割を果たした“Helix/Spiral”は、ここでもまた『Point』の曲にさかのぼる流れをスムーズに作ってくれる。“Drop”の映像の楽しさ、途中の堀江博久と大野由美子の綺麗なハーモニー、“Point of View Point”のあらきゆうこの変則的なドラミングの技に惚れ惚れし、“I Hate Hate”では大勢の観客の前でちゃんといやーな感じの舌打ちをする小山田圭吾の変わらぬ姿に痺れた。

披露した曲は『Sensuous』からのものが多く、前作からとはいえ11年も経つというのにまったく色褪せない鮮度に驚いたけれど、なかでも圧巻だったのが“Wataridori”。スクリーンに映し出された2羽の渡り鳥の姿と、背中を押すように走る研ぎ澄まされた演奏がシンクロして段々とスケールを広げていくのがドラマチックで、最後はそのまま夕暮れと共に苗場の山の中へ消えていったように見えて、それはもう鳥肌が立つほどだった。

その名のとおりのドリーミーな新曲“夢の中で”や、ユーモアたっぷりのギターが冴えまくる“Beep it”、その後も“Fit Song”、“Gum”など、「はじめてのコーネリアス」と呼んでいいような期待通りの代表曲をずらりと並べ、すっかり夜も更けた終盤に“Star Fruits Surf Rider”のイントロが流れると客席からわっと歓声があがる。待ち焦がれていた久しぶりの音にたちまち胸が躍る。なのにうまく体を動かせない。踊れない。そのとき、コーネリアスは「誰もいなかった。」と呟くように歌った。周りには沢山の人がいるのに、そこには本当に誰もいなかった。昔コーネリアスを一緒に聴いていた人も、ホワイトとグリーンのどちらに行くか直前まで迷っていた人も、さっきまで一緒にいた友人もどこかに行ってしまい、可笑しいほど見事に誰もいない。もちろん猫も側にいない。数万人の孤独な単体が、行き交う人々の波に肩を押されながら、誰ともリズムを合わせられずに、ただそのステージに酔いしれているだけだった。一体感を求めず、ひと言も喋らず、大きなスクリーンに映像を映し出し、その下で真摯に音楽だけを奏でるコーネリアスをこの無限に広がるグリーン・ステージに置いたのは正解だ。自分がここにいることも。ブレイクビーツをさらに打ち砕いたようなうるさくてロマンチックな音に浸りながら、うしろにエイフェックス・ツインが待機してることを思い浮かべて胸が熱くなった。

曲が終わったかどうか伝わらないくらいの大きな拍手にかき消された状態で、最後の曲の“あなたがいるなら”が始まる。息を呑むほど美しいドラム、誰かを想うような切ないギター、甘美なシンセベース、全体を彩るピアノのエレクトリックな音色、優しい歌声。あの完璧な音源を一音一音しっかり丁寧に再現してくれている。会場を包みこむ適温のソウル・ミュージック。今夜はあちこちで特別な音楽が流れていて、それを待ち望んだ人達が楽しく騒いでいることだろう。2017年7月にこの曲を聴くために私はここに来た。コーネリアスを選んだことに後悔はない。レコードを再生する以上の味わい深い余韻を残した完璧な演奏のおしまいに、ステージ前方に笑顔で並び一礼した勇敢な4人。その姿を目に焼きつけながらも体は動かず、最後はそこでしばらく立ち尽くしていた。不思議と涙は出なかった。心ではないどこかが動かされたような気がした。

#Cornelius  
#Fujirock




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