私の好きなカバー曲
歳をとると自分の核になる本来持っていた性質みたいなものが突出してくるらしいよ、それで変な趣味とか始めたりするんだって、と10年くらい前に友人が話していた。それは多分悪口だったと思う。けれど子育て奮闘中だった当時の私は、この忙しさが落ち着いたら自分は一体何を始めるんだろう?と少し期待していた。40代半ばを過ぎた自分の姿があまり想像できなかった分、どこへ向かうのか興味があった。しかし10年後。台所で音楽を聴き、リビングで音楽を聴き、暇さえあればプレイリストを作り、感想というほどでもない言葉をちまちまとメモしてスマホに打ち込んでいる。同じだ。高校生の頃と、20代の頃とやってることまったく同じ!これが自分の核になる性質なのかはわからない。でも全然飽きないし、時間さえあればいつまでもできる気がする。そして最後に誰かにちょっと伝えたくなるのも同じ。
昨年まで担当したラジオの選曲のカバーがテーマの回で作成したプレイリストにその後も好きなカバー曲をぽんぽん放り込んでいたらかなり溜まったので、50曲に絞って聴きやすく並べたプレイリストを作成してみた。そして年間ベストの記事で1曲ごとにひと言コメントを追加したのが結構楽しかったので今回も書いた。何をやっているんだろう、と時々我に返る瞬間もあるけれど。たまには子育てブログでもやったら?と家族には言われる。
お子さんがいるのに現行の音楽もちゃんとチェックしてるなんて偉いですね、と音楽好きの人に以前言われたことがあった。それは多分褒め言葉だったと思う。けれどじゃあ音楽は独身の若者が聴くものなのか、それともお金に余裕のある3〜40代の男性か?としばらく考え込んでしまった。確かに見える範囲では少ないかもしれないけれど、手芸をしたり絵を描いたり石を集めたり曲を作ったりするような感覚で、音楽を聴いて好きな曲のプレイリストを作成しながらついでに文章書くのが趣味の子持ちの中年の女性がいてもいいんじゃないかと私はいつも思っている。それを変な趣味だと言われない場所を探して残りの人生を過ごそうと決めている。
1.Rainy Days and Mondays/Insecure Men
ファット・ホワイト・ファミリーのソウルとチャイルドフッドのベンのユニットによるヘロヘロなカーペンターズのカバー。このアルバムにはベンの名前が無いのでもしかするとソウル1人のユニットに変わったかもしれない。
2.Born to Be Wild/The Moog Cookbook
ベックのサポートでおなじみの、元ジェリーフィッシュのロジャーのユニット。モーグシンセでロックの名曲をいくつもカバーしていて、ほかにも「Ziggy Stardust」や「Hotel California」なども楽しい。
3.トランジスタ・ラジオ/子門'z
〈ドリルキング〉のコンピレーション・アルバムに収録された電気グルーヴの変名ユニットによるRCサクセションのカバー。電気は大昔の「レモン・ティー」のカバーも好きだった。
4.Funky Town/木村カエラxxx石野卓球
ディスコファンクの名曲をカバー。しかもコラボの相手は自分のDJでも愛用するほど「Funky Town」が大好きな石野卓球ときた!
5.Plastic Love/CHAI
昨今のシティポップ・ブームの火付け役となった竹内まりやの曲をCHAIがカバー。少し前に同じ曲をtofubeatsもカバーをしていて、そちらも甲乙つけ難いチャーミングな仕上がり。
6I Talk To the Wind/Dana Gavanski
様々なアーティストにカバーされて続けているキング・クリムゾンの曲。美しいメロディにダナのアンニュイな歌声がハマり、ただただ心地よく素晴らしい。いい曲はこうして自然と語り継がれていくのだろう。
7.Dear Future Person/SOA
ウルグアイ・ジャズのギタリストによるコーネリアスの「未来の人へ」のカバー。日本語うまいな!同曲の作詞家・坂本慎太郎が歌ったヴァージョンとあわせて聴き比べたいところ。
8.Passionfruit/ Cornelius
ドレイクの曲の雰囲気はそのままでさらっとコーネリアスサウンドに交換したような自然なカバー。そして近年の小山田圭吾の歌声をしっかり堪能できる曲。
9.Passionfruit/Yaeji
続けて韓国系アメリカ人でDJ、プロデューサーのイェジによる「Passionfruit」も置いてみた。ほかにベニー・シングスのポップなヴァージョンもあるので比べてみるとまた面白い。
10.Love Is Blue/The Magic Theatre
〈Elefant Records〉のマジック・シアターというユニットによる、ポール・モーリアの「恋はみずいろ」のカバー。原曲のノスタルジックな温度を保ったままでアルバムの真ん中に違和感なく置かれているのがよかった。
11.Dancing Queen/ Christian Lee Hutson
クリスチャン・リー・ハットソンによるまったくテンションが上がらない、むしろうすら寂しい気分になるアバのダンシング・クイーン。この人は「There She Goes」や「Just Like Heaven」など、カバーの選曲も最高。
12.Revival/Aldous Harding
オルダス・ハーディングの新曲がやっと出た!と思って聴いてしまい、ディアハンターのカバーだったとあとから気づいた。4AD繋がりかな?
13.Something About Us/Pomplamoose
カリフォルニアのパンプルムースというユニットで、ダフトパンクの曲をファンキーなアレンジのバンドサウンドに衣替え。昨年のラジオでもかけたイチ押しカバー曲。
14.Strange Overtones/Whitney
ホイットニーのカバーアルバムはどれも素晴らしくてローチェズの「Hammon Song」と迷ったけれど、デヴィッド・バーン&イーノの名曲をまるで自分たちの曲のように変化させたこのアレンジはどうしても外せなかった。「Strange Overtones」はプールサイドによるメロウなヴァージョンもおススメ。
15.Friday I'm In Lovn/Yo La Tengo
ヨラテンゴの手にかかるとキュアーのときめくフレーズの数々も鳴りを潜め、金曜日も通常運転という感じのカントリー調に変化するのが面白い。
16.Walking the Cow/Beabadoobee
ダニエル・ジョンストンのこれを選曲している時点で高得点だし、ビーバードゥービーは次期オルタナ女王で間違いなしと押しまくりたくなるハマり度。
17. Creep/Arlo Parks
前にも書いた、イギリスのミュージシャンはレディオヘッドをカバーするのがもはや通過儀礼か!?という一例。どちらかというと気に病むウジ虫側のほうにそっと寄り添うようなアーロ・パークスの優しい歌声にじーんとくる。
18.Weird Fishes/Lianne La Havas
リアン・ラ・ハヴァスの3rdアルバムに収録されたレディオヘッドの渾身のカバー。ゆっくりと体温を上げていくようなパワフルなボーカル。この曲を選ぶんだ!という驚きプラス、タイトルが示すとおりアルペジオが無いのが興味深い。
19.Arpeggi/Kelly Lee Owens
そしてケリー・リー・オーウェンズは同時期に発表されたアルバムの1曲目でリアンと同じ曲「WeirFishes/Arpeggi」のアルペジオをインストでエレクトロニックに仕上げるという、まるで示し合わせたかのように対照的なカバー。繋げて聴くことで2度美味しくなります。
20.L.I.N.E./Beach Fossills
先ほどのケリーのアルバムの中盤に収録された曲をブルックリンのビーチ・フォッシルズがカバー。既発のアルバムをジャズアレンジでセルフカバーしたアルバムのリリース前にこんな面白いチョイスをやってのけてしまう彼らの振り幅の大きさに脱帽する。
21.There is Nothing More to Say/The fin.
アコースティック・セッションになると美声がより一層際立つフィンがミレニウムを演奏するなんて、そりゃ絶品に決まっている。Mewのカバー「She Came Home for Christmas」と迷いに迷った末、こちらに。
22.I Love You Like The Way That I Used To Do/Sobs
シンガポールのインディーバンド、ソッブス。数年前に再始動したのも記憶に新しいロケットシップの代表作から。これがとにかく瑞々しいのだ。
23.Darklands/Primal Scream
元ジザメリのボビーが自分が脱退した直後のジザメリの曲をジザメリが古巣の〈Creation〉に復帰したタイミングでカバーするという、友情で支えられた哀愁のダブが素敵。
24.Train in Vain(Stand by Me)/Rostam Batmanglij
昨年リリースの素晴らしいアルバムのデラックス・エディションのボーナストラックに追加されているクラッシュのカバー。直球だけどサックスの音色を加えてみたり、ロスタム特有の甘さをここでも感じられる。
25.Love(feat.Juliana Giraffe)/Alex Izenberg
AIが教えてくれたロサンゼルスのSSW。ど真ん中すぎて誰も狙わなくなったジョン・レノンのカバーを敢えて今やっている感じがなんだか新鮮で、何度も繰り返して聴いた。
26.Teardrop/ACO
マッシヴ・アタックの代表曲をバンドアレンジで演奏。かつての「帰れない二人」といい、ACOのカバーは曲のチョイスがいつも素晴らしい。
27.グッド・ラック/坂本慎太郎
野口五郎の和製AORなサウンドをイントロにしっかり残していたはずなのに、たった4分でじわじわと坂本慎太郎ワールドに染め上げていき、しかしアウトロで再びオリジナルに近づくという、狐につままれたような摩訶不思議な世界。
28.I'm Not In Love/Local Natives
最初に聴いた時にはカバーと気づかず10ccのオリジナルだと間違えたほど、まんまなカバーで逆に面白い。ローカル・ネイティヴスは「Warning Sign」のカバーも捨てがたい。
29.By This River/EGO-WRAPPIN'
エゴ・ラッピンの「異邦人」のカバーを探して聴いていたら出会ってしまったブライアン・イーノのカバー。原曲に忠実で非常にシンプルな楽曲がとても沁みる。
30.色彩のブルース/中森明菜
そして同じく「異邦人」の明菜ヴァージョンを聴いていたら、なんとエゴ・ラッピンのカバーを見つけてしまった!低い歌声がハマって極上の出来よ。
31.Limit to Your Love/James Blake
名カバーといえば絶対に外せないこれ。もはやオリジナルより有名になってしまった感あり。ファイストの原曲の歌詞が持つメッセージは変えずに、こんなにアプローチを変えてしまうのかと驚く、壮大でずっしり重たい愛の歌。
32.Owari No Kisetsu/レイハラカミ
これも原曲の雰囲気をガラッと変えて自分の色に塗り替えた好例。くるりの「ばらの花」のリミックスを聴いていたせいでこれも岸田繁がボーカルだと思い込んでいたら、なんとご本人が歌っていたという。
33.ファイアークラッカー/Khruangbin
YMOもカバーしていることで有名なこの曲を、クルアンビンもファンクなアレンジで挑戦している。来日時のライブで披露した際にはひときわ盛り上がっていた。
34.It Makes You Forget(Itgehane)/The Orielles
2018年にクラブ・ヒットした韓国出身DJのペギー・グーの曲を、リヴァプールのインディーバンドのオリエルズがその年にカバー。絶妙な選曲といいスピード感といい、UKならではのセンスの良さにときめいた。
35.1つの魔法(終わりのない愛しさを与え)/cero
それまであまり理解していなかったceroをちゃんと聴き始めるきっかけとなった小沢健二の曲。カバーを通じてバンドの魅力がわかりやすく伝わった嬉しい出会い。
36.Travel Agency/落日飛車
爽やかな原曲をテンポを少し落として大人っぽく仕上げた、台湾シティポップの完成形のようなシャムキャッツのカバー。日本語が少しくすぐったく感じるところも非常にいい。
37.This Charming Man/Los Stellarians
カリフォルニアのロス・ステラリアンズというユニットによるスミスのカバー。原曲より少し跳ねたリズムが好き。確かApple Musicでフォローしている方のプレイリストから見つけた曲。
38.いちょう並木のセレナーデ/原田知世
定期的に数々の名曲をカバーしているなかでも小沢健二のこの曲が特にお気に入り。透明感のある歌声がメロディをグッと引き立ててくれている。
39.中央フリーウェイ/野宮真貴
数々の名曲をカバーしている人その2。野宮さんの艶とハリがある歌声にうっとりと聴き惚れる、エレガントな荒井由実のカバー。
40.夏のお嬢さん/二階堂和美
数々の名曲をカヴァーしている人その3。榊原郁恵のヒット曲を弾き語りで軽快に楽しく歌っている。ニカさんの曲を選ぶ際、クレイジーケンバンドの「せぷてんばぁ」とどちらにするか最後まで悩んだ。
41.真夜中のギター〜千歳烏山テイク〜/UA
千賀かほるの昭和のフォークソング。「甘い運命」のカップリングにナチュラル・カラミティの優しいアレンジで入っていたのをよく聴いていてた。これは別のヴァージョン。
42.The Concept/Benjamin Gibbard
デス・キャブ・フォー・キューティーのベンがティーンエイジ・ファンクラブのアルバム『Bandwagonesque』を丸ごとカバーした中から。このアルバムが心から好きだという気持ちが至るところに滲み出た丁寧な仕上がり。
43.Since Yesterday/Revolver
昨年春にこの曲のタイトルをつけたコラムをnoteで書いた時に、こんなカバーもあるよと友達が教えてくれた曲。トミー・フェブラリーや吉川ひなのなど女性によるカバーが多かったので、男性ボーカルによるカバーが新鮮に感じる。
44. Come As You Are/Dani Siciliano
マシュー・ハーバートの作品でお馴染みのダニのソロ1stに収録。ニルヴァーナの曲をジャズアレンジに豹変させるという、ぶっ飛んだカバー。
45.万事快調/A.K.I.Productions
迷カバーといえば発売当時にかなり話題になったこれ。ピチカート・ファイブの曲を真逆の方向へデスカバーした問題作。何が凄いってピチカートの2人がコーラスに参加しているのが面白い。
46.You Think You're a Man/The Vaselines
イケイケなユーロビートを脱力エレポップに変えてしまう絶妙なセンス!この曲が収録されたアルバムを購入してだいぶ経ってからデヴァインの原曲を初めて聴いた瞬間、改めてヴァセリンズの魅力を再確認できた気がする。
47.Run Run Run/Kurt Vile
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのトリビュート・アルバムより。ナショナルのマットやコートニー・バーネット、サーストン・ムーア&ボビー・ギレスピー(しかも「Heroin」!)など聴きどころ満載ですが、そこちょっと長めにお願いしたい……という希望を叶えてくれた、痒いところに手が届くカートのヴァージョンが大好き。
48.Sunday Morning/Flo Morrissey&Matthew E.White
続けてフロー・モリッシーとマシュー・E・ホワイトの素敵なカバーアルバムより。太陽のように明るく、日曜の憂鬱を吹っ飛ばしてくれるヴェルヴェッツに変身させている。
49.Do You Realize??/Lotte Kestner
デペッシュ・モードやスロウダイヴやベックなどの曲をアコースティックにカバーしているSSWを見つけて、よくよく調べたらケミカル・ブラザーズの「Hold Tight London」のボーカルの人だった。ドリーミーではないフレーミング・リップスを堪能できる。
50.All Night/Marika Hackman
ビヨンセの曲をイギリスのSSWのマリカ・ハックマンがカバーしたもの。深い愛を感じるパワフルな原曲もいいけれど、繊細で息を呑むほど美しい抜群のアレンジに心を奪われる。
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サブスクにないもので好きなカバーといえば、フラテリスのボーカルが一時的に組んでいたユニットのコデイン・ヴェルヴェット・クラブがストーン・ローゼスを60年代風にカバーしたこの曲。アルバムのボーナス・トラックに収録されている。
キセルのライブ会場で販売されていたカバーアルバム『Songs Are On My Side』も推したい。細野晴臣、高田渡、ジョアン・ジルベルト、ゆらゆら帝国など、原曲の素晴らしさにキセルの音の豊かさが加わり、どれをとっても素晴らしい。
ここに収録されている「Teach your children」は70年代の曲で、オリジナルがクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング。それを京都のふちがみとふなとというユニットが日本語訳で歌っているヴァージョンをキセルが更にカバーしている。この歌詞が本当に素敵なのです!
キセルのアルバムはカクバリズムの通販サイトでも購入できるようなので、気になるかたはぜひ。
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